57.猫もドラゴンもチャラかった

 どらみんチャンネルの彩ちゃん――


 どらみんチャンネルは、登録者数2百万人の人気チャンネルだ。ダンジョンでゴブリンに襲われてる彩ちゃんを僕が助けて、それ以来、定期的にコラボしてもらっている。


 彼女の相棒のどらみんはドラゴンの幼体で、体力の維持のため定期的にダンジョンの魔力を吸収する必要がある。そのために彩ちゃんは、どらみんを連れてダンジョンに潜っていたんだけど、でもゴブリンに襲われた時のトラウマで、それが出来なくなってしまった。


 そこで代わりに僕が、光魔法でどらみんに魔力を補充することになり、コラボしてもらってるのは、そのお礼というわけだ。


 その彩ちゃんが、僕の学校の非常勤講師になるという。しかも亡くなった山口先生の後任として、ダンジョン探索部の顧問になるというのだ。


 探索部では、生徒を連れての探索イベントがある。当然、顧問が引率することになる。その必要がなかったら、探索者の資格を持ってる彩ちゃんに声がかかるはずがない。断ることも出来るだろうけど、それは法律上の話だ。法律がそうなってるからといって、断り切れるかといったら疑問しかない。


 校長先生の依頼に、『考えさせて欲しい』と彩ちゃんは答えを保留しているそうなのだけど……

 

「昨日の朝、急にそういう話があって……非常勤の話自体は、別に断ってもいいんだけど……実家暮らしだし、いやらしい話だけどチャンネルの収益も入ってるし……でも……このままでいいのかなって思って。自分でも考えてはいるんですけど……でも、自分で考えてたら、出てこない答えっていうか……そういうものに身を委ねてしまうのも……そういうのも、人生には必要なんじゃないかって……思ったりして……でも、やっぱり怖いなって……ダンジョンに近付くのも、避けてるんです。駅前も、協会の建物があるから足が遠ざかって……でもね、きっと、答えは決まってるんです。でも……だから、こんな風に思ってしまうから、だから……」


 ベンチで話す僕らをよそに。


「くー! きゅきゅきゅー!」

「にゃにゃおーん!」


 どらみんとさんごはといえば、どらみんがさんごをぶら下げて飛んだりしている。

 空を見上げて、彩ちゃんが言った。


「…………切ないな」


 その横顔に、なんて声をかけたらいいのか分からなくて、僕が迷っていると。


「ふにゃーん」

「みゃーみゃみゃー」


 メス猫が2匹、公園に入ってきた。

 何故メス猫と分かるかというと、さんごとの付き合いからとしか言いようがない。


「ごめんね……私、大人なのに……きっと、君に背中を押してもらいたがってる」


 そう言って俯く彩ちゃんを、見つめる僕。

 その視界の隅では――


さんご「にゃんにゃにゃ?」

メス猫1「ふにゃーうにゃー」

メス猫2「にゃーにゃにゃんにゃにゃー」


 さんごがメス猫に話しかけていた。


 これもさんごとの付き合いからとしか言いようがないのだけど、最近、なんとなくだけど猫の言ってることが分かるようになってきた。


 こんな感じに――


さんご「はーい、元気ぃ?」

メス猫1「えー、どーだろー」

メス猫2「やだー、お兄さん、怪しい~」


「うん……10秒待って。10……9……8………」


さんご「俺は山の方に住んでるんだけどさ。こいつはこの近所なんだよね~」

どらみん「そうなんすよ~。しくよろ~」

メス猫1「え~、こっちのお兄さん、猫じゃないよね~」

メス猫2「知ってる~。ドラゴンでしょ~。有名だし~」


「7……6……5……」


さんご「いや~、今日は驚いたよ~」

メス猫1「え~、なんだろ~?」

メス猫2「驚いたって~? 何に~?」

さんご「ここら辺の女の子ってさ……みんな、君たちみたいに可愛いわけ?」

メス猫1「やだ~。もう~。お兄さ~ん」

メス猫2「調子よすぎだよ~。もう~」


「4……3……」


どらみん「いや、マジ可愛いっすよ。2人ともマジレベル高いっす」

メス猫1「もう~。またまた~」

メス猫2「こっちのお兄さんも調子よすぎ~」


「2………」


さんご「でさ。俺はさんごで、こいつはどらみんっていうんだけど、君たちは?」

メス猫1「え~。どうしよ~」

メス猫2「さんごって~。なんか聞いたことあるし~」

メス猫1「どらみんも~。超有名じゃ~ん」


「1」


さんご「そうかな~。飼い主が配信とかやってるみたいなんだけど、よく分かんないんだよね~」

メス猫1「『さんごチャンネル』でしょ~。うちの飼い主も見てる~」

さんご「え? マジ? 知ってるの?」

メス猫1「知ってるよ~。チャンネル登録者数50万人でしょ~?」

さんご「でも、こいつなんて200万人だぜ~?」

どらみん「いや~。自分は2年くらいかけてそれっすから。さんごさんは1ヶ月で50万人っすから、マジパネエっすよ~」


 ぎゅっと目をつぶって、開けて。


「うん、決めた。私、またダンジョンに潜ります」


 そう言って、彩ちゃんは笑った。


「僕も、協力します――がんばってください」

「はい。顧問として頑張ります」

「ところで……ですね」

「はい?」


 突然雰囲気の変わった彩ちゃんに、僕は思わず背筋を伸ばす。


「最近、視聴者さんから言われるんですけど……私も、思ってたことなんですけど…………どらみんが、なんかチャラくなってるって」

「…………」

 

 どこか非難がましいその視線に、僕は黙ることしか出来なかった。


メス猫2「ふ~ん。いつも、そういう風にナンパしてるんだ~?」

さんご「え~。してないよ~。俺なんてオタクだし~。最近、ぜんぜん家から出てないしさ~」

メス猫2「ほんとにぃ? チャンネルに可愛い子いっぱい出てるじゃ~ん」

さんご「ほんとほんと。マジで遊んでないって。チャンネルでやってるのは、全部台本だから。飼い主にやらされてるんだよ。ほら、あそこにいるだろ? あいつ、猫使い荒くてさ~」

どらみん「…………」


 どらみんが無言になったのも、彩ちゃんの視線に気付いたからだろう。


さんご「じゃあさ、君たちも、俺のチャンネルに出てみちゃったりするう~?」


 責任の所在が、誰にあるのかは明らかだった。


「とりあえず録画して、さんごのガールフレンドに見てもらうことにします」

「そうしてください」


 その後いろいろ話して美緒里にも了解を取り、日曜日の探索には、彩ちゃんも参加することになった。


 なお、さんごは(以下略)


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