144.猫が腐った老女の正体を暴きます(前)

 探索部の顧問?

 学年主任の先生が?


「探索部の顧問は彩ちゃ――洞木先生だったと思うんですけど」


「そうなのよう。その洞木先生が問題なの! ほら彼女、探索で忙しくてぜんぜん学校に来てないでしょ? 探索部の顧問だからそれも仕事のうちとはいっても、限度があるし……彼女が探索で留守にしてる間、言ったらなんだけど、部員は放っぽらかしになってるわけじゃない? 顧問として、それはどうかという話だってあるわけなのよ」


 いや、それはそうだけど――その代わりに、学年主任あなたが? 言ったらなんだけど、老女といっていい年齢の学年主任あなたが?


「いやだわあ。そんな心配そうな顔しないの! 私だって学生時代はテニス部でちょっとしたものだったのよ? 英語部の顧問もしてたし、いまだって印刷同好会の顧問をやってるんだから!」


 テニス部って……探索とは関係ないし、学生時代って何年前なんですかって話だし、英語部や印刷同好会に至っては運動部ですらないし、そもそも印刷同好会って何をやる集まりなんですかって話だし。


 どう考えても無茶。

 そして無理だ。


「どうだろう、春田君……部員の管理だけでも、蒲郡先生にお願いしてみては」


 蒲郡先生というのは、学年主任の先生のことだ。校長先生の目に宿る光に、既視感があった。正体はすぐ分かった。美織里に無茶を言われている時の僕だ。こういう表情をしてる僕の写真が、ネットに多数アップされている。


 だから――


(助けてあげたい……)


 僕がそう思ったのは、当然の心の動きといえるだろう。頷いて、校長先生を楽にしてあげたい。同情心とも連帯感とも呼べる感情で、一瞬だけ、気持ちが揺らいだのだけど。


 僕は聞いた。


「でも、僕だけでは……そうだ。洞木先生は、なんて言ってるんですか?」


「洞木先生には、後でお話します。だってそうでしょう? これはあなたたち生徒のことを思ってのことなんだから。まずは部員であるあなたに同意してもらってから、改めて洞木先生にお話し――あらあら、ごめんなさい」


 ぴんぽりぱんぱぱんぱんぱぱんぱん――鳴り出したスマホを取り出して、学年主任が部屋を出て行く。それを見送って、僕は校長先生に言った。


「僕だけでは無理です。美織里にも言わないと――あ」


 そして気付いた。


「……(こくり)」


 僕が気付いたことに気付いたのだろう。

 校長先生が頷く。


 なぜ、美織里がいない今日、この話を持ち出してきたのか。


 面倒くさいからだ。


 いきなり美織里にこんなことを話したら、絶対に面倒くさいことになるからだ。


 激怒するだろうか――いや、違う。こんな話を聞いたら、美織里は、ほぼ確実に面白がるだろう。そして更に面白い方向へと話を転がすべく、周囲を面倒くさい事態に巻き込むのだ。


 つまり……校長先生が望んでるのは、僕が頷くことではなく。


「この話は、お断りするという方向で……」

「……(こくり)」


 まだ僕しか話を聞いてない時点で、止めてくれということだったのだ――美織里や彩ちゃんが出て来て、面倒くさいことになる前に。


「ごめんなさ~い。明日から夏休みだから、息子が遊びに来るって。お嫁さんにね、楽してもらいたいんですって。私だって忙しいのに、頼られちゃうのも困りものよね~」


 戻ってきた学年主任に、僕は言った。


「顧問は、現役の探索者じゃないと無理だと思います。僕らの探索部は、競技じゃなくて探索指向ですから。顧問も、一緒にダンジョンに潜れってくれる洞木先生じゃないとだめなんです」


 これに対する学年主任の反応は。


「あら~、そうなのお?」


 というものだった。


 彼女のスマホに付いてるストラップが、やけに印象に残った。


 と――その時だった。

 突然、どこかから。


「にゃお~ん」


 さんごが現れると、僕の膝に飛び乗って、でんぐりかえししながら喉を鳴らしたのだった。


「ちょ、ちょっとさんご。いま大事な話をしていて……」


 慌てる僕の耳に。


「さ、さん×ぴか……」


 そんな呟きが届いて、見ると、はっとした顔になった学年主任が、部屋を出て行くところだった。



「では、そういうことで……」

「そういうことで……」


 そういうことで、僕も校長室を出た。

 教室に戻る僕を、さんごは当然の様に追ってくる。


 光:どうしたの? さんご

 光:顧問の話、知ってたの?


 さんご:知るわけないだろ?

 さんご:今日来たのは、単純なる興味本位だよ


 光:興味って……さんごが興味を抱く、何かがあったってこと?


 さんご:そうさ。ネットで見つけた腐った奴を追いかけてたら、ここに辿り着いたんだ。


 光:それって、僕の個人情報を晒したりとか?


 以前もあったことだ――美織里のファンの柴田先生と言う人が、僕の個人情報をネットに書き込んで学校をクビになった。


 さんご:それより、たちが悪いかもね

 光:どういうこと?


 ぞわっと嫌な予感が沸いて慄く僕だったのだけど。

 問いに答えることなく、さんごは。


「「きゃーーーーっ!」」


 すれ違った女生徒達に、飛びかかった。


「えっ!? さんご」


 意味不明な行動に驚く僕は、その数秒後、更に巨大な驚きで、驚きを塗りつぶすことになる。


 女生徒達が持ってた封筒が宙を舞い、中身が廊下に巻き散らかされ。B4版の紙が床を覆い、そこでは――


 僕が、中年男性を犯していた。


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