132.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(6)-4

Side:パイセン


「おほぉ~~~い!!」」


 丘の方から、蝶野さんと鹿田さんが駆けてきた。


「も、戻れたぁ……信じてなかったわけじゃないけど……はぁ、はぁ」


 息を切らせてるのは、全力疾走ではなく安堵が理由だろう。2人とも背筋は伸びたままで、まだまだ体力を残しているのが感じられた。


「それで――」

 

 続けようとして、蝶野さんがはっとした顔になる。

 それもそうだろう。

 彼女たちが戻った理由を話すなら、光くんが一緒にいない理由も話さなければならないのだから。


「…………」


 無言で、私は続きを促した。

 蝶野さんが、言った。


「ぴかり――春田君は『丘の向こう』に残った。丘の向こうあそこは洞窟になってて、私たちは出口を探して探索してたんだ。そしたら――」


 天津さんの知り合いみたいな人が現れて、その人が光くんに絡んできて、それで――


「それで春田君が、私たちに『逃げろ』って……私たちは、あそこから帰る方法を知ってて、それを春田君も気が付いてたみたいで……だから、そう言ったんだと思う」


 疑問は、なぜ彼女たちが『丘の向こう』からの脱出方法を知ってたのかだが、王義捐の探索部の顧問が天津さんと昔知り合いだったのだそうだ。昨夜、講習の講師が天津さんという人だったとメッセージを送ったら『丘の向こう』からの脱出方法を教えてくれたのだという。


「先生も『丘の向こう』に行って……帰った人だったんだ。先生の時も天津さんが一緒で、偶然を装ってたけど、先生は天津さんがしてることに法則があるのを見抜いて、次は自分1人で『丘の向こう』に行って、自分の仮説が正しいのを確かめて……」


 もともと先生は天津さんから仕事に誘われてたそうなのだけど、1人で『丘の向こう』に行ったのと同時にその話がなくなり、連絡すら途絶えて――


「それで先生は探索者げんえきをやめることにしたって言ってた。探索者としての勘が、そうしろって言ってるような気がしたって……先生じぶんの時とは事情が違うから大丈夫だろうけど、天津さんと一緒にOFダンジョンに潜るなら、何も起こらないとは言い切れないからって丘の向こうあっちから帰る方法を教えてくれたんだ」

「そう……だったんですか」


 自分は今どんな顔をしているのか? いつか見たみおりんみたいな顔をしているのだろうか。どきどきしてるけど、数を数える必要はなかった。


「春田君には、私達が聞いた帰り方を教えたから。私たちが帰って来れたってことは――」

「だったら……大丈夫、ですね」


 戻っていた――再び、宿っていた。

 私の中の、光くんを信じる気持ちが。


 ところでだ――


 戦闘中にこんな話をしていられるのは、他のみんなががんばってくれてるからだった。


「うえ”……おえ” っ。うえ 、うえ”えええ……」

  

 おてもやんは『肉』の攻撃をふらふら避けながら、時々思い出したように酒瓶で殴っている。


「ほれほれ尾治郎。足下はまかせたぞ~い」


 マリアはといえば尾治郎さんに肩車され、無数の黒い手を『肉』に伸ばしていた。


 影のように薄く、ひらひらした手に触れられた『肉』はぱたりと力を吸い取られたように失って倒れるのだけど、それをかいくぐって近寄った『肉』もいるのだけど、でもそれも――


「う”らっ! こっち来んなボケっ!」


 ダイヤモンドと化した尾治郎さんの足で蹴り返されている。


「ふんがあ!」

「せい!せい!」

「しっ!しっしっ!」

「動くよっ!」

「「おうっ!」」


 そして彩ちゃん、二瓶さん、猪川さんの3人は絶えず位置を変えながら、大群の外縁から『肉』を叩いていた。


 では、私も――戦列に戻るべく考えを巡らせ始めた、その時だった。


「さて、まんまと均衡状態を作り出せたわけだが」

「「うわわっ!」」 


 いきなり喋り出したさんご君に、驚く蝶野さんと鹿田さん。


 そんな2人に「にゃおん」と微笑みかけるさんご君は、戦いが始まってからずっと、宙に浮かぶ透明な板に乗って移動していた。そしていまは、私たちの視線の高さの最大公約数みたいな場所で浮かんでいる。


「現在、僕らと『肉』達の戦力は拮抗している。しかしこちらに奴らを磨り潰すだけの火力がない以上、守勢は覆らず、時が彼らに味方して、いずれは各個撃破されることになるのは自明だ」


「……確かに」


 頷く蝶野さんの顔からは、一瞬で狼狽が消えていた。


 これだけ異常な事態が重なった現状で、いきなり猫が喋ったところで今更たいしたことでもなく、それよりその猫の話す内容があまりに深刻で、的を射ていたからだろう。


 それは、私も同じだった。


 きっと、鹿田さんも。続きを促すことすらなく、ただただ、さんご君の言葉の続きを待った――さんご君が言った。


「では、どうしたら良いか――簡単なことだ」


「「「……」」」


「擦り付けてしまえばいい。僕ら以外の誰かにね――例えば、あいつとか」


 あいつ。


 さんご君の視線を追って、私達も見た。


 あいつを。


fldskfjsギョーーーーーム


 いま『肉』達の向こうに現れた、偽カレンを。


fldskfjfdっssギョーーーーーーーーーム


 さんご君が私たちに話してるのを聞いてたのだろうか、それとも私たちより先に聞かされてたのだろうか。


「行くぞい! 尾治郎」

「おうさ!」


 マリアと尾治郎さんも。


「さあ、私達も――島津もびっくりの退き口を見せてやりましょう!」

「「おう!」」


 彩ちゃんたちも、既に駆け出していた。


 偽カレンに向かって。


 それは、私達も同じだ。


「行きましょう――私の後に着いて来て下さい!」


 蝶野さん達を連れ『肉』の大群の上に張った足場を走り出す。


 同時に新たな足場を展開して、他の2組にもその上を走ってもらった。


 足場の上――すなわち『肉』の大群の頭上を全員で走って、更に展開した足場で偽カレンの頭上も越え。


fldskfjfdっssギョーーーーーーーーーム!!』


『肉』どもを、偽カレンのもとへと誘導するのに成功したのだった。


 そして――


「では、僕らは逃げるとしよう。彼らの戦いの余波に巻き込まれたくはないからね」


「逃げるって、上の階層に?」


「そんな悠長なことをしてる暇はないよ。ゲートまでどれだけ距離があると思うんだい? それよりもっと近くにあるだろう? バグったダンジョンが連れていってくれる、格好の逃げ場所が!」


(それって――)


 心の中で問うのと、答えが出るのと、答え合わせが行われたのは、ほぼ同時だった。


 にやりとさんご君が笑った、次の瞬間。


 さんご君の全身から濃密な魔力が放たれ、捻じ込むような強引さで周囲の空間に溶け込むと。


(『手』!?)


 現れた無数の『手』が、私達に絡みき、そして私達を連れていった――

『丘の向こう』へ。


 そして目の前の景色が暗転する寸前、私は見たのだった。


(OF……観音!?)


 海から巨大な観音像――OF観音が現れるのを。


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お読みいただきありがとうございます。


あと1回か2回で、パイセン視点は終わる予定です。

基本的に、思い付いたアイデアは全部突っ込んでいくのがこの作品の方針です。


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