12.猫がいっぱい食べました
「さあ、スキルを手に入れよう!」
さんごに言われて、僕はリュックを下ろす。
中に詰まっているのは、ビニール袋に小分けされた山菜――今朝狩ったばかりの、アシタバやタラの芽だ。
さんごと美緒里によれば、山菜はダンジョンから漏れた魔力でモンスター化していて、まだ生きてるのだそうだ。
しかしその事実が、いまだに僕にはぴんと来ない。配信で探索者が闘ってるモンスターとビニール袋の中でしんなりしてる山菜が全く結びつかないのだった。
しかしダンジョンに入って数分経ったいまようやく理解、というか実感していた。
『ぎしゃあぎしゃあ』
『くけくくくく』
『びじゅびじゅびじゅびじゅ』
『おんろおんろぼもももも』
山菜の茎や葉に無数の小さな口が現れ、声を発している。
うにょうにょと蠢く様は、ビニール袋を食い破り逃げようとしてるみたいで。
「…………」
言葉を失う僕を、さんごが促した。
「準備が出来た。急いで――そのうち手足が生えてくるから」
さんごの言葉に反応したかのように、山菜の声が大きくなった。
『ぎちっ、じゃあじゃあじゃあ』
『ぎぐぐぐぐぐぐぐ』
『ぶんじゅぶんじゅぶんじゅぶんじゅ』
『ぼんももももももももももも』
よく見ると『口』の周りに牙みたいなものが出来始めていて、さんごの言葉、説得力抜群である。
さんごの周囲には
カセットコンロに鍋、ごま油、まな板、包丁、パン粉、小麦粉、卵、調味料。
これから僕は
さんごによれば、そうすることでスキルが得られるのだそうだ。
調理器具と一緒にホームセンターで買った手袋を着ける。カミソリワイヤーというのを扱うための手袋で、美緒里によると、ダンジョン低層に出てくる程度のモンスターなら噛まれても平気だそうだ。
手袋を付けた手で、ビニール袋から山菜を取り出す。小さな口にびっしり生えた歯で噛まれるのに構わず、束にしてまな板に押し付け、そして包丁で斬る――ざくり。
『『『みぎゃあああああああぁあああああ!!!!』』』
「まずは、切り刻んでみて」
さんごの指示にしたがい、山菜をみじん切りにする。
さんごは、美緒里から借りた探索者用のスマホで僕を撮影している。さんごが自作したアプリにより、僕にスキルが生えたかどうかを判定できるらしい。
小屋でそのアプリを見せた時、美緒里はどん引きしていた。
『ちょっとエグすぎない!?
と。
ちなみにわざわざ作らなくても、同じ様な道具をさんごは持っているそうなのだが『この世界のスキルシステムをハックする目処が立つまでは
そのアプリによると、今の僕の状態は――
「生えてる生えてる!『斬撃』スキルが生えてるよ~!」
という感じらしい。
「言ったよね?『スキル未取得の状態でダンジョン内のモンスターを斃した場合、最も高い確率でスキルが付与される』って。スキルシステムの判定では『ダンジョンに入って』『スキルを取得して』『ダンジョンを出るまで』がスキル未取得の状態と見做される。この世界のスキルシステムも、おそらくそうだろう――つまり、ダンジョンを出るまではスキルを生やし放題ってわけさ! ちなみに付与されるスキルの種類は、どんな方法でモンスターを斃したかに影響される。だから今日は、いろんな
それから僕は焼いて、茹でで、揚げてといろんな方法で山菜を調理して。そして味噌炒めで火魔法を。おひたしで水魔法を。天ぷらで封印魔法(衣で種を包むのが封印と見做されたらしい)を。酢味噌和えで毒魔法をと、一皿仕上げるごとに新たなスキルを手に入れていったのだった。
お分かりかと思うが調理方法と得られるスキルの関連付けはけっこうガバガバで、それにしても懐中電灯の光ってる部分で山菜を潰したら光魔法が生えたのには、流石に呆れた。
そうやって一通りのスキルを手に入れたら、2周目だ。
今度は山菜が死ぬ直前で調理をやめ、それを食した。すると今度は、麻婆炒めで火耐性が。しゃぶしゃぶで水耐性が。挟み揚げで封印耐性が。スパイシーサラダで毒耐性が生えてきた。
「えいっ!えいっ!えいっ!」
最後は、袋に入ったままの山菜をちぎったりねじったり踏んだり殴ったり壁に投げつけたりで、身体能力向上、剛力、蹴撃、拳撃、投擲を獲得。
「
とさんごが言って、スキル獲得は終了した。
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お読みいただきありがとうございます。
本日は24時にも投稿します。
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