叔父に家を追い出された僕が異世界から来た猫と出会い、ダンジョン配信でバズ狙いすることになった件。ちなみに元アイドルで美少女探索者の従姉妹は僕にべた惚れです
132.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(7)
132.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(7)
Side:美織里
「うい~っす。みおりんで~っす。今日はね、OFダンジョンに来てるんですけど~」
「それは……誰に向かって言ってるのですか?」
「最近、配信やってないからさ~。勘を取り戻すため? 実況の練習?」
胸元に収めた光のフィギュア――リュ=セムに、あたしは答えた。
いまあたし達はOFダンジョンのゲート近くに来ていて、あたしのお尻の下にはOF観音がある。
簡単に言えば、OF観音の頭の上に座っているというわけだ。
OF観音は全高25メートル。高台の上に建っていて、おまけに地方で周囲に高い建物がないから、見晴らしが良いことこの上なかった。
海は見えないけど、近くに海があるのは分かる――そんな景色だ。
(海……行きたいな)
ちょっと前までなら、そんなかことを思うとき浮かんでくる顔は、光だけだっただろう。
「何を……笑っているのですか?」
「いやいや、何でもないっていうかさ、さっきのカレンの顔を思い出したらさあ」
リュ=セムに突っ込まれ、あたしは取り繕った。
別に、嘘は言っていない。
さっきOFダンジョンに入っていったカレン――正確には、宇宙人の将軍『ゲラム=スピ』の宿った偽カレンの顔は、笑うしかないものだったのだ。
「あいつマジで悔しそうだったよね。ウケるわ~」
「それはそうですよ……」
リュ=セムの声は非難がましい。
あれからまだ、10分も経っていないだろう。
偽カレンに連れられ、宇宙人の大群がここを訪れたのだった。
それをあたしが……そうだ。
「さっき来たあいつら『鎧』を付けてたよね?」
「『鎧』――『
「てことは『王子擁立派』?」
「そうですね。『暗殺派』に『
「さっすが『暗殺派』だけあって詳しいね~」
「むぅ……」
王子を追って地球に来るため、リュ=セムは『暗殺派』に加わっていたのだという。彼女は王子の護衛騎士なのだが、母国での彼女は『王子に手籠めにされた哀れな女騎士』と認識されていて『暗殺派』に加わるのも容易だったのだそうだ。
「手籠めになど……されていないのですけどね」
と、リュ=セムが頬を赤くして言うのを無視して、あたしは続けた。
「じゃあ王子の推測は当たってたわけだ」
「そうですね。『ゲラム=スピ』は『王子擁立派』です」
駅前で偽カレンに襲われた際、光は偽カレンの言葉に疑問を感じたのだという。もちろん何を言ってるのかなんて分からないんだけど――
『
カレンがいつも言ってる『ギョーーーム』とは違うその言葉に違和感を抱き、帰ってから王子に訊ねてみると。
「それは『逃げろ』という意味だ」
王子は、そう答えた。
「『ゲラム=スピ』に我らを害するつもりは無い――やつは擁立派ということか」
とも。
そしてこの答えから分かるのは、それだけではなかった。
いまOF観音からの景色を臨みながら、あたしは何度も繰り返した考えを、また確かめながら呟く。
「『ゲラム=スピ』に、あたし達を害するつもりはない。なのに襲ってきた、ということは自分以外の意思に支配されている。カレンからは姿と情報を入手するつもりだったのに、逆に作った身体を乗っ取られて光達を襲い――いや、完全には乗っ取られてはいなかったけど、カレンの欲求を満たすため襲撃するポーズだけ取ってみた? でも負けそうになったところでカレンの意思が全面に出て、それを抑えられそうになかったから『逃げろ』と――そういうこと?」
間違っていてもいい。事前に掘り下げておくことが必要なのだ。本当の答えを目にしたとき、惑わないために。
別の疑問が浮かんでくれば、それも口にする。
「最初に王子のところに来た奴も『鎧』を付けてたんだよね。少しは会話もしただろうし、あの王子なら相手が擁立派だって察したかもしれない。それをあたしたちに言わなかったのは……?」
ぶつぶつ言うあたしを見上げながら、リュ=セムは。
「私は……王子のお心に従うだけです」
とだけ言った。
メッセージが届いた。
さんご:偽カレンが現れた
さんご:ついでにOF観音も
さんご:僕らは『丘の向こう』に待避する
さんご:入れ替わりで光が砂浜に戻る
さんごアウト、光インってことか。
さんご:頃合いを見て、君は横っ面を叩いてやれ
さんご:ドローンの配置も万全だ
さんご:さあ、派手にバズらせようじゃないか
そんなの、言われるまでもない。
気付くと、あたしは右腕を擦っていた。
そこには、翼を広げた鳥のような模様が刻まれている。
「美織里。その笑い方はなんというか…………悪そうです」
とリュ=セムには嫌な顔をされるのだが、無理は言わないで欲しい。思い出しただけで、笑みがこぼれてしまう。
その数は100を超えてただろう。多数の部下――黒い球を引き連れ、偽カレンはここを訪れた。
しかし……振り向けば、いまそこには。
拉げ、潰れ、溶け、焼け焦げた黒い球の残骸が、地面に転がっている。
あたしの右腕に宿る新しいスキルの前に、黒い球は、あっけなく全滅させられたのだった。
1人残された偽カレンが、悔しげな顔で、しかしこちらに向かってくることはなくダンジョンのゲートに歩いて行く、とぼとぼした後ろ姿、そして何度でも、思い出しただけで笑いがこみ上げてくるあの悔しそうな顔!
「きひひひひひひ!!」
あたしとリュ=セムがダンジョンに潜ったのは、その10分後のことだった。
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