54.5 猫と美少女は意外と仲良し(3)

「巻島ってさ、あれ、かなり弱ってたわよね」

「そうだね。光に魔力を吸われて、スキルを弱体化された状態だった」


 光たちと別れて、今あたしたちは、YYダンジョンの深層を飛んでいる。

 

 今日乗っているのは、浮遊型沈降装置『シルバーサーファー』の5号機『ダガー』。先端のエッヂを2次元素材の刃で覆い、ついさっき巻島の日本刀を真っ2つにしたばかりの最新鋭機だ。


「光は、巻島のスキルを盗んだのよね?」


「ああ。本人は気付いてなかったけど、元々『透過』と『重力』は生えてたからね。それが巻島の『雑味』でレベルアップしていた」


「『具体的な落ち着きどころを見つけていない』なんて言っちゃったけど、どんなスキルでも真似して飲み込むオンスロートするっていう、それこそがあいつの光魔法の具体性なのよね~」


「ああ。僕らはまったくの嘘吐きだ」


「で、あんなに出来過ぎだったのは、あんたの指示?」


「いや、チャットのログを見てもらえば分かる通り、僕は巻島の持ってるスキルを教えただけだ」


「それで? 初見であそこまでの解釈を?」


「ああ。あんな風に捕縛してみせるなんて、思ってもいなかったさ。僕の予想は、もっと単純だった。巻島の振った刀を光が上から叩く――偶然にでもそんな形になれば、その時点で終わると思っていた」


「あたしでも、そうしたでしょうね。『重力』で重くした刀に更に重みを――しかも探索者のスピードで与えられたりしたら、『脱力』が弱ってる巻島では、体が衝撃を逃しきれない。全身の関節を破壊されて、戦闘不能になってたでしょうね」


「そうだね。巻島のスキルで最も重要なのは『脱力』だ。『脱力』で全身を緩ませた上で、身体各部を『重力』で加速して神速を得る――巻島本来の戦闘スタイルは、そんなものなんじゃないかな」


「正解。噂でも記録でもそんな感じ――だから実際に戦ったら驚いたわ。『遅くね?』って。まあ、どれだけ速くたって……攻撃を当てられたって、まったく問題ないんだけどね。ヒューマンダイヤモンドを使える光にとっては」


「巻島の、探索者時代の評価はどんなものだったんだい?」


「さっきもちょっと言ったけど、クラスDに上がるまでは天才児扱い。戦闘力については探索者になった時点で完成してたらしいわ。でも『身体能力強化』を持ってなきゃ、探索者としては使えない。戦闘力なんて、探索者に求められるサバイバリティのほんの一部でしかない。クラスが上がってダンジョンの踏破力が求められるようになると、途端に評価が下がった――仲間の走力についてけなかったのよ。かといって砲台として据えるには火力が不足している――ちょっと近距離戦が強いくらいじゃね。『透過』ですり抜けさせたとこでカウンターなんて戦い方をしてたのもそれでしょ。真正面からぶつかれば巻島を叩き潰せる探索者なんてゴロゴロいる。だから初見殺しのあんな戦法をメインにしてたわけで、でもそれも研究で対応可能――たとえば、光がやったみたいにね」


「光と戦う前にドローンを潰したのも、犯罪隠しではなく、自分の戦法とスキルの正体を隠匿するためだったんだろうね」


「そうね。犯罪についても、あの時点で配信を止めておけばバックの反社がどうにかしてくれるって見込みがあったんでしょ――まあそういうわけで、巻島はパーティーを追放……ああ、そういうことか。あの人、巻島に殺されたんだわ」


「?」


「ああ、昔ちょっと世話になった人の話――見えた?」

「見えた。ZZダンジョンのよりは、小さいかな」

「あそこまでじゃないわね。でも、もうちょっと育ったら上層に浸食するわよ」

「OK。今日は僕に任せてくれ」

「任せた」


 さんごを抱いて、『ダガー』から飛び降りる。

 視界の隅で輝いてるのは、さんごの首輪から飛び出した3号機『ヴァレット』だ。


 あたしたちから、ぐんぐん離れてく『ヴァレット』と『ダガー』。


 銀色のサーフボードが飛んでく先では、触手の群れが蠢いている。

 その中心には、巨大な顔。


 ZZダンジョンに現れたのと同じ、大顔系モンスターだ。


 ZZダンジョンのよりは小さいけど、15メートルは超えてる。いまの情勢では発見と同時にダンジョンが封鎖されるレベルだ。しかしそんなことになったら、また光の講習がやり直しになってしまう。だから謎技術で大顔こいつの発生を検知したさんごの連絡を受け、速攻でかけつけたというわけだ。


「ところで、協会には話がついてるのかい?」


「ついてるわよ。最低でも2時間は公表を遅らせてくれるって。YYダンジョンここは稼いでるから、協会も話を大きくしたくないんでしょ。ZZダンジョンなんて、いまだに封鎖中だしね――それに巻島の件も引き受けるって言ったら即決だった。なにしろ、巻島は日本協会の黒歴史――終わった?」


「ああ。僕らも向かおう」


 戦いは一方的で、あたしたちの会話より早く終わっていた。

『ヴァレット』の砲撃が触手を消し飛ばし、本体の大顔は『ダガー』が2次元素材の刃で切り刻む。その様は、戦いというより蹂躙。攻城戦の最後の数時間を見せられてるようでもあった。


 近付くと、やはりそれがあった。


 大顔の残骸の中に鎮座してるそれは、鈍色で軽自動車くらいの大きさの何か。ZZダンジョンの大顔が死んだ時にもあった、あれだ。さんごの汎行機コッペパンに似たそれを、さんご自身はこう呼んでいた。


「『箱船』――だっけ?」 

「ああ。前回と同じく、これも試験機。もしくは観測機だろう。しかし次回あたりは、中身が詰まったのが送られてくるかもしれない」


『箱船』とは――いや『箱船』なんて呼ばれてる時点で、何が目的で作られたものかは明白だろう。そしてさんごの言う『中身』が何を意味しているのかも。


「…………ブツブツブツブツ」

「美緒里?」

「願ってたのよ。『箱船これ』に乗って、異世界の姫騎士なんてのが送られてこないように」

「…………ねえ美緒里。そろそろ考えなければいけないと思うんだ。何故いま、この町のダンジョンに『棺桶』が送られてきているのかを。そのために、君のお祖父さんについて調査を開始したいと思うんだけど――いいかな?」

「いいわよ。祖父ちゃんについて調べるんだったら、あそこ・・・も調べたらいいんじゃない?」

「もちろんだ――ありがとう」


 それから協会に連絡を入れて、あたしたちは光を迎えに行くことにしたのだった。


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お読みいただきありがとうございます。


次回から、第4章に入ります。

また、投稿時間を12時に変更します。


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