18.5 猫と美少女は意外と仲良し
Side:美緒里
XXダンジョンの魔力流出。
その調査も終わり、あたしは暇になった。
パーティーでの仕事は当分なく、マネージメント事務所も『美緒里はパーティー売りしたい』とかでソロでの仕事は持ってこない。
というわけで、今日も祖父ちゃんの小屋で光の帰りを待ってる。
何も無い6畳間。
1人なら、時間を持て余しただろう。
「君たちは、どうして交尾をしないんだい?」
しかし、いきなりこんな質問をぶっこんでくる話し相手がいるなら別だった。
「交尾ねえ……あたしはやぶさかでもないんだけど」
「光は君に
「不思議に思っててくださいよ……っと。ここの仕上げは、こんな感じ?」
「上出来だ。そういえば『どらみんチャンネル』の彩ちゃんも、光に盛ってる様子だったけど?」
「やめてよ……ああ、やだやだ。あんなのが光に近付いてくるなんて……男って結局、ああいう地味で眼鏡で顔が整ってて私服がダサそうな女が大好きなのよね」
「なるほど。猫に置き換えてみると、僕にもよく分かる」
「げっ」
「インターネットでペットショップのカタログを見つけた時は『なんて便利でいやらしいものがある世界だろう』って感動したものだけど……ダメだね。全くそそられない。実際、僕の彼女もああいうのに載ってるのとは全然別のタイプだし」
「……あんた、彼女いるの?」
「いるよ。僕もこの世界に来て1ヶ月経つんだ。彼女なんて、出来てて当然だよ」
「この世界の猫って普通に動物でしょ……話、合わないんじゃない?」
「光が好きな、中世と近世がごっちゃになったような文明レベルの異世界に行って冒険する小説があるだろ? あれと同じ感じかな」
「へ、へえ……そうなんだ。で、完成?」
「完成だ」
銀色のサーフボード。
あたしたちの目の前にあるのは、見た目だけいうと、そういうものだった。
実際は、飛行用の魔導具だ。
フィールド型ダンジョンのショートカット用に開発されたものだけど、魔力消費量が膨大だから使い勝手が悪くて仕方ない。
それをさんごに改良してもらうため、あたしはこの小屋に持ち込んだのだった。
というわけで、ここから回想。
●
私が持ち込んだ飛行用の魔導具を、ひと目見てさんごは言った。
「魔力の翼を展開して飛行する魔導具か――翼の展開図は? ああ、ありがとう。なるほど。開発には飛行機用の空力シミュレーターを転用したんだろうね。見た限り、わざわざ僕が手を加える必要は無さそうだけど……どうして、改良を?」
「死ぬほど魔力を消費して使い勝手が悪い。それと操作系が大雑把で、個人単位の装備として使うには機動性が足りない」
「では、何故いま?」
「分かって訊いてるよね――光のためよ。光が探索者になる。ダンジョンに潜る。基本的にあたしが着いてくつもりだけど、そうも行かない場合もある。で、あたしが一緒にいない時に光が遭難したら? あたしが助けに行くしかないでしょ。そういう時に最速で最短距離を飛んでくため、こういう装備が必要なのよ」
「…………」
「何かあたし、変なこと言った?」
「……美緒里。いま『最短距離』と言ったけど、それはどういう意味――いや、イメージなのかな」
「それは、障害物を無視してまっすぐ――」
「では、光がいるのが違う階層――たとえば深層だったりした場合は?」
「そりゃ、階層の入り口から次の階層の入り口まで――」
「つまりそれは、こういうことだね」
さんごが、手を動かして見せる。
右から左へ、左から右へと往復しながら、さんごの手は次第に下がっていく。
その動きは、まさしく入り口から入り口へと移動しながらダンジョンの下層に向かって行く動きそのものだった。
「そう。そんな感じ」
「だったら、違うな」
「え?」
「最短距離と言ったら、こうだろう」
そう言って、再びさんごが手を動かす。
ただし今度は左右ではなく、上下。
上から下に、まっすぐと。
「え、それって……」
さんごの視線を追うと、そこには薬瓶があった。
つい先日、あの薬瓶を使って、あたしは光に光魔法の説明をした。
光魔法を使って、蓋を開けずに、あの薬瓶の底から中身の錠剤を取り出して見せたのだった。
つまり、それって……
「そういうこと?」
「そういうことだ」
薬瓶の底を無視して、錠剤を取り出したように。
ダンジョンの床を無視して、下の階層に下りていけたなら。
「それって、確かに最短距離だけど――出来るの?」
「出来るさ。この魔導具の容積なら、機能を仕込むのに充分だ。もちろん、燃費と操作性を大幅に改善した上でね」
●
以上、回想終わり。
それが昨日のことで、今日は半日かけて、この銀色のサーフボードを改造していたのだった。
そしていま、改造が終わり。
いよいよ、試運転となった。
「スマホでコントロールするのは同じだからね。追加されたボタンを押すと沈降が始まる」
「これね。3,2,1――はいっ!」
あたしたちの目の前で、サーフボードが沈んでいく。
畳を無視して、その下へ。
目の前から消えても、さらに下へ。
先端のカメラが送ってくる映像も、床下から地中に。そしてさらに下へ。
下へ。
下へ。
下へ。
下へ……あれ?
「『デバイスが見つかりません』って出てるんだけど……」
「スマホとのペアリングが、切れたんだろうね」
「それって、つまり……」
「電波が届かないほどの深度まで、沈降したんだろうね」
「じゃあ、浮上させるのは……」
「無理だね」
「あのさ、これって……予想できてた?」
「上に乗って使うのが前提だったからね。単独で沈降した場合のことは、考えてなかったね」
「…………」
「…………」
「……………………」
「……………………」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
どれくらい、経っただろう。
やけに遠くに聞こえる声で、あたしは言った。
「バカじゃん、あたしたち」
と、その時だ。
「にゃーん」
小屋の外から、猫の鳴き声がした。
すると、さんごが。
「あ、彼女だ。ちょっと出かけてくるね」
そう言って、出て行ってしまった。
そうしてあたしは、何も無い小屋に1人残されることとなったのだった。
特にオチは無い。
以上
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美諸里視点の長編も書いてみようかな、と思いました。
お読みいただきありがとうございます。
本日は、24時にも更新します。
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