159.猫が理想の家を提案しました(前)

アンケートとってます。

期間は1月13日までです。

よろしくお願いします。


https://twitter.com/oujizakuri/status/1743809849182593360

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 メッセージは、僕が通ってる格闘技ジムのオーナーの坂口さんからだった。


 坂口:いま電話してもいいですか?

 光:いいですよ


 返事をすると、すぐに電話がかかってきた。


 どんな用件かと思ったら――


「あのさ。彩ちゃんって忙しいのかな――笹沼の練習相手になって欲しいんだけど」


 笹沼さんはプロの女子格闘家で、去年、坂口さんのジムに移籍してきた。


 数年前までは無敗の強さを誇っていたけど、海外進出に手間取ってる間に怪我したり他の選手も強くなったりして、いまは勝ったり負けたりだ。


 もっとも、勝ったり負けたりしてるその相手も、国内外のトップ選手なんだけどね。


 坂口さんのジムに移籍したのは、それまでのジムに不信感を抱いたからで――海外進出がうまくいかなかったのも事務所に問題があったからだといわれている――心機一転、旧知の坂口さんのジムに移籍し、住居も東京からこの街に移したというわけだ。


 それにしても――


「練習相手……ですか」


 彩ちゃんがスパーリングで笹沼さんを失神させたのは聞いてるけど、それで練習相手になってくれというのも少年漫画的というか、話が急すぎる気がする。


 疑問に思ってると、坂口さんが言った。


「いきなりなのは分かってるけど、時間がないのよ。笹沼の次の試合が9月でな。あと1ヶ月しかない。相手が――呉昭瑛オ・ソヨンって知ってるか?」


「いえ……韓国の選手ですか?」


「ああ。『WHITE OUT』のチャンピオンだ」


『WHITE OUT』は韓国の格闘技団体で、僕も名前を聞いたことがある。


「9月に『ASASE』と『WHITE OUT』で対抗戦をすることになったのよ。それに笹沼が呼ばれてさ。ここで勝てば大晦日の『RAIDEN』にも呼ばれるかもしれないし、とにかく強い練習相手が欲しいのよ」


「男子選手じゃだめなんですか?」


 一般に、格闘技は男子より女子の方が早く強くなるといわれている。理由は男子と一緒に練習するからで、つまり自分より速くて強くて大きい練習相手にことかかないから、早く強くなれるということなのだ。


 でも、坂口さんがいうには。


「やっぱり女子同士じゃないと得られないものってあるのよ。俺が見たところ、彩ちゃんってのは呉昭瑛オ・ソヨンの上位互換だな」


「上位互換?」


「彩ちゃんと呉昭瑛オ・ソヨンって体格がほぼ同じなのよ。その同じ体格に男子なみのパワーとスピード。おまけにモンスターと戦って得た勝負勘もあるってなったら、これ以上の練習相手はないだろ――というわけでだ。お前の方から、頼んでもらえないかな」


イデアマテリアじむしょは、通さずにってことですか?」


「いやあ……まあな。『ASASE』はギャラが安いからさ……駄目かな?」


「それは無理だと思いますけど……でも、約束は出来ませんけど、多分、お金は要求されないと思いますよ。かわりに動画でコラボとか、そういうのは求められると思いますけど……」


「おお、そうか。じゃあ頼むよ」


「はい。僕から話しておきますけど、事務所からも連絡があると思うので、よろしくお願いします。はい、はい――失礼します」


 電話しながら倒したモンスターの死体を……ミノタウロスと違って食べられないモンスターばかりだったので、収納せずに。


雷神槌打サンダー・インパクト


 雷の炎で、燃やして消した。


「すいませ~ん。お騒がせしました~」


 そんな僕の様子を見ていた他の探索者に頭を下げて、その場を立ち去る。


 この時の様子を撮影してた人がいて、その映像は『歩きスマホで通話しながらモンスターを瞬殺しまくり、ついでにハーピーの群れに襲われて全滅しかかってるパーティーを、舐めプで救ったりするぴかりん』というタイトルで炎上に近いバズり方をするわけだけど、当然、この時の僕はそんなの知るはずもなかったのだった。


 ●


 小屋に帰ると、いるのはさんごだけだった。


「美織里は?」


「ホテルだよ――しばらく小屋こっちには来ないって言ってたね」


「しばらく……」


「最低でも、君が彩と交尾するまでだろうね」


「ええ……?」


 確かにけじめとしてそういうのが必要なのは分かるけど、美織里がいない夜が続くのは――エッチなこと以外でも――寂しくて心細かった。


「彩と交尾した後も、この状態が続く可能性は高いと思うよ? この小屋は、君と美織里にとって特別な場所だからね。他の2人が立ち入るのは気が引けるだろう? 当然そんな2人に対して、自分だけここに入り浸りになるのは、美織里も気が引けるだろうからね」


「でも美織里ってそういうのを――意外と、気にするタイプだよね」


「まあ、解決策がないわけでもないけどね」


「それは……どういう?」


「4人で一緒に住めばいいんだ――そういう場所を、作ってしまえばいいんだよ」


「4人で…………住む? それは……結婚とか、同棲するってこと?」


「それ以外に何があるっていうんだい? さあ見てくれ――これが僕の考えた『24時間サスティナブルに交尾できる家』だ!」


 そう言って見せられた図面は、邪悪の一言だった。


 円形のホールを囲むように部屋が並んでて、この時点で既に密室殺人事件が起きそうで不穏なのだけど、更にはホールの中央が丸いベッドで、しかもそれが回転するようになってる家なんて、僕は住みたくないです。


「ちなみに2階はプールで、片側の壁が全面ガラスになっている」


 絶対に嫌!


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