17.猫にメッセージを送りました
翌朝、学校に行くと――
校門の前で、担任の丸山先生が待っていた。
「おはよう春田。悪いが、ちょっと来てくれ」
というわけで、教室へ行く間もなく校長室に連れてかれた。
待っていたのは校長先生と、学校で見たことのないスーツの中年男性。
ソファーに座ると校長先生がスマホを取り出して、見せられたのはどらみんチャンネルのスクショだった。
僕が小刻みなステップというか足踏みで、ゴブリンを踏み潰してる場面だ。
校長先生が訊いた。
「君は、4月のスキル鑑定では陰性だったそうだね。最近スキルが生えて、それでダンジョンに入ったのかな?」
「いえ。自分がスキルを持ってることすら知りませんでした。飼ってる猫を追いかけてたら、偶然ダンジョンに入ってしまって……あの、本当に、いま僕にはスキルが生えてるんでしょうか?」
芝居ではなく、心からそう思って訊いた。
一般的な意見として、いま自分がどうなってるのか聞いてみたかったのだ。
「…………」
「…………」
校長と丸山先生は目を見合わせて――丸山先生が言った。
「柴田先生が解雇された……春田の個人情報をネットに流していたんだ」
「え…………」
柴田先生は美緒里のファンで、ここ最近、僕を見る目がキツかった。
しかし、そこまでしていたとは……
「謝る。こういった不本意な形で個人情報が公開された場合のガイドラインがあるんだが、今回のようにダンジョンが絡んだケースでは、探索者協会と協力しあって対処することになってて――こちらは、探索者協会の一ノ瀬さんだ」
初めて、スーツの人が口を開いた。
「はじめまして。探索者協会の一ノ瀬です。柴田先生がネットに公開した君の情報は、本名と通っている学校名、学校での君の生活態度、それから一ノ瀬先生が抱いた君への印象」
「印象……」
何故だか、怖くなる。
柴田先生は、僕のことをどう思っていたんだろう?
いきなり暗い顔になったのだろう僕を、丸山先生がフォローしてくれた。
「そ、そんなに気にしなくていいと思うぞ。柴田先生は受け持ちの学年も違うから、春田のことを詳しく、ちゃんと見ていた訳では無いだろうから。それに、彼女は春田美緒里さんのファンで、そういう……バイアス? バイアスのせいで見方に
「ぬははははは。丸山先生の言う通り! ドンマイドンマイ! イッツノットユアビジネス!」
(うわあ……)
多弁になる丸山先生にも、強引なキャラ変までして僕を気遣う校長にも、僕はいたたまれなくなるばかりだった。
そこで再び、一ノ瀬さんが口を開いた。
「
一言だけ言って、一ノ瀬さんはぐるっと他の三人を見回す。それだけで他の三人――僕も校長も丸山先生も、一ノ瀬さんを注視して次の言葉を待たざるを得なくなっていた。
「探索者というのは、一般の人より大きな力を持っている。スキル、ダンジョンでの経験、そこから得られる人脈、収入、名声――でも、人間というのはそれだけじゃない。逆に言うとそれ以外は、一般の人と変わらないんだ。だから大きな力を持った探索者は皆、
というわけで、これから探索者協会に行ってスキル検診を受けることになった。
●
探索者協会は、駅前の賑やかな場所にある。
出発する前、僕はトイレの個室に入り、スマホでメッセージを送った。
宛先は、さんごと美緒里と僕だけのグループチャットだ。
さんごも美緒里も、今日はこうなるのを見越して待機してくれていた。
光:探索者協会で検診を受けることになった
美緒里:あたしの言った通りね
さんご:僕の言った通りだね
光:昨日いっぱいスキル取っちゃったけど変に思われないかなあ
美緒里:だ~か~ら~
美緒里:昨日も言ったでしょ?
美緒里:大丈夫だから
さんご:逆に結果を見て光が驚くと思うよ
さんご:それを気取られないように気を付けないと
美緒里:無理無理。光には無理
さんご:無理だね。無理無理
美緒里:芝居が下手だから
さんご:芝居が臭いから
光:驚くって?
光:また新しいスキルが生えてたりするの?
美緒里:それは検診の結果を見て
美緒里:のお楽しみ
さんご:検診の結果を見れば分かるよ
●
不安を抱えたまま、一ノ瀬さんに連れられ探索者協会に。
探索者協会の建物は、昔、デパートだった場所だ。
スキル検診を受けるのは、最上階の事務所の隅に作られた検診ブース。
スキルオーブは、学校の検診で使ってるのと同じだった。
そもそも、学校の検診で使うスキルオーブもここから貸し出されているのだ。
(さんごは、驚くかもって言ってたけど……)
スキルオーブに触れると、当然だけど、スキルが生えてた。
確かに、驚くべき結果だった。
「なるほど……」
と、一ノ瀬さんの呟き。
検診はこれで終わりで、検診結果のプリントアウトと探索者登録の申し込み書、それから未成年ということで保護者の同意書を貰って帰った。
家に着くなり、僕は訊いた。
「どうして、光魔法だけなの!?」
検診結果に書かれてる僕のスキルは、光魔法だけだったのだ。
たくさんスキルを取ったはずなのに――たくさん料理を作ったのに!?
どうして!?
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