叔父に家を追い出された僕が異世界から来た猫と出会い、ダンジョン配信でバズ狙いすることになった件。ちなみに元アイドルで美少女探索者の従姉妹は僕にべた惚れです
133.猫と久々の探索です(12)VS偽カレン
133.猫と久々の探索です(12)VS偽カレン
目の前が暗くなり、次の瞬間、砂浜にいた。
洞窟の脇道にあったゲートから、また変な場所に出てしまうかもしれないという恐れもあったけど、無事『丘の向こう』からの脱出に成功した。
安堵する間も、なかった。
「
100メートルも離れてない場所に、偽カレンがいた。
加えて姿はずいぶん変わったけど、レストランから逃げてここに来たに違いない『肉』の大群と。
「OF……観音?」
海に立つ巨大な観音像――OF観音。何がなんだか分からないけど、攻撃してくる可能性が高いし、危険極まりないのは確実だった。
しかし。
攻撃する側も、される側も声をあげることなく。
ずん……と地響きがして大量の砂が飛び散り、そんな景色の中で、OF観音の拳が『肉』の群れへと叩き込まれていた。
記憶に蘇ったのは、王子を追ってきた宇宙人には『王子擁立派』と『暗殺派』の2種類があるという情報だ。
『肉』とOF観音は、敵対する派閥ということか。
ずん……と、今度は踏みつけ。それで数体は潰れたけど、残った『肉』の数はまだまだ多い。
「
僕は僕で、偽カレンに肉薄されていた。
前回は最後まで使わなかった鎖――『
「鎖!」
こちらも、鎖で対抗する。がいん!――金属音とともに跳ね返される。僕の鎖が。もともとカレンの鎖を真似した劣化版だからかなうわけがない。
でも「重力!」そして「
最後は、これだ。
「
さっき思い付いたぶっつけ本番の技が、偽カレンの首筋に叩き込まれる――寸前。
「
受け止めたのは、拳――『
ぼろり、と。
「「……!!」」
お互いに下がって、距離を取る。
分かるのは、初めてカレンと戦った時に感じたプレッシャーが、精神攻撃によるものだったということだ。
もちろん、いまもプレッシャーは感じている。
でも精神攻撃への耐性を身に付けたいま感じるそれは、以前のような敗北と恐怖のイメージを浸透させてくるようなものではなかった。
横目で見れば――
ずん……OF観音の拳や。ずん……踏みつけに潰される『肉』は、かなり少なくなっている。残った『肉』が、それだけ少なくなっているのだった。
ぴん、と。
僕の指先から跳んだ何かに、偽カレンが目を奪われることはなかった。
まっすぐ僕を見たまま、まっすぐ進んで。
絶対腐食の拳――『
僕も、まっすぐ下がってそれを避けた。
偽カレンが更に踏み込み、追撃を放とうとした、その時だ。
「
横合いから伸びてきた無数の線が、偽カレンの全身を絡み取っていた。緑の線だ。辿っていけばその根元は、そう離れていない場所にある『肉』の死骸にあった。
「
線の先からはヒマワリのような花が咲き、中央に生える無数の種が歯となって、偽カレンの肌を食い破り、肉を食み始める。
『
美織里に教えられた技だ。魔力の種を飛ばし、そこから生えた植物に相手を喰らいつくさせる。いま偽カレンを喰らってるのは、僕が飛ばした種から生えた花で、攻防の最中に僕の手から跳んだ『何か』こそが、その種だった。
ばん!――花が爆ぜ、飛散した種が偽カレンの体内に潜り込む。種から茎が伸び、花が咲けばそれで終わりだ――予想はしていたけれど。
それで、終わるはずがなかった。
「
絶叫と共に、偽カレンの全身から濃密な魔力が吹き出した。花や、その種が穿った穴から。炎となって。潜り込んだ種や、縛り付ける茎を燃やし尽くしながら。
双眸は、僕を捉えて放さない。
見られてるだけで、自分が腐り始めてるような気がしてくる視線で突き刺してくる。
(これは……カレンだ)
そう、確信する。
偽カレンの中には、2つの人格が宿っている。少なくとも僕や美織里はそう考えている。カレンと、宇宙人の将軍『ゲラム=スピ』の人格だ。
カレンから姿と情報を得た際、カレンの人格まで吸収してしまい、主導権の奪い合いになっているというのが美織里の考察で、僕もそう思っている。
駅前で戦った時の偽カレンは、最後を除いて『ゲラム=スピ』だったのは間違いない。人格の入れ替わりとその直前に使っていたスキルを考えると、スキルを使っている時、身体の支配が弱まる――スキルに集中が割かれるから? とも思える。
いま偽カレンが使っていたのは、カレン本人のスキルだ。
では『ゲラム=スピ』は何を?
ずうん――OF観音が、答えだろう。望んだ物を魔力で作る。それが『ゲラム=スピ』のスキルだ。OF観音を作って動かしているのが『ゲラム=スピ』なのは間違いなかった。
そしていま。
最後の『肉』が、叩き潰された。つまり『ゲラム=スピ』の負担が減り、その分だけ肉体の主導権争いに集中出来るということになる。
結果として――
「……………………」
偽カレンは沈黙した。
棒立ちになって、視線に宿ってた力も失われている。
(叩いて……いいのか?)
新たに作ったバットを構え、大洋のミヤーンのフォームで僕は固まっていた。
(叩けば……勝てるのか?)
仮に偽カレンの身体を粉砕したとして『ゲラム=スピ』はOF観音に戻るだけ――そう思えた。ではその時、偽カレンの中にいるカレンの人格はどうなる? 2つの魂が入り交じった精神のキメラ――そんなイメージに、背筋を震わせたのと同時だった。
偽カレンの中での、争いが終わったらしい。
OF観音が手を伸ばすと、偽カレンを掴み、口の中に放り込んだ。
呆然と見上げる僕の目に映ったのは、その数秒後、OF観音の額から飛び出し、放物線を描いて地面に落ちていく、銀色の塊――情報生命体の身体と鎧。
何が起こったかは、明白だった。
『ゲラム=スピ』が敗れ、自らが作った偽カレンやOF観音から弾き出されたのだ。
と――声がした。
「塞ぐでないぞ!『ゲラム=スピ』! 貴様はまだ敗れてなどおらぬ!」
そう言って王子は、落ちていく銀色の塊――『ゲラム=スピ』を、どらみんに咥え取らせたのだった。
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