142.猫と別れてダンジョンへ(後)

 姫騎士のプリムとエルフのイオに獣人のアコ。


 彼女たちと一緒に、一ノ瀬さんの車でXXダンジョンに向かった。


 全員、レザースーツに探索者ジャケットという出で立ちだ。長耳やケモ耳といった彼女たちが異世界人であることを示すような特徴は魔法で偽装されていて、元々人間のプリムに至っては甲冑を脱いで着替えた時点で全く違和感がなくなっていた。


 もっとも彼女たちの美しさは別で、まったく偽装できていなかったのだけど。


「おい……あれ」

「いま噂の『つよつよ3美人』か」

「一緒にいるの、ぴかりんじゃね?」

「マジか……ってことは、あの3人もイデアマテリア所属!?」


 XXダンジョンに着くと、いきなりひそひそ話の渦に巻かれることとなった。


 でも3人とも、そういった視線や声には慣れっこらしく、そんなので居心地悪そうにしてるのは……


「…………じゃ、入ろう」


 僕ら5人分の手続きをまとめてやってくれてる一ノ瀬さんだけだった。


 でも表情を固くさせてるのはそれだけではないだろう。ダンジョンに潜るには、協会の探索者認定証バッヂが必要だ。異世界から来て間もない3人は、当然、そんなものは持ってないはずで。


 ということは――脳裏に浮かぶのは、悪そうな顔をしたさんご。それ以上は、深く考えない方がいいだろう。


 ちなみに今回の探索に、さんごは同行していない。3人が萎縮するからというのが、理由だった。


「3人が探索するのを、俺と春田君が後ろからサポートする形で行く。後方監視も怠るなよ!」


「「「はい!」」」


 自己主張の強そうな3人だけど、ゲートを潜って探索が始まると、見事な連携を見せた。


「前方50メートルに三叉路。左右の道にドローンを行かせます……モンスターの反応無し。続けて中央もチェック。反応あり。カメラ映像ではゴブリンが1」


 先導のエルフイオが言うと、僕らに目配せして姫騎士プリムが前に出る。同時に獣人アコが後方に視線をはしらせ、僕らは中央の道へと進んだ。


 すると――


「ヒアゥィッ!」


 イオが言った通りゴブリンがいた。


「せや!」


 それを見つけると同時に、プリムが剣を振るった。彼女が持ってるのはしっかりした作りの片手剣だったのだけど、まるで鞭のようにしなりながら、ゴブリンの首から胸までを抉って絶命させた。


「ゴブリンを排除。残りモンスター無し」

「三叉路左右からのバックアタック無しにゃ」

「脅威無し。前進再開」


 探索者講習を思い出すような、基本通りの声がけで前進を再開。


 先導役を変えながら奥へと進み、中層の入り口で休憩する頃には、僕にも彼女たちの戦闘スタイルが分かってきた。


「弓よ放て――『炎牙』」


 イオの声がすれば、彼女の手の平に弓の形の光が現れ、そこから放たれた矢がスライムを灼き尽くし。


「くたばれにゃん!」


 アコが振るった槌がゴブリンの群れの1匹を叩けば、叩かれたゴブリンは倒れた次の瞬間に立ち上がり、仲間のゴブリンに襲いかかった。


 自己紹介では3人とも『賢者』ということだったけど、戦い方はまるで違っていた。


 休憩時間に聞いてみると。


「そうですわね……エルフの弓術を模した魔導式で攻撃魔法を放つ、というのが得意ですわね」


 と、イオ。


「わっちは『死霊使い』の魔導式にゃ。打撃でくたばらせて、死体を言いなりにするんにゃ」


 アコのは、かなり物騒だ。

 では、プリムは剣――だけではなかった。


「私は毒ですね。斬撃に乗せた毒の魔導式で、相手を弱らせます。斬れば斬るほど相手が弱くなる、いわば『斬撃逆スライド方式』とでもいったところでしょうか」


 斬られれば弱くなるのは当然だと思うんだけど、そこは突っ込まないでおくことにした。


 難なく中層も踏破して、深層の入り口まで来たところで、今日の探索を終えることにした。


 ふと思い、聞いてみた。


「みんなは、探索者の配信って見てるの?」


「もちろん、見てますわよ」

「探索者になるんだから当然にゃ」

「非常に、興味深く」


 興味深いって、どんなところが?


「その在り方、とでもいいましょうか。私達の世界にも探索者はおりましたが、彼らはダンジョンより持ち帰った成果でのみ評価されていました。しかし、この世界では――なんと言ったらいいのか」


「探索する過程を供して、なによりそれを求める人があんなにもたくさん――驚くしかありませんわね」


「探索しながらお喋りしてお金をもらえるなんて、わっちらの世界じゃ考えられないにゃ」


 確かに配信や動画がなければ、持ち帰った素材や討伐結果で報酬を得るしかない。


 もうひとつ、聞いてみよう。


「じゃあ、僕が探索してる動画も、見てくれたりした?」


「「「…………」」」


 え?


「うん、まあ。勉強になったみたいだよ」


 一ノ瀬さんがとりなしてくれたけど、これって見てるってことだよね? 見た上で、僕には言えない感想なにかを抱いたってことだよね?


(レベルが、低すぎたとか? それとも、異世界基準じゃ不味いことをやらかしてたとか?)


 どきどきしながらの帰り道、ふと見ると。


「ゴブリンの巣だ――ちょっと片付けちゃうね。暴食暴虐のヒマワリファイアクラッカー


 見つかりにくい場所にゴブリンの巣があったので、特に考えることもなく全滅させた。


 すると――


「「「…………」」」


 さっきと同じ、何か言いにくいことを抱えたような表情で、またも彼女たちは沈黙する。


「さすがの早業だなっ! さあ行こう! 帰りは焼き肉食べ放題だぞ~!」


 今度も一ノ瀬さんがとりなしてくれて、ほどなくダンジョンの入り口ゲートに帰還したのだった。


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