157.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(9)(中)

Side:彩ちゃん


 トレーニングを終えて、驚いたのはパイセンの筋の良さだった。


 今日のトレーニングはマット運動に寝技と打撃の基礎とミット打ち、最後にサーキットトレーニングというものだったのだが、パイセンの呑み込みの良さは私がこれまで出会った中でも最高レベルの、柔道なら強化指定選手に選ばれるような連中と比べても遜色ないものだった。


 最初のマット運動の時点で、それは明らかになっていた。前転や後転、側転。簡単だが出来ない者には本当に出来ない運動はもちろん、エビや逆エビといった、やはり簡単だがコツに気付かなければ出来ない寝技の基礎、それから体幹の操作が必要なワニ歩きや腹筋ジャンプも初見で難なく――私やコーチの2人と遜色ないレベルで難なくこなす。


 打撃の練習でも、驚きは続いた。

 

 とにかく動きにクセがない。まっすぐ叩けと言われて、本当にまっすぐパンチを出すことができる。もちろん全身を連動させた、体重の乗ったパンチをだ。キックも体軸をぶれさせずロー、ミドル、ハイとあっさりものにして、コーチの坂口さんが途中から明らかに面白がって教えた後ろ回し蹴りやブラジリアンキックも、やはり初見でものにしていた。


 だから意外だったのは、もう一人のコーチである笹沼さんが、パイセンでなく私に注目したことだった。


 ミット打ちの途中で、聞かれたのだ。


「一番気持ちよく打てるパンチって、何ですか?」

「オーバーハンドパンチですね」

「じゃあ、パン、パン、パンの後、避けて避けてオーバーハンド――いけます?」

「OKです」


 そしてその通りに打つと。


「拳の返し方、変えられます? バリエーションあったら、そっちも試していきましょう」


 オーバーハンドパンチ――ボールを投げるように、斜め上から叩き付けるパンチだ。私がこれを身に着けたのは、小学生の時だった。小学生の時、私は喧嘩で石を使っていた。投げるのではなく、石を握った手で相手を殴るのだ。石の重さや固さを効率よく叩き付けるために工夫して会得したのが、私のオーバーハンドパンチだった。


 そんなオーバーハンドパンチを、何種類か見せると、みるみる笹沼さんの目の色が変わり――結果、彼女にスパーリングを申し込まれることとなったのだった。


 スパーリングの結果は私の勝利だったけど、自慢するようなものではないだろう。スキルは使わなかったけど、私の強さは、スキルで手に入れたようなものだからだ。


 トレーニングが終わって、坂口さんに聞かれた。


「どうしてそんなに強くなったの?」


喧嘩ばかずですかね――弱い人を相手に、場数を踏んだから」


 私の答えに、横で聞いてた笹沼さんは理解できない様子だったけど、坂口さんには分かってもらえたみたいで。


「あ~、そうなんだよね。弱い奴相手にばんばん技をかけるのって必要なんだわ。ほら笹沼。後輩が出来た途端に強くなる奴っているだろ? あれって技を試す実験台が出来るからなんだよ」


 そういうことだ。


「私の場合は、スキルが生えて強くなって、人間以外にも技を試せるようになったのがデカいですね」


「人間以外!?」


「大学の近所に猪が住んでたんですけど」


「大学の近くに? 猪?」


「えーと、大学の近くの山に猪が住んでてですね。普通は金属バットとか鎌を持ってないと勝てないんですけど」


「いや、持ってても勝てねーから」


「……スキルが生えてからはですね、素手でも勝てるようになったんですよ。それでいろんな技を試して、合気とか中国拳法の技も、そのときマスターしたんです」


 スキルが生えて柔道をやめなきゃならなくなって、荒れてたからなあ……あの猪達がいなければ、ヤクザや半グレをターゲットにして人生詰んでたかもしれない。


 ジムを出ると、閉めたドアの向こうから声が聞こえた。


「自分も、猪とかと戦わなきゃ駄目なんですかねえ……」


 ●


 心地よい疲れに包まれながら駅に向かうと、途中で牛丼屋を見つけた。


 気付いたのは、パイセンの視線だ。


「パイセン、牛丼って食べたことあります?」

「……ないです」

「食べてみます?」

「……はい」


 顔を赤くして頷くパイセンが可愛かったので、牛丼と納豆と卵をおごってやった。納豆と卵は、もちろん牛丼にかける。B大村伝統のプロテインスコア最強な食べ方だ。


「ういーっす。なんかいいトレーニングできたっぽいじゃ~ん? これもシリーズで動画にしちゃったり~?」


 それから駅前で、補習の後とは思えない艶々した顔のみおりんと合流し、そう離れてない場所にある店に入った。店の名は――


『シーバルXYZ』


 いわゆる肉バルで、夜はシュラスコやアメリカンBBQのコースもあるけど、日中帯は一皿500円のパスタやフライドチキンがメインの店だ。


 店内に人は少なく、やはり一皿500円のフライドポテトを頼んで、私達はガールズトークに興ずることにした。


「だからきっかけなんて考えなくてもいいんだって。光はちょろいんだから。ちょっと誘えばホイホイ引っかかるんだから」


「……言い方」


「でも、だからこそ……ではありますよねえ」


「そうよ。だからあたし達で光を囲っとかないと、虫みたいな女がぞろぞろ沸いてくるのよ」


「……言い方」


「しかし、盲点というか……我々だけでは囲いきれない気もするんですが」


「大丈夫よ! まず、優しいお姉さん役の彩ちゃんでしょ? それからちょっと守ってやりたくなる同級生役がパイセン。それで、あたしは……」


「「あたしは?」」


「なんでもヤらせてくれる……都合のいい女」


「「言い方!」」


「いやでも、いま言ってて気付いたけど、あたしたちって、全員、光より年上じゃん? 妹役のポジションが不在じゃない?」


「……確かに」


「いや、そこはみおりんが……いや、みおりんは妹というより……」


 と、私が言いかけた言葉を引っ込めてもやもやしてる間に、みおりんが叫んだ。


「まあ、あたしたちみんなでぎゃーぎゃー騒いでれば妹っぽくなるんじゃない?」


「……言い方、っていうかみおりんの妹についての解像度、低過ぎ!」


「えー、そーかなー」


 パイセンに突っ込まれて、みおりんが嬉しそうに笑う。店の入り口を見て、言った。

 テーブルの真ん中で透明になってるさんご君に、フライドポテトをあげながら――


「さーて、待ち合わせのお相手が来ましたよっと」


 見事なまでの悪人面で、舌なめずりしてみせたのだった。


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お読みいただきありがとうございます。


今年最後の投稿になります。

来年もよろしくお願いします。


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新作始めました!


ネトゲで俺をボコった最強美女ドラゴンに異世界でリベンジします!でもあいつ異世界でも最強みたいじゃないですか!ていうかバトルより先にイチャラブが始まりそうなんですが、一方そのころ元の世界は滅びていたようです


https://kakuyomu.jp/works/16817330665239304295

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