132.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(6)-3

Side:パイセン


『肉』は、さっき見た動画とずいぶん違った姿になっていた。


 動画で見たのは、薄切りだったり固まりのままだったりの、まさに『肉』そのものだった。


 けれどいま砂浜の端から端まで使って進んでくる大群は、2本だったり4本だったりあるいは8本だったりと本数に違いはあるけど、どれも手足を持っている。


 頭部と思しき盛り上がりには、やはり個数はばらばらだけど、目や口らしき穴まで開いていた。


 サイズは大型犬。いや、仔牛くらいはあるだろうか。いずれにせよ、元の『肉』と比べたらずっと大きい――さんご君が言った。


「1層で、モンスターを喰らったようだね」


 なるほど。

 だから、あんなに大きくなったわけだ。


「ではパイセン――派手にやってくれ!」

「はい!」


 距離は500メートルといったところ。


 まずは、これだ。


「エアステップ・自在!」


 空中に、魔力で『足場』が作る。それが私のスキル『エアステップ・自在』だ。


 以前は私が触った場所にしか足場を作れなかったけど、訓練して、いまでは触ってない場所にも作れるようになっている。


 次から次へと足場を作って、足場の連なりが高さ5メートルまで届く階段になるのに、2秒もかからなかった。


 そこから今度は水平に足場を伸ばして、10秒後、私は『肉』の大群を見下ろす位置にいた。


 間近で見る『肉』は、仔牛どころか熊くらいの大きさだった。


 でも、構わない。

 次は、このスキルだ。


 浸透殺。


 相手の体内から狙った内臓を抜き取るのが『浸透殺』だ。でも狙いを付けるのに時間がかかり、相手に逃げられやすいという欠点があった。


 この欠点を、どう補うか私は悩んだ――でも気付いてさえしまえば、簡単なことだった。


 狙わなければいいのだ。


「浸透殺!」


 スキルの魔力を『肉』の群れに向けて放つ。狙わず、雑に、水をかけて浸透させるように。


 それが出来たら次は――掴む。


 掴めそうなところを、とにかく掴む――そういうイメージで。このやり方を試し始めてすぐ分かったことだけど、そして予想してたことでもあったのだけど、生物には共通して掴みやすい場所があった。


 骨だ。


 眼下にいる『肉』の何体かの、骨を掴んだ感触があった。そして掴んだら――


 引く。


 掴んだ骨を、引っ張って抜き取る。もちろん抵抗はある。抵抗の強さは、相手の強さによる。抜き出すには、それに応じた魔力が必要だ。


 でも、これもまた気付けば簡単なことだったのだけど、抜き出す必要もまた、なかった。


 抜き出さなくても――そこまで行かなくても。


 私に骨を引っ張られ、抵抗する。当然、力が必要だ。ではどこにその力がかかるかといえば、私に引っ張られてる『骨』でしかありえない。


 そして力がかかり続ければ、いずれは壊れる。1番弱い場所から。骨の1番弱い場所といえば、軟骨だ。軟骨が壊れれば、関節の動きに支障が出る。


 当然、歩行にも。


『肉』の群れを見れば、つんのめったように倒れてるのが4,5体。どれも私が『掴んだ』個体なのは、いうまでも無い。


 倒れた個体に躓いて、後ろから来る個体も倒れる。何度か『浸透殺』をかければ、局所的な将棋倒しの余波が、大群の全体に伝わり始めた。


 さんご君の、号令が響く。


「よくやったパイセン! 次は前衛組だ! 左翼前方から崩せ!」


 勢いを失った『肉』の群れに前衛組――彩ちゃん、猪川さん、二瓶さんが襲いかかる。


「でっしゃああ!」


 彩ちゃんがメイスで潰し。


「『風刃』!」


 風魔法を纏わせた双剣で猪川さんが斬りかかる。


「しっ! しっ! しっ!」


 二瓶さんのあれは――あれが『跳独楽はねこんま』というスキルなのだろうか。攻撃を加えては瞬間移動したように位置を変え、また攻撃を加えては瞬間移動する姿は、まさに独楽が跳ねてるような様だった。


「海側に回り込め!」


 さんご君の指示で、前衛組が位置を変える。


 さんご君が、二瓶さん達をイデアマテリア所属にした理由が分かった気がした。無理矢理にでも契約して秘密を明かさなければ、こんな風にスムーズな指示を出すのは難しかっただろう。


 そんなことを考えながら、私は次の段階に移行する。


「エアステップ・自在!」


『肉』達の頭上――今度は彼らの頭上すれすれにエアステップの足場を展開する。足場は盾としても使える。でも強度はそれほど無い。正面から力をかけられたら簡単に破られてしまう――正面からなら。


 ヒント1――一昨日の戦闘。


 真正面からでは簡単に破られた足場の盾は、でも角度を変えて縁を相手に向けたら、壊されなくなった。


 ヒント2――さんご君がくれたイメージ。


『肉』達に縁を向けた足場を、その縁が六角形を作るように並べる。蜂の巣のように。『肉』達の頭上に無数の六角形が並ぶ。


 さんご君がくれたイメージは、ハニカム構造の概念図だった。ハニカム構造は強度が高い。つまりいま『肉』達の背丈すれすれに、とても頑丈な天井が出来たことになる。


 するとどうなるか――


 頭の上下を抑えられ、跳ぶことはおろか歩くことさえ困難になるのだ。


 こうして機動力を削がれた『肉』の大群に、前衛組が襲いかかる。


「ふんがあ!」

「せい!せい!」

「しっ!しっしっ!」


 と、ここまできて気付いた。


「……おてもやん?」


『肉』の大群の真ん中に、おてもやんの姿があったのだ。『肉』から攻撃されてはいるのだが、ふらふらと回避して見た限り無傷だ。


「『丘の向こう』に、行かなかったんだ」


 ということは――声がした。


おてもやんあいつが! あいつがゲボ吐いたせいで、わしらは海に連れ込まれたんじゃ~! それなのに、あいつは自分だけ平気で! 平気で! 平気で!」


 マリアだった。


「ほれ尾治郎! お前も言ってやれ!」

「いや、俺は別に……」


 マリアは尾治郎さんに肩車されている。マリア、おてもやん、尾治郎さん。イデアマテリアが派遣したサポートスタッフは、この3人だ。


 つまり、サポートスタッフは全員無事。


(これなら……光くんも)


 自然と『丘の向こう』にいる4人のことが思い出された。


 その時だった。


「「おほぉ~~~い!!」」


 丘の向こうから、蝶野さんと鹿田さんが駆けてきたのだった。


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