187.猫は棺桶で空を飛ぶ(上)
神殿の壁をスクリーンにして上映されたのは、ダンジョンで僕が戦ってるのを映した動画だった。
異世界では知名度のない、ぽっと出の僕が彩ちゃんと結婚するのを、疑問に感じる人は、まだ多いに違いない。
そういった人達に、僕がどういう戦いをしてきたかを見せて、実力を示すために企画された上映なのだろう。
上映された戦いは、4つ。
まずは、OOダンジョンでのダンジョンコアとの戦いだ。
さんごに出してもらった『龍族の勇者の鎧』を僕が装着すると、宴席からだけでなく、街路でスクリーンを見上げていた人達からも「おお!」と声が上がった。
2つめは、OFダンジョン。やはり『龍族の勇者の鎧』を纏った僕は、今度は空を舞い、身長数10メートルの観音像に向かって雷のブレスを叩き付ける。
3つめは、異世界のダンジョンだ。次々と現れる
そして最後も、異世界のダンジョン。数日前の、ダンジョンボスとの一戦だった。こちらが使うのは単純な打撃のみという縛りを課せられた上で、身長4メートルの尻尾と翼を生やした巨人を、課題通り、殴打して叩き伏せた。
上映は20分といったところで、終わった途端、爆ぜるような拍手と歓声で、街中が震えるようだった(どうやら、街のあちこちで同時上映されてたらしい)。
当然、宴席では直接僕に賞賛の声が向けられる。僕は左右の腕をパイセンと彩ちゃんに抱かれ、後ろからは美織里に抱きつかれた状態で、それを受け止めた。
問題は、その後だった。
まだ誰もが熱に浮かされたような状態の中、こんな声が聞こえてきた。
「ふむ……私の記憶違いだったか?
そして、それに応える声が。
「いやいや、それで正しい。なんでも、隣国の騎士団が訓練で訪れた直後であったとか。彼らの衣服に潜んでいた幼体が増殖したのだとか」
「隣国……というと、チ=カバですかな?」
「でしょうなあ。タラシーノに訓練に来るとなったら、チ=カバしか思い当たりません」
ここまでは、良かった。
問題は――
「魔王軍の生き残りに襲われ、騎士団が壊滅――タラシーノの指導で再編を行っているそうですから……そうそう。東部諸国からも兵を借りてるそうで」
「ならば、件の
「ぬはは。貴殿もご存じであったか。私も東方諸国に行った際に試してみましたが……ぼろぼろに崩れた味のない身を甘辛い汁で煮込んで……いやはや、下が馬鹿になって、しばらくは何を食べても味がしませんでしたぞ」
それから目を見合わせて、うはははと笑う2人に、周囲の人も笑う。
そんな輪の端で、笑ってない人がいた。
「「「…………」」」
東方諸国から来てる、あの3人だ。
自分達の郷土の料理を嘲笑われて、悔しいのかもしれない。もしかしたら、自分の知り合いや親族が、話題に出た『東方諸国の兵』にいたのかもしれない。
彼らを庇う理由は、僕にはない。東方諸国を笑いものにする人達を、僕が非難するのもなにか違う。
(嫌だな……)
でも僕は不快感を抱いていて、実をいえば、それを表明する手段も大義名分も、僕にはあった。
「「(こくり)」」
横目で見ると、彩ちゃんが彩ちゃん父と頷き合っていた。反対側を見れば。
「…………」
パイセンが、顔をしかめて僕を見上げている。
そして、美織里が。
「やっちゃっていいよ」
僕の後頭部に、顔を埋めようにして言った。
僕は言った。
宴席いる、全員に伝わるような声で。
「
僕の言葉に。
しん……と宴席が静まりかえった。
僕は気付かされる――こういう時にこそ、人の本音は露わになるものなのだと。
僕を見返す顔、顔、顔……こいつは何を言ってるのだ、と不快を表す顔もあれば、次に何を言うのだろうと興味津々の目を向ける顔もある。
そこに現れてるのは、僕に対する期待や侮り、好きや嫌い――彼ら一人一人の中にある、僕への評価だった。
そして、はっとした顔を上げたのは――東方諸国の3人。
宴席を見渡し、僕は続けた。
「蟹、という食材が僕らの世界にあります。それを求めて産地に旅する人がいるほどで、僕も大好きです。美味しいからです。そして
早くもサムズアップする彩ちゃん父を見ながら、僕は言う。
「明日、もう一度、ここに来て下さい。美味しい
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カクヨム運営より指導が入り、性的な描写を見直すことになりました。
とりあえず、問題があると思われる箇所を丸ごとカットするという方向で行きたいと思います。
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