141.猫はいろいろ知ってるようです(後)

「一ノ瀬さんが探索者に復帰したのは、何かきっかけがあったんですか?」


「ああ、まあ……そうだな。前回、君とXXダンジョンに潜っただろう? 誘いをもらったのは、あの後すぐだったんだが――」


「もしかして、その話って……」


「うん。さんご君から」


 XXダンジョンを探索した時、さんごは一ノ瀬さんの前で隠す気すらなく人の言葉を喋っていた。ということは、あの時――いや、それ以前から一ノ瀬さんをイデアマテリアに誘う気だったに違いない。


「さんご君の話ではさ、俺と昔組んでた二瓶って奴とペアでクラスAを目指すっていう、そういうチャンネルをやらせたいってことだったんだけど……それは無理だって、その時は断ったんだ。俺と二瓶だけでは無理。せめてもう1人は欲しい。その1人が見付からない限り、その話は受けられないって――でもな」


「……見付かったんですね?」


「見付かったというか……見つけてしまったというか。イデアマテリアさんの話を受ける受けないは別にしてさ。君といろいろあってから、刺激を受けたっていうか、プライベートで探索することが多くなってさ。その探索で、その……最後の1人が見付かったんだ」


「それで、今日も?」


 一ノ瀬さんの傍らには、探索道具が詰まってると思しき大きなバッグが転がされていた。


「ああ。実は先週から有休を取ってて、今日みたいに外せない要件がある時以外は毎日ダンジョンに潜っている。来月末まではずっとそうで、今日も午後からXXダンジョンに潜る予定――そうだ。君も一緒にどうだい?」


「え? でもXXダンジョンに潜ると――」


 僕が|XXダンジョンやYYダンジョンやZZダンジョン《地元のダンジョン》に潜ると『大顔系』モンスターが出てしまう。


 そして『大顔系』は、それが原因でZZダンジョンがしばらく封鎖されることになってしまったくらい、危険視されてるモンスターなのだ。


 僕が答えに詰まっていると――声がした。


「行ったらいいよ。心配することはない――もう『大顔系』は出ないから」


「さんご……」


 突然現れたさんごに、どこか慌てたような様子で一ノ瀬さんが聞いた。


「まだ、話してなかったのか?」


「ああ。この件については、まだ小田切にしか話していない。で、なぜ小田切には話したかというとだ――ほら」


 ぴょんと膝に飛び乗ったさんごに促され、小田切

さんが言った。


「それは……この件が、イデアマテリアの新しい契約配信者に関わる話だからです」


「というわけで……といっても、これだけは何がなんだか分からないよね? というわけで行こうか」


 行こうって――ダンジョンに?


「一ノ瀬の家さ。そこに、答えがある――いや、答えがいる・・と言うべきかな?」


 というわけで僕らは、一ノ瀬さんの自宅へお邪魔することになった。



 一ノ瀬さん宅への道中はどこか既視感があって、考えてみたら、以前彩ちゃんを訪ねた時にバスで通った道だった。


「ああ、彩ちゃん洞木さんね――けっこう近所。子供の頃から有名だったよ。うちの中学のヤンキーがボコボコにされてたし」


 と、車を運転する一ノ瀬さん。


 彩ちゃん、子供の頃からそんな感じだったんだ……


「ほら、そこの神社の境内でよく決闘してたって。石で躊躇なく殴る小学生がいるって噂で――まさかあの子が、探索者になるなんてな」


 考えなくてもヤバいです。


「大丈夫大丈夫大丈夫……もう大人だからそんなことしない――大丈夫大丈夫」


 と、青い顔で繰り返す小田切さんが平静を取り戻した頃、車が停まったのは袋小路の奥にある一軒家の前だった。


「さあ、狭くて悪いが入ってくれ」


 狭いどころか2階建ての一軒家なんて、山の中の小屋に住んでる僕にしてみれば、豪邸といってもよかった。


「ただいま~」

「「おじゃましま~す」」


 苔の生えたブロックの門を過ぎ、玄関に入ると。


「おや? 帰ってきたのか直也。ダンジョンで合流する予定だったかと思うが」

「ふん……本当に、人間はせっかち。早く私に会いたいからって、そんなに急ぐことないのに」

「ダンジョン行ったら~。帰りはメシ喰おうにゃ~。肉~。焼き肉~」


 奥から、女性が現れた。


 3人――全員が、僕と同じくらいの年齢に見える美少女だ。みんな同じスウェットの上下で、抱きつかんばかりの勢いで一ノ瀬さんに詰め寄っている。


「まあ、そんなうっかりさんなところも私には好ましいのだが」

「待ちきれなかった? そんなに?」

「焼き肉~。焼き肉~。焼き肉にゃ~」


 と、『マイペース』とか『人の話を聞かなさそう』とかいった言葉が思い浮かぶ彼女たちだったのだけど――そんな彼女たちが。


 さんごに気付くと、直立不動の姿勢になって叫んだ。


「「「ッ!――偉大なる空に輝くペッキオ山の星にして猫神様ッッ!」」」


 それをさんごが、手を振って遮る。


「あーいいから。そういう挨拶は」


 更に彼女たちは、僕を見ると、もっと大きな声で叫んで仰け反ったのだった。


「「「ひ、ひぃいっ! こ、こちらの御方はまさか、まさかぁあああ!!」」」


「うん。光だよ」


「「「バ、バ、バルダ・ビッカル様ぁあああああ!!」」」


「バ『バルダ・ビッカル』って……それって、それってもしかして僕のこと!?」


 つられて仰け反る僕に、さんごは言った。


「うん。君のこと――彼女たちは異世界人で『大顔系』は彼女たちがこの世界に来るための乗り物――その試作品だったんだ。そして君は、100年ほど前にこの世界に渡った伝説の王様の孫ってわけ」


 投げやりにさえ思える矢継ぎ早な情報開示に、僕は、何も聞き返すことさえできなかった。


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