18.猫と美少女が酷いことをするのです

 今日は20時と24時にも投稿します。

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 さんごの話では、僕はスキルをたくさん生やしたはずだった。

 それなのに、検診の結果、生えてたスキルは――


『光魔法 』


 だけだったのだ。


 小屋に帰ってさんごと美緒里に訊いてみると。


「それは、君に光魔法の才能があったからさ。4大元素系の魔法や体術の才能もあったんだろうけど、その中で光魔法の才能だけが飛び抜けてたんだよ」


「『スキルが喰われた』のよ。珍しいけど、割と聞くわね。一芸を鍛えたために、他のスキルがメインスキルの餌になって消えてしまう――その分、メインのスキルが強力になるってこと。普通は中級者以上でしか起こらない現象なんだけど、光の場合、一度に沢山のスキルを習得したのと、どらみんを助けた時いきなり強力な光魔法を使ってたから、スキルシステムが『こいつの光魔法やべーな』って判断して、他のスキルを光魔法の餌にしたんだと思う」


 それってメリットあるの?


「あるね。めちゃくちゃあるね。特に光魔法というのがいい。スキルの統合で何が良くなるかというと、応用が利きやすいんだ。光魔法で最も必要とされるのは魔力を操作するスキルだ。そして、魔力操作は魔法の基本。他の属性の魔法も、実は光魔法がベースになってるんだ」


 なるほど。

 

 更に美緒里が、白菜を追加しながら補足する――ちなみにこれは遅い昼食をとりながらの会話で、メニューは美緒里が持参したミノタウロス肉のすき焼きだった。


「魔法だけじゃなくて体術もそうよ。魔法で体力と身体操作をブーストするのがスキルの体術――『身体能力向上』とか『拳撃』とか『蹴撃』だからね。他にも耐性系とか回復系とか、つまり全てのスキルのベースには魔力操作があり、魔力操作を極めるには光魔法から入るのが最適ってわけ。心配しなくても、ダンジョン探索しながらいろいろ経験してけば、全部サブスキルとして復活するわよ」


 なるほどなるほど。

 我ながらチョロすぎる感じで僕が納得していると。

 

「現時点でも使用は可能なはずなんだけどね。スキルとして顕在化させるには、具体性に訴える訓練が必要になる。例えば――美緒里?」

「例えば――さんご?」


 と、さんごと美緒里が言葉を途切らせた。

 意味深に。

 2人の視線は、僕に向けられていた。

 正確には、僕の口元に。


「ふばばっ!?」


 次の瞬間、さんごの首輪から飛び出した器具が、僕の口に飛び込んで開かせた。

 歯医者にある、そういう器具みたいに。

 僕は、口を閉じることができなくなる。

 そこへ美緒里が――


「あっつあつのお豆腐ですよ~」


 鍋で煮込まれた熱々な絹ごし豆腐を、僕の口に突っ込んだのだった。


「あひ、あひ、あひ、あひぃひぃいいいいい!!」


 当然、熱い。

 熱い。

 熱い。

 とにかく熱い。

 僕の口の中は、火傷でべろんべろんになる。

 なる。

 なる。

 なるはずだったのだが――あれ?


「火傷……してない。っていうか、そもそもそんなに熱くない」


 豆腐が、実はそんなに熱くなかった?

 いやしかし、一瞬だけでも僕は熱さを感じていた。

 最初の一瞬だけ――それってつまり。


「ほら、この通りだ」


 さんごがスマホを見せる。

 開かれてるのは、昨日も使ったスキル検診のアプリだ。

 そこには、光魔法のサブスキルとして。


『熱耐性』


 が表示されていた。


「いったん光魔法に喰われた熱耐性が、身体に害となるやけどするレベルの熱を検知することで復活したってわけ。光魔法のサブスキルとしてね。生えた熱耐性のレベルは、光魔法と同じかちょっと下くらい。これから光魔法のレベルが上がってくのに合わせて訓練・・してけば、もっと高い熱にも耐えられるようになるわよ」


「もっと高い熱……」


「とりあえず出力を調整できるバーナーとか半田ごてでも買っとけば? 一瞬だけでも熱が通るわけだから、モンスターのブレスなんか喰らったら全身火傷で死ぬかもしれないし。だからそういう道具でね、目立たない場所にピンポイントで熱を加えるのよ。大丈夫大丈夫。熱いのは一瞬だけだし、ある程度以上の高温だと周囲の組織が蒸発してそもそも熱さなんて感じないから。それに――」


 それに?

 しかし、あえて問うまでもなく疑問は解消された。

 アプリの画面に、あらたなスキルが追加されてたからだ。

 

『肉体再生』


 なるほど。

 熱々の豆腐で、多少なりとも火傷はしていたわけだ。

 そしてそれが、新たなスキル『肉体再生』で治癒されたと。

 そういうわけか。


「はは。はは。はははははは」


 壊れかける僕には構わず、さんごが訊いた。


「ところで美緒里。この世界にはスキルレベルを測る魔導具は無いのかな? スマホの処理能力では実装が難しいんだけど」


「日本総支部にはあるわね。地方支部にあるスキルオーブじゃ無理だけど――PCは使えないの?」


「スマホのセンサーを接続すれば可能だ。セキュリティ機能を外した探索者用スマホは入手できるかな?」


「大丈夫。じゃあ、PCと一緒に手配しておくわね。明日中には届くと思う」


 そんな2人の会話を聞きながら、僕は思っていた。


 こんな『中堅芸人が体張ってるアピールでやる罰ゲーム』みたいなことを、僕は、これから何度もやらなければならないのだろうな、と。


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これで第1章は終わりです。

章間の1話を挟んで、第2章『新探索者向けダンジョン講習会』が始まります。


お読みいただきありがとうございます。

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