186.猫と異世界のパーティー(下)

「気が付いたかい?」


 さんごの囁きに、僕は頷く。

 挨拶に来た偉そうな人達、その中の3人。


 大陸東方の地域の要人で、今日の宴席の中では低く扱われてるように見えた。


 1人は武人然とした丈丈夫、1人は長身のエルフ、そしてもう1人は小柄な獣人だった。


 武人、エルフ、獣人。これと同じ組み合わせと、僕は最近知り合いになったばかりだ。


 姫騎士のプリメラにエルフのイオ、獣人のアコ――一ノ瀬さんが世話している、異世界から来た3人娘だ。


 そういえば、彼女たちの話してる言葉について、さんごが言っていた。『彼女達の訛りには、昨日僕らが行った時代のタラシーノの言語に数十年先で現れたであろう変化が、既に含まれていた』と。


 と、いうことは……


「彼女達の、ご先祖様?」

「おそらくは、そうだ。でも先祖と言うほど離れていないだろうね。祖父か父親の可能性が高い」

「へえ……そうなんだ」

「……(じーっ)」


 納得しかけて、僕はさんごの視線に気付いた。何か言いたげな、そんな目だ。さんごがこういう目をした後は、だいたい皮肉が飛んでくる。


「……(じーっ)」


 さんごの言ったことを、僕は充分に理解していないのだろう。くみ取り損ねている、何かがあるのだろう――なんだろう。


 とりあえず、言ってみた。


「僕らの世界って、異世界の2つの時代と繋がってるんだね」

「……(じーっ)」


 まだ、何か足りないみたいだ。

 答えが出る前に、メッセージが来た。


 美織里:あそこの3人組、あれだよね

 美織里:一ノ瀬さんが世話してる子達の親?


 離れた場所で人に囲まれてる美織里に、さんごが答えた。


 さんご:そうだ

 さんご:彼女達の、父親か祖父だろうね


 美織里:どうする?

 美織里:こっちの世界に3人組が来てること

 美織里:話す? 隠す?


 さんご:隠しておこう

 さんご:余計な因果を作りたくない

 さんご:それに


 美織里:違和感、あるよね


 さんご:そうだ

 さんご:ここで僕らと会ったことを

 さんご:彼らは家族に話すだろうし

 さんご:彼女達も、それを聞かされてるはずだ

 さんご:しかし彼女達が僕らに対して

 さんご:それを話題にしたことがない

 さんご:親族が僕に会ったことがあるなら

 さんご:最初に会ったとき

 さんご:身の証として話しているはずだ


 美織里:隠してる?


 さんご:多分ね

 さんご:とりあえず、彼女達が僕らの世界に来てるのは内緒にしておこう


 美織里:了解

 パイセン:了解

 彩:了解

 光:了解


 さんごの言葉から気付かなければならなかったのは、こういった情報の扱いに対しての意識なのだろう。


 ところで、改めて見てもそうだけど、あの3人に対しての宴席での扱いは低かった。所在なさげで、会話の輪に加われていないし、周囲もそれに対して気遣う様子がなかった。


 さんご:彼らは東部諸国の人間だ

 さんご:東部諸国は、過去のやらかしのせいで肩身が狭い


 過去のやらかし……そういえば、さんごが話してくれたことがあった。


 光:タラシーノ国が出来るきっかけになったんだよね。東部諸国が、タラシーノ国の前にあった……グイーグ国だっけ?


 さんご:そうだ。東部諸国がグイーグ国への物流を制限して滅ぼそうとしたんだ。政体が瓦解したところで隣国のカラメテに併合させ、経済的隷属化に置くつもりだったんだよ


 さんご:だけど、その企みはイーサン・ド・スケベーヌ1世によって打ち砕かれ、グイーグはタラシーノ国に生まれ変わった――周辺諸国を併合した、より強大な国家となってね


 美織里:そりゃ肩身も狭くなるわよね

 彩:こういうの、ざまあって言うんでしたっけ?

 パイセン:ざまあでいいです


 そんな会話をしながら、依然として人の輪で笑い声があがるたび、その端でワンテンポ遅れた笑みを浮かべる3人を見て、僕は思った。


(でも……何百年も前のことなんだよね)


 タラシーノ国の建国は数百年前のことで、そのきっかけとなった東部諸国のやらかしも、同じく数百年前のことだ。


(そんな昔のことを、いまだに引きずっているなんて……)


 それで思い出したのは、叔父のことだった。客観的に見て、僕は叔父に酷いことをされていた。でも主観的には――僕の想いとしては、そんなの、どうでもよくなってしまっている。


 住んでた家を奪われた僕だけど、でも僕は、叔父から美織里を奪ってしまった。気持ちとしては、叔父のダメージの方が大きい気もする。僕が美織里と付き合ってることを、叔父がどう思ってるかは知らないけど。


 もちろん、僕の個人的なことと国のことを同じには比べられない。それは分かってるけど、空になったグラスを持って所在なげにしてる彼らを見てると、なんだか割り切れないものを感じてしまうのだった。


 そんなことを考えてると、宴席にざわめきが起こった。


 理由は、神殿だった。


 神殿の壁をスクリーンにして、僕の動画が再生され始めたのだった。


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