160.猫は留守番のお泊まり会(後)
アンケートとってます。
期間は1月13日までです。
よろしくお願いします。
https://twitter.com/oujizakuri/status/1743809849182593360
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「君が、ぴかりん君?」
「はい……春田光と申します」
「うん。俺、彩のオヤジ」
リビングのソファーで、彩ちゃんのお父さんと向かい合わせになった。
彩ちゃんのお父さんは、50歳くらいの痩せたイケオジで、オールバックの髪も顎に伸ばした髭もほとんどが白髪だった。
印象として、凄く怖い。
薄茶色の眼鏡の向こうの目が細められてはいるけれど、笑っているのかいないのか判断出来ない。
それから、お父さんの着ているスーツ。細身のダークスーツで、醸し出すアウトロー感が半端なかった。それもヤクザや半グレじゃなくて、映画に出てくるサイコパスな殺し屋――仕事の後、口笛を吹きながら念入りに手を洗うような――みたいなアウトロー感だ。
しゃがれた声で、お父さんが言った。
「で、さぁ。ぴかりん君は……彩と、結婚するわけ?」
いきなりぶっこまれた。
「えー、お父さんやめてよ。恥ずかしい」
「いいだろ。それくらい聞いたって」
抗議する彩ちゃんとお父さんのやりとりは、全く普通の父と娘という感じなのだけど、彩ちゃんの物騒な一面を知る僕としては、お父さんの醸し出す物騒な雰囲気とあわせて、顔を強張らせることしか出来ないのだった。
「で、結婚するの? しないの?」
お父さんの声は速くも遅くもなくて、声のトーンもこちらを揶揄うような和やかなものだった。でもそれだけに怖さも倍増で、僕は――僕の、正直な気持ちを答えた。
「はい! 僕は彩ちゃ――彩さんと結婚するつもり……いえ、結婚します!」
立ち上がって答えた僕に、お父さんは――
「おお、いいねえ」
笑って言うと、続けて。
「じゃあさ、今日、泊まってきなよ。いま母ちゃんがメシの支度してるからさ」
というわけで、僕は、彩ちゃんの家に泊まることになった。
●
「はい、どうぞ。遠慮なく食べてね~」
彩ちゃんのお母さんは普通の人だった。
普通に美人で普通にいい人。
そして普通に料理が上手だった。
「このコロッケって、コロッケっていうよりクロケットですよね? すごく手間がかかったんじゃないですか?」
「そうなのよ~。これを作るために、お父さんにシノワを買ってもらったんだから~」
「おお、そうだったっけ?」
食卓での会話は和やかだったのだけど、やはりいきなり――またもや、お父さんがぶっこんできた。
「ぴかりん君ってさ、親戚に『バルダ・コザ』っていない?」
「!?」
『バルダ・コザ』は、異世界での僕の祖父ちゃんの名前だ。でも、どうして――
「その名前を……ご存じなんですか?」
「ああ。だって友達だもん。俺も異世界に行ってたことあってさ。召喚されたの。それで『バルダ・コザ』と一緒に魔王をやっつけてさ。あいつがクーデターでヤバくなったから、俺がこっちに帰る時に家族とか一緒に連れてきたのよ。でさ、あいつ、死んだ?」
「はい。去年……」
「そうか……こっちに戻る時に、制約がかかったらしくてさ。あいつのことを思い出せなくなって、近付くのも出来なくなってたんだろうな……最近になって、ようやく
ぶっこむにもほどがあるだろう……それにしても、彩ちゃんのお父さんも異世界に行ったことがあっただなんて、異世界とこの世界の繋がりは、僕が思うよりも深くて複雑だったみたいだ。OFダンジョンにも、異世界人がいたしね。
「でもさあ、ぴかりん君さあ、本当に
「やめてよお父さん」
あ、話題が変わった。
「こいつ、ガキの頃から無茶苦茶でさあ。放っといたらとんでもないことになるぞって思って、それで『結婚する相手以外とはセックスしない』なんて制約かけたんだけどさあ」
え!?
「え!? お父さん。聞いてないんだけど……なにそれ?」
「お前が大学入るときに言ったぞ。それでその時、制約も外しただろうが」
「聞いてない。聞いていないし……制約? え? あれって私の意思じゃなくて……」
お父さんにかけられた制約だったというのか――彩ちゃんの『結婚するまでは誰ともしない』というポリシーは!
(?)な表情のお父さんに(!?)な僕と彩ちゃん。そこへ割って入ったのは――
「憶えてるわよ。それ。スマホで撮ったし」
お母さんだった。
お母さんが見せてくれた動画では、泥酔したお父さんが……
『彩ぁ。おれはぁ。
と言いながら彩ちゃんの頭を撫でようとして遠ざけられていた。
「…………そうか」
この勘違いと失態を、お父さんはその一言で済ませた。そして――ぽん。
「これで、制約解けたから」
お父さんが、彩ちゃんの頭を軽く叩いた。
すると――
「え……なに? なにこれ、これまで私……『結婚するまでは誰とも……』なんて……どうして……どうして……お父さん!!」
「ちょっとしょんべん」
驚愕と殺意に彩られた彩ちゃんの視線を交わして、お父さんはトイレに向かった。
そして、戻ってこなかった。
●
夕食を終え、片付けを手伝い、その後、僕と彩ちゃんは彩ちゃんの部屋へ。
「きゅぅ!」
どらみんも、着いてきた。
だから、同じベッドに入りはするけど、エッチなことは出来ない。というか、同じ屋根の下に彩ちゃんのご両親がいるのに、そんなこと出来るはずがなかった。
出来るのは、タオルケットの下で手を繋ぐことくらいだ。
そういえば……
「ねえ彩ちゃん」
「なんですか?」
「昼間、お願いがあるって言ってたよね?」
「ああ……あれですか。あれはですねえ……いや~、ちょっと恥ずかしいんですけどね~」
「?」
「私も……『光君』って、呼んでいいですか」
断るはずもない。
それから何度もキスをして、彩ちゃんが寝落ちして。天井を見上げながら思い出してたのは、ダンジョンデートの時に彩ちゃんが言ってたことだった。
あの時、彩ちゃんは言った。
『こういう楽しい日が、毎日だったら、それはそれで困っちゃうけど……こういう日が人生に点々とあるなら……そんな人生だったら……いいよねえ』
その通りだと、思った。
ドアがノックされたのは、僕ももう寝ようと思って目をつぶった、数秒後だった。
とんとん……とんとん……
ドアを開けると。
「悪ぃね」
と、お父さん。
帰宅直後の、スーツ姿に戻っていた。
お父さんが言った。
「ちょっとさ、探索してくんないかな?」
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お読みいただきありがとうございます。
彩ちゃんのお父さんのモデルは、紅白歌合戦で10-FEETに名前を呼ばれてたあの人です。
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