144.猫が腐った老女の正体を暴きます(後)

 ネットには、ファンが描いた美織里のイラストがたくさんアップされている。


 そのほとんどがアニメ風の絵柄で描かれていて、最近では、同じ絵柄で描かれた僕のイラストもアップされている。


 床に散らばったB4版の紙――そこに描かれてるのも、アニメ風の僕だった。


 半裸で不敵に微笑んだり、あるいは冷徹な表情でこちらを見下ろしている。


 そんなアニメ風の僕が、


『ふふ。だめですよ、尾治郎さん……あなたの命を助けたのは僕なんだから。僕より先にイクのも……逝くのも許しませんからね……ああっ! 僕の、僕の雷神槌打サンダー・インパクトを! 尾治郎さん! 尾治郎さんの中に! 尾治郎さんの中に! あああああっ!』


 そんなことを言いながら、どうやら尾治郎さんらしき中年男性を犯している。


 そういう、漫画が……


「「「うわ! うわ! うわわわわわ!!」」」


 そういう漫画が描かれた紙――廊下に巻き散らかされたB4判の紙を、僕とその持ち主の女生徒2人も必死で拾い集めた。


 休み時間中で、廊下にいるのは僕たちだけではない。漫画が描かれた紙も、それを半泣きで封筒に戻す僕らの姿も、当然、人目にさらされている。


 なんとか全部回収して――


「「「ふわわわわっ!!」」」


 逃げるように飛び込んだのは、廊下の端の部屋。教室の3分の1の広さもない、授業で使う資料が置かれているような小さな部屋だった。机と本棚と、部屋の広さからすれば不自然なほどに巨大な複合機――スキャナーやプリンターにもなるコピー機――が置かれたその部屋で、僕は。


「「すみませんでした~~~っ!!」」


 いきなり、女生徒たちに土下座されることとなった。


 そして、知ることになるのだった――さんごの言ってた『腐った奴』の正体を。


 部屋のドアには、こう書いてあった。


『印刷同好会』


 と。



 女生徒たちが、話してくれたところによると――


「印刷同好会というのは、自分たちの作った同人誌をコ○ケで頒布するのを目的にしたサークルなんです」


「ジャンルは男性探索者で、その……最近は春田さんの同人誌を作っていて」


「学年主任の蒲郡先生には、コ○ケで声をかけられたんですけど……蒲郡先生も同人誌を作られてて、やっぱり男性探索者ジャンルで活動されてて」


「コピー代が大変だって話したら、同好会を作ってこの部屋を確保してくれて……でも」


 でも?


「蒲郡先生は長○ロマン三部作の頃から活動されてるそうなんですけど、最初がそういう……生モノじゃないジャンルの人だから、私達とは感覚が違っていて」


「私達は、題材にしてる本人とは距離を取ってるっていうか、自分の同人誌を描かれてる本人に見られるのは不味いって考えなんですけど」


「蒲郡先生は、漫画家とかアニメーターに自分の絵を見せるような感覚で、推しに自分の本を送ったりしてて……距離感が間違ってるっていうか、そこだけは真似したらいけないなって」



 さんご:そうなんだよ。さんごチャンネルのアカウントに、擬人化した僕と光が交尾してるイラストを毎日送ってくるバカがいたから、IPを辿って身元を特定したんだ。そしたら、この学校の蒲郡という教師だと分かってね。今日は、そのバカがどんな顔をしてるか見に来たってわけなのさ



「『ぴか×おじ』の私達に『さん×ぴか』を押しつけてくるのも、ちょっとって感じで……」


 そういうことか――でも蒲郡先生、探索者のことなんて知らないし、配信だって見たことなかったって言ってたけど。


「え? 蒲郡先生、めちゃくちゃ配信見てますよ。パソコンとか、私達よりぜんぜん詳しいし! ほら、この『がまがま日記』っていうWEBサイト――蒲郡先生が昔やってたっていうサイトなんですけど、開設が20年以上前なんです!」


 見せられたWEBサイトには、黒バックに白文字で、大量の日記が公開されていた。


 トップページに置かれた『私を敵視する皆さんへ(爆)』とか『誹謗は受け入れますが中傷は断固として叩き潰します(核爆)』といったリンクがどんなページに繋がってるのか気になったけど、なんだか怖くてクリックできなかった。


 女生徒が言った。


「実は、私達も最近スキルが生えて――探索部に入れって蒲郡先生に言われてるんですけど。『探索部に入ったらぴかりん推しに会える』って……私達は、そういうのじゃないのに!」


「うん……入部しなくてもいいんじゃないかな」


「「そう……なんですか?」」

 

「どこの学校でも、探索部っていうのは、生徒が勝手にダンジョンに入って危険な目に遭うのを防ぐのを目的に作られている。スキルを持ってればダンジョンには入れるけど、協会で認定証バッヂはもらって講習を受けてからじゃないと許可が降りないんだ」


「「…………」」


 蒲郡先生への不満をまくし立てた興奮が遅れてやって来たのか、彼女たちの頬が赤くなってくのが分かった。


「だから、スキルを持ってるだけなら、学校側も探索部に入るのを強要しないと思うよ。でも――」


「「でも?」」


「ちょっと……残念かな。僕は探索者になりたくて、でもずっとスキルが生えなかったから――スキルが生えてるのに探索者にならない人を見ると、これは僕の勝手なんだけど、もったいないなって思っちゃうんだ」


「「そんな……ことないです」」


「探索するのは怖いし嫌なこともあるけど、僕は、素晴らしい経験もあったって思ってる」


「「…………」」


「君たちのことは知らなかったけど、もう、なんていうか……知りあっちゃったから。あの人達が入部してたらどんなだったかなって、時々、思っちゃうかもしれない。だから……ごめん。やっぱり、勝手なこと言ってるよね」


「「……あ」」


「じゃあ、忘れるから――さっき見た、あれについては。僕のことは気にしないで――がんばってね」


 そう言って、僕は部屋を出た。

 正確には、出ようとしたら。


「「あの!」」


「?」


「「私達、入部します!」」


「え?」


 だって――


「私達の心のチンコが勃――推してるのは『ぴか×おじ』という関係性ですから!」

「あなた個人についてはなんとも思ってませんから!」

「だから!」

「私達!」


「「探索部に入部します!」」


 よく分からないけど、こうして、探索部の入部予定者が2名増えることとなったのだった。


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