20.猫も資格がいるのです


 ここまで動画を観ながら、違和感を覚えてた人もいるかもしれない。


 画面には、僕とさんごが映っている。

 中央に僕、左側にさんごだ。

 しかしさんごの反対――右側には誰もおらず、ぽっかりそこだけが空いていた。

 

 ちょうどもう1人、誰かが入れそうな空間が――


「それと、気になってる方もいると思うので報告します。昨日、探索者協会に行って検診を受けたところ、スキルが生えていました。バッヂが届いたら、探索者としての活動を始めようと思います。探索の様子は、このチャンネルで――」


 そこで、空いていた空間に飛び込んできた人が言う。


「こんにちは! 春田美緒里です。さんごパパっていうか光とは、従兄弟です。あ、光っていうのはさんごパパの本名ね。噂になってるみたいなので言うけど――先月? あたしのチャンネルに映ってたのも光です。それで『どらみんチャンネル』の配信を観て気になってたんだけど、今日、探索者協会に行って確認してきました! じゃーん! さんごの『ダンジョン適正』です。驚くことに『A+』! 知らない人のために説明すると、『ダンジョン適性』っていうのは人間で言うとスキル検診みたいなもので、その動物のダンジョンへの適正を検査した結果です。『C』がダンジョンの環境でも体調不良を起こさないレベルで、『B』が低層のモンスターとの戦闘が可能。『A』が中層での戦闘も問題無し。『S』が深層部での戦闘が可能。つまり『A+』のさんごは中層での戦闘も可能だし、これから成長して強くなるだろうから、いずれは『S』になって深層の探索にも連れていけるはず! というわけで『さんごチャンネル』では、これからさんごのダンジョン探索動画をアップしていきます! まあ、あたしがフォローするから大丈夫でしょ! 初めてのダンジョンでいきなりゴブリンと闘うなんて普通じゃないと思ってたけど、やっぱりって感じだよね~。さんご凄い!」


「みゃおん」


 今後『さんごチャンネル』でダンジョン探索配信を行うためにはさんごにも『ダンジョン同行許可証』が必要、というわけで僕が学校に行ってる間に、美緒里がさんごを探索者協会に連れていって検査を受けさせたのだった。

 僕に探索者バッヂが交付された後、改めてさんごのダンジョン同行申請をして、許可が出てから一緒にダンジョンに入る予定だ。


 それにしても……


 無神経、の一言である。

 この動画は『どらみんチャンネル』のファンも観てるだろうに、これでは自分たちのチャンネルの宣伝に『どらみんチャンネル』を使ったようなものではないか――炎上必至である。


 しかしさんごと美緒里このふたりが、そんなの見落とすはずが無かったのだった。


「ここでゲストを呼びま~す。ほら、あんたどいて」

「うん……」


 さんごを抱いて、僕は画面の左側に移動する。

 そして、空いた中央に入ってきたのは――


「こんにちは……『どらみんチャンネル』の、彩とどらみんです」


『どらみんチャンネル』の、彩ちゃんとどらみんだった。


 これも美緒里が彩ちゃんに連絡して、彩ちゃんが出演のオファーを受けてくれたのだった。


「今回の件では、みなさんにご心配をおかけして……ごめんなさい。さんごパパさんにも、さんごちゃんにも……ありがとうございます。2人が来てくれなかったら、私もどらみんも……」

「『どらみんチャンネル』は、これからも続けるんだよね?」

「はい。でも、投稿するのは日常動画だけになります。もともと、どらみんに魔力を食べさせるためにダンジョンに行ってたんですけど、もう私はダンジョンに入るのは無理で……探索者さんにお願いして、どらみんだけダンジョンに連れてってもらうしかないかなあ、と思ってたんですけど……でも」

「はい、そこで光!」

「う、うん……」


 美緒里に渡されたペンライトで、僕はどらみんを照らした。

 すると――


「ぐきゅるるる……」


 彩ちゃんに抱かれたどらみんが、気持ちよさそうに目を細める。

 僕の光魔法から、魔力を吸収しているのだ。


「あの日のダンジョンでもそうだったけど、光の魔法から魔力を吸収すれば問題無し! お礼として、彩ちゃんとどらみんには『さんごチャンネル』とばんばんコラボして貰います!」

「それでお礼になるんでしょうかっていうか、むしろこちらからお願いしたいくらいなんですけど……」


 これで、炎上は回避できるはずだと思いたい。


 撮影が終わり彩ちゃんが帰った後は、美緒里のチャンネルの雑談配信に出演だ。



 出演と言っても、コメントに答える美緒里の横に座ってるだけだったのだが。


「光にこれまでスキルが生えてなかった理由? う~ん、多分なんだけどね。多分、あたしのせい。『一族現象』なんじゃないかな。『一族現象』っていうのは、まあ、あたしのチャンネル観てる人なら知ってるだろうけど、家族の誰かにスキルが生えると他の家族には生えなくなるっていう現象ね。どうしてそういうことが起こるかって言うと『スキルが生えた人が一族を守るんだから他の家族には必要ないだろう』って考えが深層心理に生まれて、知らないうちにスキルが生えるのを拒んでるんじゃないかって仮説なんだけど、あたしと光は従兄弟だから。日本とアメリカで離れてはいたけど連絡は取ってたから。探索のことも話してたし、光もあたしの配信を観てたから――それで『一族現象』が働いたんじゃないかと思うんだよね」


 美緒里のファンの反応は概ね好意的なものだったのだが。


「従姉弟同士だから安心? 分からないわよ~?」


 配信終了間際の美緒里の一言で、コメント欄に『死』の文字が乱舞することとなったのだった。


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