143.猫の言葉に戸惑って(前)

 探索の後は、車で駅まで送ってもらった。


 そこで待ってた小田切さんと合流して、タクシーで小屋へ。そのまま工房に直行して青いドアを開けると、先に帰ってたさんごと、眠りこける美織里がいた。


「くー、すかー」


 寝息を立てる美織里はぐでっと脱力して、溶けたチーズみたいにマットと同化している。


「美織里……美織里……ごはんだよ……駅地下で人気のロティサリーチキンだよ……」


 揺り起こせば。


「ん~~~。食べさせて~~~」


 むにゃむにゃ言いながら顔だけ起こして、それもまたマットに落ちる。


「「「「「ふにゃにゃ~ん」」」」」


 さんご隊が手伝ってくれたけど、無理だった。


 仕方ない。

 僕たちだけで食べることにしよう。


 この部屋は、さんごがガールフレンドを侍らす『ラグジュアリー路線』の動画を撮影するための場所なんだけど、それとは別に普段使いもしている。


 撮影には使わない座布団やちゃぶ台も、部屋には用意してあった。


「じゃ、いただきましょうか。あらおいしい。そりゃ評判にもなりますよね……っと」


 ぽん。


 僕が探索してる間もホテルに戻って仕事をしていた小田切さんは、さすがにお疲れの様子だった。


 ロティサリーチキンもいま栓を開けたシャンパンも、待ち合わせの前に小田切さんが買っていてくれたものだ。チキンをさいてサーブした後、僕もシャンパンをいただいた。


「でさ、どうだった? 彼女たち」


「普通に強かったですよ。探索の仕方もしっかりしてて、異世界人とか、そういう違和感は感じなかったです」


「その割には、浮かない顔してるじゃない」


「う~ん。なにか地雷を踏んだというか……彼女たちの気に食わないことをしてしまったかなあって」


「んん? なにがあったのよ」


「それがですね……」


 聞かれて僕が話したのは、彼女たち――異世界から来た3人が、僕の動画を見たらしいこと。感想を聞いたら無言になったこと。同じように、僕がモンスターを倒すのを見て無言になったこと。帰りに焼き肉食べ放題に行く話が出たのに、彼女たちが辞退したことだった。


「あなたは、彼女たちの世界の王様の……孫、なんだったっけ? そんな人と初対面で焼肉とか、尻込みしちゃったんじゃない?」


「そんな感じでもなかったんですけどねえ」


「じゃあ彼女たちは彼女たちとして、あなたは? さんごが言ってたじゃない。探索すれば彼女たちを受け入れられるかもって」


「う~ん。受け入れられるとか受け入れられないとか、そういうつもりはなかったんですけどねえ」


「そのわりには、彼女たちのイデアマテリア入りに戸惑ってたみたいだけど?」


「そういう意味では……あまりに突然だったし。そういう小田切さんは、いきなりこんなことになって驚かなかったんですか?」


「驚いたけどね、でも放置してたらロクでもないことになりそうだって予感もあったし。リスク回避って意味の方が大きかったかもね」


「そういうものですか……」


「そういうものよ」


 もしゃもしゃもしゃ……しばらく無言でチキンを食べてたら、さんごが皿から顔を上げて言った。


「光は不安になったんだよ。自分に盛る雌が、また増えるかもって」


 ええ!?


「盛るって……盛るって。僕にそんな……そんなの、美織里以外には……いないし」


「「あ~あ」」


 揃ってため息を吐かれて、僕はそこに理不尽なものを感じずにはいられなかった。


 さんごが言った。


「探索して、いまは落ち着いてるだろ? 彼女たちのイデアマテリア入りに胸を騒がせずに済んでいる。それは探索中に理解したからさ。彼女たちが盛ってるのは一ノ瀬で、彼女たちの情欲が自分に向けられることはないって――そういうことを感じたから、いまは安心できてるんじゃないか?」


「……確かに、それは分かった」


 探索中の彼女たちは、3人が3人とも、一ノ瀬さんに褒められたくて仕方ないオーラを放っていた。最初に一ノ瀬さんの家で感じたハーレム感が、探索を続けるうちにどんどん濃密になってくのが分かるくらいで。


「それにしても、一気に増えましたね。イデアマテリアの契約配信者」


「そうねえ。ちょっと数えただけで……18人。療養中なんかで契約待ちになってるメンバーを含めれば20人を超えてる。そうだ、さんご。さんご隊って増やせない? 動画編集のスタッフを増強したいんだけど」


「難しいね。残念なことに。いまいるさんご隊に新人を加えても軋轢が生まれそうだし、別の拠点ブランチを作ってそちらに配置しても問題は変わらない。いい外注を知ってるから、そちらに回せるか問い合わせてみようか?」


「お願い。スターダッシュを決めるには動画の本数が必要なのよ。うちの配信者は凄腕揃いだけど、動画編集者も負けないくらい凄腕――そういうブランドイメージで圧倒したい。まあ、やれればみんなやってるよって話なんだけど、幸い、あたしたちにはそれがやれる――頼りにしてるわよ。本当に」


 食事を終え小田切さんが帰ると、さんごもどこかに行って、部屋には美織里と2人きりになった。


「むにゃむにゃ。あたしは、別にいいんだけどね~。むにゃむにゃ」


 美織里の寝言は、寝言だから当然なんだけど、何のことを言ってるのか、僕にはまったく分からなかった。


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