132.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(6)-7

「では教えてくれないか? 君が任されている、仕事について」


 さんご君に問われ、スウェインと名乗る男が話したのは、彼らの世界と私達の世界――2つの世界の、ダンジョンを挟んだ交流の歴史だった。



 100年前のことだったという。


 彼らの世界に、異様な風体の男が現れたのだそうだ。


 後ろでまとめた髪は汚れ、東方様式にも見える奇妙は衣服もまた、汚れていた。


 ただ彼の持つ剣だけは、夜の闇が裂けてそこだけ昼間が覗いたかのように輝き、その輝きがひらめく度、ならず者やモンスターが血を吹き切り倒されたのだと伝えられている。


 ダンジョンで遭難しかけていたパーティーを助けたことでその男は発見され、そのまま冒険者ギルドに保護された。


 言葉は通じなかったが、地方の牧師が持っている程度の翻訳スキルで会話は可能となり、聞いてみると、男は日本という国から来たのだという。


 聞き慣れぬ国名でもあり、男のことは王都の冒険者ギルド本部に報告された。


 この時点では、1ヶ月もあれば返事があるだろうと、ギルドの支部長は考えていた。


 そしてその後の1ヶ月間で、男はギルドになくてはならぬ存在になっていた。


 腕がたつのはもちろん、真面目で人なつっこく、片言ではあるが言葉もすぐに憶え。荒くれ者ども揃いの冒険者達に見る間に溶け込み、まるで何年も前からそこにいたかのように、冒険者ギルドに自分の居場所を築きあげていた。


 そんな1ヶ月間が経ったわけだが。


 王都からの返事は、未だ無かった。その後も男の活躍は続き、定期的に行われる森やダンジョンでのモンスターの間引きでは、分隊長を任されるほどになっていた。


 そうして2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月……


 ようやく王都からの返事が届いたのは、男が現れて1年も経とうかという頃だった。


 王都のギルド本部長からの手紙に書かれていたのは、驚くべき事実だった。


 まずは、男と同じ『日本』という国から来たという人間が、何人も発見されているということ。


 彼らが発見されたのが、いずれもダンジョンであったこと。


 そしてこの事態を、王家が『バルダの末裔すえ』の企みではないかと考えているらしいということ。


 バルダとは、かつて大陸中を巻き込む恐ろしい企みを企てたといわれてる一族だ。


 その企てがどんなものであったかは残っていないが、大陸諸国の連合により彼らが討伐され、どこかに姿を消したことだけは伝えられている。


 王家の命で行われた調査により『日本』からの来訪者は、いずれも新たにダンジョンでみつかったゲートを通じて、その向こうにある異世界から訪れたのだと判明していた。


 この調査結果をもって、『バルダの末裔すえが異世界で力を蓄え、再び大陸に攻め入ろうとしているのではないか』と王家は考えているというのだ。


 しかしその後、こちらからも異世界に人を送って調査を進めたところ、異世界に『バルダの末裔』らしき存在はみつからず、逆に異世界側でも、こちらの世界からの侵攻や、異世界の滞在人がこちらの世界に逃げ落ちることを恐れていることが分かった。


 そういった認識が共有されれば、2つの世界に協力体制が生まれるのに時間はかからなかった。


 異世界側の『財団』と名乗る組織と、この世界の冒険者ギルドが手を結び、2つの世界間の人の往来を管理することになった。


 異世界からの来訪者は、大陸の各国で発見されており、同じく『バルダの末裔』に対する恐れも、各国で生まれていた。


 それを取りまとめて動くには、やはり各国をまたいで支部を展開する冒険者ギルドという組織は、うってつけの存在だったのだ。


 こうして異世界から訪れた人間は冒険者ギルドが保護して送り返し、逆にこちらから異世界に行った人間は『財団』が保護して送り返すという行いが、その後の100年間、続けられてきた。



「といった経緯で、冒険者ギルドにはそれ専門の部署が作られ、慣例として王家から、私のような者が身分を偽り送り込まれている、という次第で――そちらの世界で『バルダの末裔』が見付かった際には速やかに引き渡しが行れるよう、取り決められた手続きに遅滞を生じさせないため、備えております」


 依然としてお尻丸出しのまま話しきったスウェインに頷くと、さんご君が言った。


 今度は、天津さんに。


「では天津は『財団』という組織のメンバーなんだね?」


「ちっ、そうでーす」


 こちらはお尻丸出しどころか、ほぼ全裸にお情けで探索者ジャケットをかけられただけの状態の天津さんが答える。


「この世界のダンジョンとスキルシステムを作ったのは、君たちなのかな?」


「さあ、どうでしょうねえ?」


「10年前、この世界の知的生命体にスキルシステムを解放したのは?」


「ぴーぴぴっぴぴー」


 こんなふて腐れた口笛を聞くのは、生まれて初めてだった。


「分かった。どうやら君たちは、僕が気を遣ってやるほどの相手ではないようだ。では、君たちに伝えよう。僕は、遠からず、この世界のスキルシステムをハックし、完全掌握する。その時、君たちが掌握する情報は全て無価値なゴミ屑となることだろう。もちろんその時期は、いくらでも前倒しに出来る。たとえば僕の仲間に、おかしなことが起こったりしたらね――では、さようなら。『財団』とやらが、君みたいな汚いスキルセットの持ち主ばかりでないことを願うよ」


 さんご君が踵を返し、私達もその後を追って脇道を後にする。


「ちくしょう」


 という声を、背中に受けて。


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