29.猫はいないがダンジョンに潜る(7)~セーフハウスに入れない&2次遭難を防げ~

本日は、20時にも投稿します。

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 探索者用のセーフハウス。

 そこには食料と通信設備、それから転移用の宝玉オーブが設置してある。


 宝玉オーブは一方通行で、ダンジョンの入口から深層こっちに来る用途でしか使えない。こっちからダンジョンの入口に戻る機能もあるけど、オーブを使ってやって来た救援部隊の持ってる鍵を使わなければ有効にならない。


 だから遭難者はここに避難していることを連絡し、救援部隊が来るのを待つしかない。


 でも今の僕らには、それで充分だろう。

 食料は充分あるし、この階層の空気はきれいだ。

 救援部隊が来るまで、充分もつだろう。


 あくまで、セーフハウスに入ってからの話なのだけど。


 いま僕らは、セーフハウスまであと数百メートルの場所にいる。


 そしてセーフハウスの前には『顔』がいた。

 10を超える数の『顔』が。

 

『顔』は、直径50センチくらいの、まさしく『顔』だ。直径と言ってることからも分かるだろうけど、その輪郭は人とは異なる。一番近いのは、SNSの丸いアイコンだ。超アップの顔写真を使った、辛うじて目や口や鼻が全部収まっている、丸いアイコン。印象としては、それが一番近い。そして輪郭からは、500mlのペットボトルくらいの太さの触手が無数に生えていた。

 

 ファストファインダースの3人――赤松和也、山際宗薫、ガルシア麗子。


 彼らは満身創痍だ。

 でも『顔』が1つなら、楽勝だっただろう。

 初心者の僕と神田林さんでも、勝てたのだから。


 でも、それが10匹以上となると……でも。


「ディー・ディー・レーヤ・ラ・イグッペ!」


 なんて言ったのかは分からないけど、とにかくそう言って、最初に武器を構えたのはガルシア麗子だった。


氷結装甲ビー・クール……」


 次に山際宗薫が、スキルで作られた氷の鎧を纏う。

 

「銃は失くしたが――まだこいつが残ってる」

 

 最後に赤松和也が、腰にぶら下げてた鞭を鳴らした。


 3人とも戦う気やるきまんまんっていうか、玉砕覚悟だった。

 もちろん、僕と神田林さんを生還させるためなのだけど。


「大顔を引き付ける」

「ソンノアイダニヨッ」

「2人は、セーフハウスに駆け込んでくれ」


 だからこんな提案をした僕に、彼らは一様にイラッとした顔を見せたのだった。


「真正面から行くのは……ちょっと……」


 そして次の瞬間、僕の横で浮かぶ・・・神田林さんを見て驚愕する。


「「「ちょ、ちょーーっ! 作戦立て直そう!」」」


 ●


 十数分後、僕たちは『顔』の群れを見下ろす場所にいた。

 

 ●


 セーフハウスは、モンスターを相手に籠城することも想定されていて、立地条件も、それを考えて選ばれている。多くは岩山を掘った空間に作られていて、入り口のある前面以外は、全て岩に護られているのが共通した設計だ(以上、Wiki情報からのまとめ)。


 いま僕らがいるのは、シェルターのほぼ真上。

 岩山の斜面にある、庇のように張り出した場所だった。


『顔』の群れを見下ろすそこは、高度50メートルといったところ。

 斜面はほぼ垂直で、崖といった方が近い。

『顔』も、ここまでは登って来れないだろう。


 では僕たちは、ここまでどうやって登ったのか?

 

 答えは、神田林さんのスキルだ。


 深層まで落ちた時に使った、あれ――空中に足場を作る、神田林さんのスキルを使って登ったのだ。

 正確には、空中を歩く神田林さんにおぶって貰って……何故か僕だけはお姫様抱っこで。


「ふうふう……ふうふう……ふうふう……」


 僕とファストファインダースの3人を何度も往復して運んだ神田林さんは、息も切れ切れだ。

 それでもしゃがみ込んだりせず、立ったまま息を整える神田林さんを。


「タァイシタコンジョゥダヨォ」


 ガルシアさんが称賛した。最初は外国語を喋ってるのかと思ったけど、単に訛りがすごかっただけらしい。


「ふうふう……」


 それに神田林さんは、ちょっと照れた様子で頷くのだった。


「で、これからなんだが」


 赤松さんが言って、今後の方針を決めることになった。


「ここで救援を待つのは?」

「ソンレハ、ナシダベェ」

「救援部隊がセーフハウスに転移。外に出たとこで大顔あいつらに出くわして全滅だ――背後にセーフハウスがあるのが逆に不味い――俺らが加わったところで、人死にが出るのは免れん。なあ春田君。クラスAの救難配信には裏の目的があるんだ。それは、いかにヤバい状況か知らせて半端な腕の連中に来るのを諦めさせること――2次遭難を防ぐためにな。いまの俺らみたいな状況にこそ、必要なんだよ」


 そういうことか。

 だからまずは救援部隊に、こちらの状況を知らせなければならない。

 セーフハウスの外に『顔』の大群が待ち受けていることを。


「連絡を取るには……救難配信、はドローンの電源が切れてたか」

「オンレラノドローンモ、ハングレチマッタベェ」

「協会に連絡すれば……いや、それでは協会の寄越す部隊にしか伝わらない」

「野良で助けに来た連中には、どうしようもないな。俺らの居場所は分からなくても……」

「セーフハウズノバショハ、ダンレデモシッテルカンナア」

「総当りの結果、ここを引き当ててしまう可能性は0ではない、か」


 議論する3人に、僕は言った。


「協会から連絡してもらうことは出来ないんですか? 救援要請が出ると、スマホに協会からのメッセージが送られて来ますよね? 同じダンジョンにいる全員に。あの仕組みを使って、連絡してもらったりは出来ないんですか?」

「出来る。出来るが……」

「ソンダノミッテルヤヅナンデ、イネベ」

「そう。みんな、協会からのメッセージなんてミュートして見ちゃいねえのよ。そもそもこの状況で俺らを救けに来ようとする野良なんて、大体が、配信のコメントや掲示板を見て脊髄反射的に盛り上がったおっちょこちょいだ」


 だったら――スマホを見せて。

 

「あのう……だったら、これを使うというのは。配信のコメントや、掲示板に書き込むというのは、どうでしょうか」


 それに対する反応は、またも驚愕だった。


「「「あああ~~~~~~!!」」」


 3人とも、その発想は無かったという表情で。聞けば、有名パーティーに所属する彼らは、配信にコメントしたり掲示板に書き込んだりするのを禁じられているのだそうだ。


 というわけで探索者協会への連絡を済ませた後、5人総出で現在の状況を書き込むことになったのだった。


 内容はコピペで、名義は『ファストファインダース 赤松和也』

 

 対象は、現在ZZダンジョンで行われているあらゆる配信のコメント欄や掲示板のあらゆるスレッド。ファストファインダース、クラスA探索者、ZZダンジョン、探索者総合、ダンジョン総合といったテーマのスレッドに手当たり次第。


 それからこれは僕の判断で――『ダンジョン探索者・春田美緒里を語るスレ』に。


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