143.猫の言葉に戸惑って(後)
久々に名前が出る健人。
光の従兄弟の陽キャイケメンです。
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翌日は木曜日――
久々に、学校に行くことができた。
美織里は協会支部の事情説明に呼ばれているので、僕一人での登校だ。
美織里と僕の事情説明が別の日になったのは協会側の指定で『口裏合わせるのを防ぎたいんじゃない?』というのが美織里の見解だった。
「(ひそひそ)あ、ぴかりん……」
「(ひそひそ)超レアじゃね?……」
「(ひそひそ)みおりんは?……」
「(ひそひそ)もしかして別れた?……」
ちらちら向けられてくる視線は、ほとんどが興味本位なものだったのだけど、教室に着くと一変。
いきなり、拍手で出迎えられた。
「「「クラスD昇格おめでと~!!」」」
僕がクラスDに昇格したことは、けっこうなニュースになってたみたいだ。クラスD昇格者講習でもいろいろあって、そこでの戦闘の動画がアップされて凄いバズり方をしてるらしい。
『君はしばらくネット断ちした方がいいよ。病むから。それくらいバズるはずだから』
と事前に言われて、ネットを見ていなかったからだった。
世間では、ここまで大騒ぎになってたわけか……
「あのバトル、めっちゃ燃えた!」
「羽とか生えて凄かったよね!」
「すげえカッコよかったよな! 中2っぽくて!」
講習中の戦闘で、僕は『龍族の勇者の鎧』を装備して戦っていた。OOダンジョンで出したのよりずっと装飾過多で羽なんかも生えているフルスペック版だ。
「あれっていきなり着てたよな! あれってどこから出したの?」
「もしかして、いまも出せる?」
「うわ~!! 見てえ~!!」
いや、さすがに
「無理に決まってんだろ? ここであんなの出したら教室が滅茶苦茶になるぞ。動画でもそうだっただろ?」
「そうそう。ぴかりんがあれを着た時、周りの砂が、ばーんって飛んでたよね~。爆風って感じで~」
従兄弟の健人と、その彼女の明菜さんが助け船を出してくれた。
ありがたく、これに乗らせてもらおうと……思った僕だったのだけど。
「うん……生き物が近くにいる時は使っちゃダメって……言われてるから」
こんな口をもごもごさせたような答えしか返せないのは、いわゆるこれが、小並感というやつなのだろうか。
がらり――丁度そんなタイミングで、担任の先生が入ってきて言った。
「お! 春田、今日は来てたか。いきなりで悪いが、お前が来たら校長室に呼ぶように言われててな――来てくれるか?」
「……はい」
朝の教室から校長室――いつもなら校長室でなんやかんやあってそのまま探索に行くことになるパターンなんだけど、今日は違った。
僕をソファーに座らせると、校長先生が言った。
「ああ、春田君……お疲れさま。大変だったね」
すると、校長先生の横で。
「本当に……私も動画を観たけど、あんなに大変だとは思わなかったわあ」
にこにこ笑いながら話し始めたのは、学年主任の先生だ。60歳くらいの女性で、今年お孫さんが生まれたと学年集会で話してた記憶がある。
「初めて観たのよ? 娘に教えてもらって……本当に大変なのね。最初はあなたのチャンネル……だったかしら。動画を探すのも大変で、サム……ネ? あなたの写真がいっぱい並んでたから、そこをカチカチしたら観られるかと思ったのよ。でもね、そしたら全然知らない外国の人が喋ってる動画で、間違っちゃったかしらって思って別の動画をカチカチしてたら今度は日本人だったけど、やっぱり知らない人が話し始めちゃって、もう大変。それでね、娘に電話して家まで来てもらって、アカウントっていうのよね? 作ってもらって、動画も探してもらって、それでようやくあなたの動画を観られたんだけど、本当に大変だったわあ」
と、学年主任の先生が話すのを聞きながら。
(これは……かなりどうでもいい
そう思う僕だった。校長先生も同じなようで、口角は吊り上げながらも、顔のその他のパーツは『無』を表現している。聞いたことがある。『校長は、学年主任に逆らえないんだぜ』と。『大学時代の同期で、どうやらその頃なにかがあったらしい』と。噂は本当だったのか――と、僕がえもいえぬ感慨を抱いていると。
「スキル――っていうの? 私にもそういうのがあるみたいなの。先週、分かったんだけど。でも探索者になるのなんて無理よねえ。観るだけでもこんなに大変なんだから。だけどね、探索部の顧問くらいなら務まると思うんだけど――どうかしらあ? ねえ、あなたはどう思う?」
そう、学年主任は言ったのだった。
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