11.猫にダメ出しされました


本日は20時と24時にも投稿します。


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 さんごと美緒里の目論む『事故』というのは、こういうことらしい。


 ダンジョンから魔力が漏れてる場所がある→そこは正規のゲートじゃないから、スキルを持ってない僕でもそこからダンジョンに入れる→封鎖のため見張りが立てられているけど、手薄になっている時間帯を狙ってダンジョンに侵入→ダンジョンでモンスターを斃してスキルを獲得→ダンジョンに侵入したことがバレたら?→あくまでこれは、さんごの動画を撮影中にダンジョンに入ってしまった『事故』だと言い張る。


探索者協会きょうかいに報告する前なら、警備もいなくて楽なんだけど、それだとあたしがもっと早く見つけてれば『事故』が起こらなかったはずだって話になっちゃうからね~。あくまで探索者協会の不手際って体にするには、報告後じゃないと駄目なんだよね~」


 美緒里の保身もばっちりというわけだ。


 決行は、さんごチャンネル開設から1ヶ月が経った日曜日。

 チャンネル開設1ヶ月記念で、さんごと山でキャンプするという企画――その撮影中に、僕は事故に遭う・・・・・ことになった。


 ●


 その日が来た。


 ●


 魔力が漏れているのは、緩い斜面の途中にある洞穴だった。

 美緒里の計画では、こうだ。


『洞穴の近くの酷道にトラックが停まっていて、そこが警備の基地になってる。警備の交代時間はみんなそこに集まって引き継ぎするから、その時だけ洞穴の周りから人がいなくなる。夜間以外、警備のメンバーに探索者はいないから、隠蔽スキルなんて無くてもまずバレない――特に、食料の搬入がある昼前がおすすめね。そっちにも人手が割かれるから』


 その時間になるのを待ち、洞穴が見える場所に行くと、確かに誰もいなかった。

 美緒里の言ってた通りだ。

 近くに人がいないのが分かってても、声を出すのは緊張した。


「あれ? 洞穴がある。昔の防空壕かなあ……入らない方がいいよね――って! 駄目だよさんご! 行っちゃダメ!」


 スマホでの撮影は止めず、先に洞穴に入ったさんごを追う。


 洞穴の周囲の数百メートルは黄色いテープで封鎖されてるけど、洞穴自体には何もされてなかった。周囲のテープも、カメラアングルやルートの工夫で映らないようにしているので『偶然みつけた洞穴にさんごを追って入ってしまった僕』の偽装も完璧だ。


 さんごに貰ったスキル――『サバイバリティ向上』は、今日はオフになってる。

 だからか、いつもより身体が重く感じられた。


 洞穴を進む。

 といっても、4,5メートルで行き止まりになる。


 さんごの姿はない。


 行き止まりのその部分の土は、爬虫類の皮膚のような質感だった。

 少しずつ色味の異なる細かい四角が集まった、モザイク状の土壁だ。


 その向こうから声――『にゃあん』


「え、さんごの声が……行き止まりのこの向こうから!?」


 白々しいにもほどがある。

 ダンジョン探索の動画で何度も見てきた。

 だからその行為の意味を、僕は知ってる。


 その行為とは――モザイク状の土壁に、手の平をあてる。


 それは、ダンジョンにエントリーするための手順ぎしきだった。


「う、うわ、うわ、うわああああああ!!」


 一気に肘の辺りまで土壁に沈み、その次は全身が。

 土壁に飲みこまれ、そして突き抜けた。


「うわ、うわあああっっぷうう!!」


 その勢いでよろけて跪く僕を見下ろし、さんごが言った。


「いまの部分はカット! 芝居が臭すぎるんだよ! 君は!」


 腕組みするさんごの背後には、虹色に輝く岩の壁、そして天井。

 さっきまでの洞穴の景色とは、まるで異なっている。


 僕はいま、ダンジョンにいるのだった。

 さんごが言った。


「さあ、スキルを手に入れよう!」



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お読みいただきありがとうございます。


本日は20時と24時にも投稿します。


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