新探索者向けダンジョン講習会

19.猫と釈明配信します

 というわけで翌日。


 教室に入った僕に、みんなが注目した。

 思えばスキルが生えて以降、クラスのみんなに会うのはこれが初めてだった。

 昨日は校門から校長室に直行で、その後は探索者協会に連れてかれたからね。


「おはよう…………」


 挨拶して、席に座る。


「…………」


 クラスのみんなは、無言だ。

 健人も、こちらを見ることすらしない。


 あれこれ訊かれるのも大変だろうけど、何も訊かれないのもまた、気分が窮屈だった。

 

 ホールルームの時間になると、理由が分かった。

 担任の丸山先生が、言った。


「昨日も話した通り、春田はダンジョン探索者として登録されることになった。春田について外部――学校外の友人、家族に話すのは厳禁。ネットへの書き込みも同じだ。探索者の個人情報は国で管理されている。春田についての情報を外部に漏らすということは、国家の機密を漏洩させるに等しい。では春田自身が配信等で自分のことを話したりしたらどうなるんだ、という疑問もあるだろうが、これについては、ある程度であれば許可されている。それで春田のところに、例えばストーカーや外国のスパイが来て春田が怪我をしたりしても、それは自業自得だということだ。だが、みんなは別だ。昨日の特別授業で説明された通り、ガイドラインに沿わない情報発信は厳罰に処せられるということを忘れないで欲しい」


 どうやら昨日、僕のことで特別授業が行われたらしい。

 それで、みんなの態度がよそよそしくなってたわけか。


 最後に、先生は言った。


「矛盾するようだが、昨日も探索者協会の人が言ってたように、春田とはこれまで通り接してもらいたい」


 その言葉に、声があがった。

 健人の取り巻きの1人だ。


「これまで通りってことは、ジュースを買って来てもらったりするのもアリですか?」

「これまででも、ナシだ」


 先生の答えに、みんなが笑った。

 

 ●


 学校から帰ったら、撮影だ。

 これまでノータッチだった『さんごチャンネル』に、僕も出演することになった。


『さんごチャンネル』の動画に、これまでも僕は登場していた。

 しかしそれは、さんごが作ったCGの僕だ。

 

 今回は、僕本人が撮影されることになる。

 しかも、これまでみたいな鼻から下だけじゃなくて、全身で。


 この動画は――


「こんにちは。『さんごチャンネル』のさんごパパです。ご存じの方もいらっしゃると思うんですけど、僕とさんごは、一昨日の『どらみんチャンネル』さんの配信に映りました。僕は探索者の資格バッヂを持ってないんですけど、じゃあどうしてあそこにいたのか、無許可なのにダンジョンに入ってたかっていう理由と『どらみんチャンネル』さんの配信に映った経緯を説明させてもらいたいと思います」


――『どらみんチャンネル』の配信に映ったのが僕であることの表明、そして無許可でダンジョンに入ったことについての釈明動画なのだった。


 今回あえて顔出しにしたのは、顔を隠したままでは謝罪してる感じが出ないというのと、これからダンジョン配信を行うことを考えるとどこかで顔出しするのは必須で、これは丁度良い機会になるだろうという理由でだった。


「さんごとキャンプする動画を撮影してたんですけど、その時に、さんごが洞穴に入ってしまったんです。そこがダンジョンの入口になっていて、さんごと僕はダンジョンに入ってしまいました。その時に撮影していた動画が、これです」


 ここから、日曜日に撮影していた動画が流れる。


 さんごを追って洞穴に入った僕。

 洞穴の行き止まりで、土壁の向こうから聞こえてくるさんごの声に気付く僕。

 ちなみに『機材のトラブルで音声が記録されていませんでした』というテロップが入り、洞穴に入って以降は無音。僕の臭い芝居セリフは全てテロップに置き換えられている。


『お~い、さんご~』

『行き止まりか……あれ?』

『さんごの声が聞こえてくる……うわぁっ!』


 こうして土壁の向こうダンジョンに入りさんごを見つけたところで、いったん動画は終わる。


「ダンジョンに入って、すぐに入ってきたところから外に出るという選択肢もあったのかもしれないですけど、この時点では混乱していて、ダンジョンに入ったことにすら気が付いていませんでした。変な場所に来ちゃったな、くらいの気持ちでした。正直に言って、この後でダンジョンの中をうろうろしたんですけど、興味本位からの行動でした。さんごを危険な目に遭わせることになってしまい、いまは反省してます――ごめんね、さんご」


「んにゃあ」


 ちなみに、さんごを横に座らせての撮影である。


「ダンジョンの中だからかもしれないんですけど、機材の不調でここから先は録画されていません。撮影はしたんですけど、何も映っていませんでした。ダンジョンの中にいたのは30分くらいだったと思うんですけど、モンスターには会いませんでした。でも、そろそろ『これは変だな、おかしいな。もしかして……』って思い始めたときに、誰かが叫んでるのが聞こえてきて、行ったら『どらみんチャンネル』さんの配信に映ったというわけです」


 ダンジョン内で撮影した素材は、さんごの判断で全部ボツにすることになった。

 ダンジョンの中でさんごを見つけた場面も、実はCGである。


 あの時さんごは、腕組みして2本足で立ち言葉を喋っていた。それをCGで差し替えた結果、現状の機材では他の場面との整合性を穫るのが難しくなってしまったのだそうだ。


「えーと、さっきから変っていうか、こいつ『映った』って表現おかしくない?って思ってる方もいるんじゃないかと思うんですけど、今回の件は『どらみんチャンネル』さんの配信で起こったことで、現在『どらみんチャンネル』さんのあの日の配信のアーカイブは公開されていません。ですから、こちらのチャンネルで詳しいことを話すのは違うんじゃないかな、と思い、このような『映った』という表現をさせてもらっています。どうか許してください。同じ理由で『どらみんチャンネル』さんについて、いま思ってることをお話するのもやめさせてもらいます」


 カメラに向かって頭を下げながら、僕は固唾を飲んだ。

 ここからが、この動画の最も重要、というか苦しい・・・部分なのだ。


 顔を上げて、僕は言った。


「それと、気になってる方もいると思うので報告します」


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