猫と日常と彼女たち
55.猫もごはんにシチューをかける
ダンジョンから協会に戻って、1時間くらいで講習は終わった。巻島の件についても、後日必要があったら呼び出しがかかるということで、今日は簡単な聴取に留まった。
外に出ると、美緒里とさんごが迎えに来ていた。
「何か聞いた? 何かダンジョンであったとか」
「何もなかったけど?」
「へえ……ぼそっ毒を飲むことにしたんだ」
「?」
協会の前の歩道で、そんなぼんやりした会話をしていると。
「お、お疲れ様!」
「お疲れ様。神田林さん――次の講習は受けるの?」
「わ、私はかなり先になると思います――では!」
ついつい忘れそうになるけど、美緒里は有名な探索者だ。そんな美緒里とばったり出くわしてしまったからだろう、緊張した面持ちで去ろうとする神田林さんに、声をかける人がいた――春田美緒里という人が。
「神田林さん? ちょっといいかな」
「は、はぁ、あ、あ、はい!」
「神田林さんは……っていうか、あたしは16歳なんだけど、神田林さんってタメ? パイセン?」
「ね、年齢的にはパイセンです」
「じゃあ、神田林パイセン。来週、講習受けないの? 新探索者向け講習の3回目」
「え、う、受けたいとは思ってるんですけど、同行者が見つかるか分からなくて……」
「どういうこと? 光? 同行者なんて協会が見つけてくれるんじゃないの?」
訊かれて驚いた。
「美緒里、知らないの?」
「知らないわよ。新人はベテランに同行してもらわなきゃならないだとか、あたしが探索者になった頃は、そんな決まりなかったし!」
「あ~、美緒里が探索者になったのって6年前の準最初期だから」
「なんかさ、それ、遠回しにババアって言われてる気がするんだけど」
「いや、そんなことなくてそんなことなくて……」
「じゃあ、なんなの!?」
と、詰められそうになってる僕に、神田林さんが助け船を出してくれた。
「あのっ!――同行してくれる探索者を見つける時って、協会に依頼を出すんです。でも協会の同行依頼を受けてくれる探索者さんってあまりいないみたいで、探索者さんの都合にあわせて、1回で何人も新人を同行させるのが普通なんです。休日はすぐ埋まっちゃって、予約が取れるのは平日がほとんどで、だから学生の私には……前回は、偶然、日曜日に弓ヶ浜さんのスケジュールが空いてて同行してもらえることになったんですけど……」
「ちょっと待って。弓ヶ浜って――もしかして、さっき巻島と揉めた時に光と一緒にいた、あの女!?」
「いや美緒里、あの女って言い方は……あ、弓ヶ浜さんだ」
車道を走ってく車の助手席に、弓ヶ浜さんの姿が見えた。
そして運転席には、山口先生。
車は僕たちの前を通り過ぎ、まっすぐ進んで、2つ先の信号を過ぎたところで駐車場に入った。
ホテルの駐車場に――そういうこと!?
いやしかし、ホテルに入るにしても、こんな協会に近いところで……呆れと驚きに、僕が心を乱されていると。
声がした――う”ぇふっ、う”ぇふっ、う”ぇふっ。
「う”ぇふっ、う”ぇふっ、う”ぇふっ。どうやら新たなヒロイン登場というわけではなかったようですなあ。う”ぇふっ、う”ぇふっ、う”ぇふっ、う”ぇふっ」
「美緒里……いくらなんでもそのキャラはわけが分からないよ。っていうか、そのキャラはどうかと思うよ」
ところで、そんな僕らを見る神田林さんはと言えば――
「
虚無の目だった。
そしてそんな神田林さんに声をかける人がいた――まあ、美緒里なんだけど。
「そうそう。同行する探索者が見つからないって話だったよね。だったらさ、あたしが同行するわ。今度の日曜でいい? 光とGGダンジョン行くから。パイセンも一緒に行こ?」
「……え、あ」
「ね?」
「はい……」
「じゃ、まずはDINEで友達登録ね」
「…………はい」
というわけで、神田林さんとダンジョンに行くことになった。
「
疲れ切った様子で去ってく神田林さんを見送り、僕らも帰宅の途につく。
「光、スキルを見てごらんよ」
夕食(昨日の残りのごろごろ野菜シチューに揚げた山菜をアクセントに使ったシーザーサラダという手抜きメニュー。ちなみに僕もさんごも美緒里もごはんにシチューをかけるのは容認派)の後、さんごに言われてスキルを見てみると……
『収納』
『浸透』
『緩み』
『重力自在』
新たに生えたスキルは、巻島のそれと同じようで、でも微妙に異なっていた。
「あたしも見覚えないスキルね。使ってみれば分かるでしょって言いたいところだけど……巻島から盗んだスキルだし、さんごが言ってたみたいに、剣術の修行をした方がいいかもね。特に『緩み』『重力自在』は、巻島の『脱力』や『重力』より高等なスキルの気がする。剣術を修行することで巻島がスキルを得た過程をなぞれるかもだし、更にその先で、このスキルの使い方も見つけられるかもしれない――そうそう。このあいだ話した古武術研究家だけど、来週あたりアポ取れそうだから。そしたら一緒に行こうよ」
というわけで、僕の予定はどんどん埋まっていく。
ちなみに今週の土曜日は、教習所を借り切ってバイクの練習だ。
一方、美緒里の予定はというと――
「明日は朝から協会に呼ばれてるから……ごめん。学校は1人で行って」
というわけで翌日、僕は1人で登校したのだが。
教室に入るなり、衝撃的なニュースを聞かされることとなったのだった。
「えっ!! 山口先生が亡くなった!?」
===========================
お読みいただきありがとうございます。
山口先生は、別作品で異世界転生できたりするといいですね。
次回は、あの人が再登場します。
面白い!続きが気になる!と思っていただけたら、
フォローや☆☆☆評価等、応援よろしくお願いいたします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます