叔父に家を追い出された僕が異世界から来た猫と出会い、ダンジョン配信でバズ狙いすることになった件。ちなみに元アイドルで美少女探索者の従姉妹は僕にべた惚れです
67.猫はいないが厄介は尽きず(5)彩ちゃん無双
67.猫はいないが厄介は尽きず(5)彩ちゃん無双
というわけで、白扇高校探索部と模擬戦を行うことになった。
講習の休憩時間を使って、という体裁だ。
「非公式戦だからな! 撮影はNG! お前ら、スマホの電源切れよぉ! おい馬淵! お前らもだよぉ!」
「はぅ、はぃい……」
鬼丸木に言われた通り、僕らもスマホの電源を切る。
更に追加の命令が馬淵さんに下され、僕らのスマホは鬼丸木の目の届くところに集められることになった。ただし協会からの警報などがあるかもしれないということで、馬淵さんと弓ヶ浜さんのスマホは電源が入ったままだ。
模擬戦の前に、メンバーが発表される。
試合形式は『高校探索部技能競技会』の団体戦ルールに従ったもので、各チーム3人が『前衛』『後衛』『遊撃』の役割を与えられて戦う。大学生の試合では1対1の個人戦を『後衛対後衛』『前衛対前衛』『遊撃対遊撃』の順番で行った後、全員が同時に戦う3対3のチーム戦を行うのだけど、高校生の場合、チーム戦は行わず個人戦だけだ。
こちらのメンバーは、僕が『前衛』、彩ちゃんが『後衛』、神田林さんが『遊撃』ということになった。
ちなみに試合の順番は審判が決めるのだが――
「じゃあ『後衛』『前衛』『遊撃』で行くから! お前ら準備しろ! 『後衛』の一木、出てこい!」
その審判が鬼丸木なので、彼がそう決めた。なぜ彼が審判なのかというと『
「…………(唇をもにょもにょさせて薄笑い)」
無言の弓ヶ浜さんが浮かべる表情を、僕はどこかで見たことがあった。どこで誰がとは思い出せないけど、確かに言えるのは、あれが面倒くさいことを面倒くさいまま放置して楽しもうという姿勢の人間が見せる表情だということだ。
とにかく初戦は『後衛対後衛』――彩ちゃんの出番ということになった。
彩ちゃんと、対戦相手の一木という生徒が装備を着けるのを待って、試合が始まった。
「では第1試合! 後衛対後衛、赤『一木』、白『洞口』――始め!」
ちなみに洞口というのが彩ちゃんの名字だ。
相手の一木さんは、彩ちゃんより20センチくらい長身の女子だった。
「りゃ! せや! せや!」
「お”ぅ! お”ぅ! お”ぅ!」
気合いを発しながら、距離を測る彩ちゃんと一木さん。
後衛ということで、2人とも樹脂製の盾と棍棒を装備している。
「お”りゃ!」
彩ちゃんが棍棒を振り下ろした。
「ぜっ!」
それを盾で受ける一木さんだったのだが。
「り”ゃっ!」
反撃する間もなく、彩ちゃんの追撃が襲いかかり。
「ぜぁっ!」
それをまた、一木さんが盾で受ける。
彩ちゃんの追撃は止まらず――
「り”ゃっ! ぢゃっ! ぢゃっ! 」
合計5回の打撃が、一木さんの盾に叩き込まれた――その時だった。
ピピッ! 審判の笛が鳴った。
同時に。
「や”っ!!」
連撃に押された一木さんが、綾ちゃんのダメ押しの蹴りで尻餅をついた。
審判――鬼丸木が告げる。
「ディフェンス成立! 赤、1ポイント。白、指導! 赤に2ポイント!」
ルールに疎い僕にも分かるのは、一木さんにポイントが入ったということくらいだった。
優勢だったのは彩ちゃんだったのに……戸惑う僕に、神田林さんが説明してくれた。
「盾で5回防いだでしょう? あれで相手の攻撃を完全に無効化したと見做され『ディフェンス成立』で1ポイント。それとその後の蹴りが、笛が鳴った後の攻撃と見做されて、反則で2ポイント」
「『見做されて』が多くない?」
「しょせん試合だから。ポイントは大体『見做し』で入るのよ」
「ええ……」
「言いたいことは分かる。だから言われてるのよ『部活上がりは使えない』って」
確かにこんなルールに慣れたところで、モンスター相手の実戦で役に立つとは思えなかった。
そしてそんな会話をしている間に、試合が再開していた。
「ぢゃっ! ぢゃっ! ぢゃっ!」
中断する前と同じで、彩ちゃんの連撃を一木さんが防ぐ展開だ。
このままでは、また『ディフェンス成立』でポイントを取られてしまう。
――と、思ってたら。
「
気合いとも悲鳴ともつかぬ声を上げ、一木さんがその場にしゃがみ込んだ。
盾を持った手を押さえている――彩ちゃんの打撃で、どこか痛めたのだ。
それを見て、鬼丸木が告げた。
「試合続行不可能! ここまでのポイント3-0で、赤『一木』の勝――」
「待ってください! ルールでは、この場合、白『洞木』の
しかしそこへ、弓ヶ浜さんのクレームが入る。
すると鬼丸木は、渋々といった表情で生徒の1人を呼んだ。
「じゃあ、仕方ねぇ。二宮、お前やれ!」
「はい!」
呼ばれて出てきたのは、一木さんより更に大きい――男子だった。
見覚えがあった。
去年、白扇高校が全国ベスト4に入ったときのレギュラーだ。
「ここまで
そんな神田林さんの嫌味は、白扇高校側の歓声で消し飛ばされた。
「二宮さん、やっちゃってくださいよ!」
「リベンジリベンジ!」
「全国レベルの力、見せつけてやりましょうよ!」
二宮さんが、彩ちゃんと向かい合う。
彩ちゃんの頭が、二宮さんの鳩尾あたりの高さになる身長差だった。
更に体重差は、2倍近くあるかもしれない。
「試合再開――始めっ!」
二宮さんが、盾を前に出す。
そして棍棒を持った右手を、高く上げた。
彩ちゃんの攻撃を受けて、カウンターで打撃を入れる構えだ。
白扇高校から、歓声が沸く。
彩ちゃんの、声は聞こえない。
ただその口の動きは、こう言っていた。
「
その意味を、考えるまでもなかった。
ばぎっ!
爆ぜるような、裂けるような音がして。
「武器破壊! 赤、3ポイント!」
「防具破壊は?」
「ぐぬ……っ! 防具破壊、6ポイント!」
そんな鬼丸木と弓ヶ浜さんの声が示す通り、武器と防具が破壊されていた。
彩ちゃんの棍棒が二宮さんの盾を真っ二つに割り、そして彩ちゃんの棍棒も粉々になっていた。
「え、え……えぇ?」
呆然とする二宮さん。あまりに簡単に盾が壊れたせいで、逆にそれを持つ手にはダメージが伝わらなかったみたいだ。
「えぇ……えぇ……え”やぁああ!!」
それでも戸惑いを気合いに変え、二宮さんが棍棒を振り下ろした。
「むんっ!」
しかしそれを彩ちゃんは盾で防ぎ、どころか跳ね返して。
その勢いのまま間合いに踏み込み――
「でゃっ!」
二宮さんの脇腹に、シールドバッシュを叩き込む。
「ぐはゃっ!」
真っ直ぐ真横に吹き飛んで地面で3回転する二宮さん――しかし。
ピピッ!
「白、指導! 赤に2ポイント!」
何故!?
「正中線を外れた場所へのシールドバッシュは禁止――高校ではね」
ええっ!?
しかし僕が驚いてる間に試合は再開し、もう盾すらも使わず拳で二宮さんを殴り倒した彩ちゃんが、そのまま締め技で試合を終わらせたのだった。
続く第2試合は『前衛』の僕の出番だったのだけど、彩ちゃんの試合を見ていて面倒になったので、彩ちゃんと同じく拳と絞め技で勝たせてもらった。
そして残るは『遊撃』――神田林さんの試合のみとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます