186.猫と異世界のパーティー(上)

 あんなに激しい行為の後でも、彩ちゃんは全く疲れてない様子だった。


「今夜はよく眠れそうですよ~」


 とのことだ。


 控え室に戻ると、美織里とパイセンが世話役の女性達にちやほやされていた。


「美織里様、東方のお菓子でございます。お口にあえばよろしいのですが……」

「ありがと~。んん! 甘塩っぱくておいし~。この餡って、何で作ってるの? 豆?」

「これは、芋だと思いますよ」

「まあ、パイセン様はお菓子にもお詳しくていらっしゃるのですね!」


 美織里は外面が良いので、こういう場所ではすぐに打ち解けて人気者になる。


「お、光も彩ちゃんもお疲れ~」


 というわけで、僕は寝椅子で自分を清め。

 彩ちゃんは……


「どうだった~? 彩ちゃ~ん」

「良かったですね~」

「んふふふ。いいでしょ~?」

「確かに……あれはいいものです」

「ってパイセンも言ってるし~」


 美織里とパイセンに手伝われ身体を清めながら、楽しげに会話している。


 なんだろう……いま僕の中にある『やられた感』というか『やっつけられた感』は……


 彼女達の会話を聞きながら、僕は自分がゲームのクエストのボスや、戦隊ヒーローに倒される怪人になったような気分になっていた。


 彩ちゃんの身体を清め終わると、美織里が言った。


「じゃあ彩ちゃん。あれ・・やんない? さっきパイセンとやったんだけど、やっぱ3人じゃないとさ~」


「いいですよ~」


 彩ちゃんが立ち上がると、部屋中の視線が集中するのが分かった。世話役の女性達が、そわそわした様子で、頬を赤らめている。キ=レモノさんもそれを咎めることなく、美織里達に視線を向けていた。


 そして始まったのは――ああ、これか。


 MTTの新プロジェクトとして、小田切さんから聞いてた話がある。事務所所属の探索者なら、ありがちな企画で、美織里もアメリカで経験があるはずだ。


 でも、イデアマテリア所属配信者では初となるその企画とは――


「10代の薬瓶に、詰まってた何かは~」


 スマホから流れるバックトラックにあわせて、美織里が歌い始める。


 続けて、パイセンと彩ちゃんも。


「「皮肉屋が~隠した~愛や理想~~~」」


 楽曲配信――それが、MTTの新企画だった。


 小田切さんの知り合いに紹介してもらったアーティストにプロデュースをお願いして、9月に配信リリースする予定になっている。


 いま3人が歌っているのはその曲で、タイトルは『秋風のコヨーテ』。


「愛も理想も~」

「何もかも使い果たして~」

「たどり着いた、そこには~」

「「「勝利勝利勝利! 勝利がある~だけ~」」」


 作詞作曲はアイドル楽曲を多く手がけるアーティストなのだそうで、確かに曲はアイドルらしいのだけど、歌詞は苦みを含んだというか、中年のおじさんの韜晦みたいな内容だった。


「「「私は~、秋風のコヨーテ~」」」


 曲が終わり、決めのポーズをとる3人に、女性達の拍手と歓声が降り注ぐ。


 ちょっと気になって、キ=レモノさんに聞いてみた。


「あの……こういう曲って、こっちの世界の人にも分かるっていうか……良いと思えるんですか?」


 違和感は「はい……」と答えるキ=レモノさんの、微妙に歯切れの悪い、どこか迷ったような様子だ。僕に伝えてよいか、判断が付きかねる何かを抱えてるような……


 その答えを僕は、数十分後、彩ちゃんのお父さんから聞くことになった。



 結婚式の後は、宴会が開かれた。僕らの世界でいえば、披露宴にあたるものなのだろう。


 会場は、結婚式の時に彩ちゃん父達がいた、神殿の向かいの建物だ。


 会場に着くと、そこにはさっき結婚式を見てたのと同じ、偉そうな人達がいた。


「よ~ぴかり~ん。お疲れ~」


 人の輪の中心から声をかけてきた彩ちゃん父に、挨拶を返しながら、僕は『はっ』となった。


 僕、この人の娘さんの処女を奪っちゃったんだよね……なんだか申し訳ないというか気恥ずかしいというか気まずいというか……彩ちゃん父は、気にならないんだろうか……


「お~、彩~。お前とうとうセックスしたな~」


……気にしてないんだろうな。


「も~、やめてよ。お父さ~ん」


 そして彩ちゃんも、そんなお父さんの発言に嫌悪感を抱いてる様子はない。SNSでは、こういう発言をきっかけに心を病んだという人の嘆きが珍しくないのだけど、彩ちゃんの場合は……そういうのが気にならない、そういう本人の資質なのだろう。


 宴会の中心には、彩ちゃん父と彩ちゃん母、それから彩ちゃん母に抱かれたさんごがいて、僕らもそれを囲む人の輪に加わる。


 僕と彩ちゃん、美織里、パイセンが並んで、彩ちゃん父に向かい合った。


「結婚式、お疲れ! よくやった。というわけで、彩が王位を継承するための段取りも大きく進んだと思う。細かいことはまだ残ってるけど、なんとかなるだろ。みんな、こいつらのことよろしく頼むな!」


 言って彩ちゃん父が杯を掲げると、見ていた偉そうな人達も杯を掲げ、それから拍手した。


 後は、順番でやってくる偉そうな人達と挨拶を交わすので時間が過ぎた。


 その途中で、なんだか見覚えのある人達と顔を合わせたのだった。

 

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お読みいただきありがとうございます。


過去作の再掲ですが、投稿開始しました。

さんごの過去を描いた作品です。


猫は世界の支配者だった! ~失恋と死を経て、もっさり令嬢が人生をリスタートします~

https://kakuyomu.jp/works/16818093073012635449


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