142.猫と別れてダンジョンへ(前)

「『バルダ・ビッカル』は異世界後で『青い空』という意味なんだ」


 なんて、そんな情報をもらっても、いまさら何の感慨も浮かばなかった。


 一ノ瀬さんの家を訪ねたら3人の美少女がいて、彼女たちがさんごのいた世界から来た異世界人で、件の『大顔系』が彼女たちがこの世界に来るための乗り物で、僕が100年ほど前この世界に来た、彼女たちの世界の伝説の王様の孫だっただなんて、設定の渋滞なんて言葉では言い表せない状況の前では。


「だからいいよ、そういうのは。初対面じゃないんだし。契約した時に言っただろ? 僕も君たちと同じ、イデアマテリアのいち契約配信者にすぎないんだからさ」


 さんごがそう言ったのは、美少女3人が、部屋の隅で平服、というより土下座してぶるぶる震えていたからだ。


 彼女たちの世界で、さんごは伝説の猫神『トレンタ』として奉られているのだという。


「ほら、擬態も解いていいから」

「「「はは~~~っ!」」」


 3人が顔を上げると、彼女たちの周囲で紐の結び目が解けるように光が舞って、すると――


(姫騎士に……エルフに……獣人?)


 3人とも、確かに異世界人なのだろうという姿へと変わっていた。


「自己紹介して」


 さんごに促され、名乗り始める。


 まず1人目は、甲冑を着けたいかにも姫騎士といった出で立ちの彼女。


「プリム・ダ・ドーンでございます。ブマの国の賢者でございます。『バルダ・コザ』様の足跡を辿るべく、この世界に罷り越しました」


「ちなみに『バルダ・コザ』は異世界語で『燃える空』って意味だから」


 いやさんご、とりあえずいまは、そういう情報はいらないから。


「『ブマの国』は『バルダ・コザ』――君のお祖父さんが治めてた国の、東側にある国なんだ。じゃあ次は君」


 2人目は、ローブを纏ったエルフで、髪も肌も透けそうなほど白い。


「私はイオ・ダ・ゾエ。フガの国の第3王女にして王宮騎士団の参謀を務める賢者にございますわ。かつて『バルタ・ミッツァ』様の残せし『武技の言霊ブギーワード』の源流を求める旅の末、この世界に渡りましたの。この度は『バルダ・ビッカル』様のご尊顔を拝する機会を得られまして、恐悦至極に存じますの」


「『バルタ・ミッツァ』というのは君のお父さん。異世界語で『黒い空』。君のお祖父さんもお父さんも異世界で国を治めていたわけだけど、話すとややこしくなるから、そのうち説明するよ――はい、最後は君」


 最後は、髪も目もくりくりした印象の、獣人の少女だった。


「アコ・ダ・ヨーンにゃ。ウバの国の賢者で、さんごトレンタ神様にお伝えしたいことがあって、世界の狭間を渡りましたにゃ」


 というわけで自己紹介は終わったのだけど、彼女たちと一ノ瀬さんが知り合った、というか傍目にはハーレムにしか見えない状態となっているのは、どういった経緯からなのだろう?


 一ノ瀬さんが言った。


「さっきも話したけど、ここ最近、毎日ダンジョンに潜っている。それで先週、彼女たちが行き倒れになっているのを見つけたんだ。最初は――」


「火曜日に、私が」


「そう。姫騎士プリムを見つけて――」


「水曜日に、私でしたわね」


「次にエルイオン。で、最後に――」


「木曜日が、わっち!」


獣人アコを助けて、家に連れて帰った。異世界から来たって言われて疑問に思わないでもなかったが――まあ、最近いろいろあったからな」


「なるほど……」


「ついでに、いろいろと繋がりもできた。というわけで、その繋がりで相談に乗ってもらって……」


「先週末、さんご君に面談をお願いして、無事、イデアマテリアの配信者として契約に至ったというわけ」


 と、小田切さん。


「あの……どうしてそこで、イデアマテリアの配信者になるという選択肢が出てくるのかが理解しがたいというか、よく分からないんですけど」


「この世界で彼女たちが生きてく手段としては、それが一番手っ取り早いからね。イデアマテリアとの契約と探索者としての技能。この2つがあれば身分を偽造するのは難しくない」


「元の世界に、帰るという選択肢は?」


「それはないね。彼女たちは一方通行でこの世界に来たんだ。帰る方法は、行った後で探せばいいという考え方――だよね?」


「「「はい!! トレンタ神様のおっしゃる通りでございます!!」」」


 うわあ……なんて過酷なノープラン。


「というわけで――彼女たちがこの世界に来た目的についても、叶えるにはそれなりに時間がかかる。その間の生活のため探索者になるのは、悪い案じゃないだろ?」


 ううん……


「納得しがたいって顔だね? ほら一ノ瀬。言った通りだろ? 予定通り、彼女たちを連れて光と探索に行ってくれ――そうすれば光も、ちょっとは彼女たちを受け入れてくれるだろう」


 というわけで、とりあえず僕らはXXダンジョンへ探索に向かうことになったのだった。


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