132.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(6)-5

Side:パイセン


「み、み、見た?」

「みみみみ見ました見ました」


 彩ちゃんも私も、盛大に慄いた。


 いま私達は『丘の向こう』にいる。


 さっきまでいた砂浜とはまるで違う、洞窟型ダンジョンだ。


 まったく別の場所、というより別のダンジョンに転移したと考えるのが正しいだろう。


 位置や階層でダンジョンのタイプが変わるのは有り得ない。洞窟型なら洞窟型、フィールド型ならフィールド型と、1つのダンジョンは1つのタイプで統一されているのが常識なのだ。


 それより驚いたのは、転移する直前に見た景色。

 海を割って現れた、OF観音だ。


「あれって全身あったよね!?」


 と、蝶野さん。


「胸から下――埋まってたのか?」


 と、鹿田さんも言うのだが、それは違うだろう。


 OF観音――全高25メートルの巨大な観音像。どうして身長でなく全高というのかというと、OF観音は上半身だけの像だからだ。


 正確には胸から上だけの観音像。それがOF観音だ。しかし海から現れたOF観音には胸から下があった。


 胸から上からだけでも25メートルもあったのだから、全身となったら100メートル以上あったかもしれない。そしてそれほど巨大な人型の存在とは、見ただけでの印象では正確な身長など測りようがないものなのだった。


「二瓶。点呼を頼む」

「オス!」


 さんご君に命じられ、すぐに返事をする二瓶さんは、イデアマテリア所属になったというだけでなく、さっきの戦いで、指揮官としてのさんご君を認めたというのもあるのだろう。


「猪川!」「はい!」「蝶野!」「はい!」「鹿田!」「はい!」「彩ちゃんほらぐち!」「はい!」「神田林!」「はい!」


「それ以外いるか?」「尾治郎いつみです」「マリアだぞい」「おてもやんう”おぇええ」「他には?――いないな! 二瓶を含めて計9名! 全員健在を確認しました!」


「ありがとう。では、まずここがどこかから説明しよう。いわゆる『丘の向こう』――見ての通りの洞窟型ダンジョンだけど、ここもOFダンジョンダンジョンの一部、というよりは、この洞窟こそがOFダンジョンの本体だ」


「本体……じゃあさっきまでいた砂浜は? 同じダンジョンに砂浜と洞窟――2つのタイプのダンジョンが共存しているというのは、ちょっと考えがたいんだが」


「良い質問だ、尾治郎。答えは、OFダンジョンここが構築途中のダンジョンだからさ。砂浜は、今僕らのいる洞窟型ダンジョンを作るために仮設された、作業場所に過ぎない」


「作業場所……工事現場の足場みたいなもんか。だからあんな素っ気ない、真っ直ぐ海と浜が続くだけのダンジョンなんだな」


「その通り。そして仮設の足場ということは、いずれは撤去されるはずなんだけど」


「まだ残っておるということは、工事が終わっておらんのじゃな?」


「そうだマリア。ここは、構築途中で放棄されたダンジョンなんだよ」


「あ~、分かってきました。だから『丘の向こう』から帰るのは面倒なんですね。ちゃんとしたエントランスじゃなくて、窓や作りかけの壁から出入りするみたいなものだから」


 彩ちゃんが言うのを聞きながら、私は他の4人を見た。


「「「「…………」」」」


 猪川さんに蝶野さんに鹿田さん、そして二瓶さんすらも、イデアマテリア勢の会話のスピードに着いてけてない様子だった。


洞窟ここと砂浜は空間的に断絶している。だから砂浜あちらの戦闘の余波は、ここまで届かない。僕らが戻る頃には、すべて終わっているだろうね」


 手を上げて私は聞いた――もう、我慢出来ず。


「あの……光くんは?」


 いま光くんは、どこにいるのだろう? もし私達と入れ違いに砂浜に戻ったら、戦闘に巻き込まれてしまうに違いない。


「光は、いま砂浜に戻ったところだ。王子から連絡があった。まだ戦闘には至ってないようだけど、順番が来る・・・・・のはすぐだろう」


「順番……」


「さあ行こう。僕らには僕らのやるべきことがある。まずは天津を探して、ついでに光に絡んできたって奴の顔を確かめに行こうじゃないか」


「あーっ! そうだ。あいつ、いきなり春田君に斬りかかってきて、ヤバい奴だったんですよ!」


 蝶野さんからの新情報に若干ピリッとしながら歩き出すと、すぐ見付かった。


「ああスウェイン、可愛そうに。こんなに震えちゃって……ああ、ああ……」

「怖かった。怖かったんだよう……あんなバケモンがいるなんてよお……」


 蝶野さんは言っていた。『天津さんの知り合いみたいな人』と。


「あ、ああ! いいのよぉ。こんなになっちゃうくらい、恐ろしかったのねえ。あ、あ、あああああ」

「姉ちゃんだって……いつもより!いつもより!」


 しかしいま、洞窟の脇道から聞こえてくる声と音を聞きながら、私は思うのだった。


(知り合いどころじゃないだろ。これ……)


 そして――


「ああっ! ギータもレンゲルもマーシュも来て! 来て! 来てぇええええ!」


 混乱の中、いま自分が変な形で大人の階段を上りつつあることを自覚する、私なのだった。


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