44.猫が言いました「もうハーレムはこりごりだよ〜〜〜」

 結果から言うと、僕は試験に合格した。

 無我夢中で僕がパンチを連打していると。


「はい、終わり終わり~。合格合格~。合格でいいよな? 一ノ瀬君」


 ガードしてた手を上げて、尾治郎さんが終了を宣言したのだ。


「はい。合格ということで……問題ありません」


 一ノ瀬さんもそう言ってくれたのだが、僕は釈然としない。

 単調に攻撃するだけの僕には、いくらでも隙があったはずなのだ。


 なのに尾治郎さんはただガードするだけで、攻撃のフェイントすらしなかった。

 これではスパーリングではなく、ただ受けてもらうだけの打撃練習だ。ミット打ちですら、コーチがミットで叩いてくるというのに。


「春田くんは、今日はもう帰っていいから。結果は――合格の通知は、後でメールで送ります」

「そうだそうだ。とっとと帰れ」


 というわけで、もやもやした気持ちを抱えながら、僕は帰宅することとなった。



「あ~~~。痛え。おう一ノ瀬、ハサミで切ってくれ。ラッシュガード、切っちゃっていいから。いや、このまま病院に行った方がいいか……多分、折れてる。肉が爆ぜた感覚もあったな……そうだ。スマホ、貸してくれ。っていうか、あいつにかけてくれ…………おう、美緒里。お前の大好きな尾治郎おじちゃんだ。キモいとか言うな。年をとるとな、こういう詰まらない冗談でしか若いやつとの距離を詰められないんだよ……ああ、いま終わった。3分、もたなかった。お前か? 打撃で行けって言ったのは……おう。一方的だったよ。魔力を吸い取るって聞いてたからな。気を付けてはいた。だが……気を付けてどうなるってタマじゃなかった。フックのダブルでな、最初の一発で魔力を抜いて、魔力を抜かれて脆くなった部分を二発目で叩いてくるんだ。だから、二発目が来るまでに体勢を変えてまだ硬い部分で受けるようにしたらさ。そしたら今度は、抜いた魔力を2発目に込めて叩いてきやがった。まあそれでも耐えられはしたんだが……最後にはあのガキ、俺のスキルを盗みやがったんだぜ? 人間型金剛石ヒューマンダイヤモンド――俺から抜いた魔力で拳を固くしてぶん殴ってきやがった。それで? それで俺は……降参だよ。降参。ありゃあバケモンだな。お前が言ってた通り、いずれ呼ばれるようになるだろうさ――全てを飲み込む者オンスロートってな。本当に、俺の何もかもを飲み込みやがった。おう美緒里。あのガキ、絶対8月に間に合わせろよ。QQダンジョンの間引きで実績作らせて、年内には――クラスCだ」



「おかえり~。試験どうだった?」

 

 帰ると、小屋の横の五右衛門風呂で美緒里が入浴していた。


「光も入る?」

「…………」


 無視して小屋に入ると、さんごがガールフレンドの猫をはべらかしていた。


「おかえり、光。合格したけど納得してないって顔だね。ふみゃ~お」


 そんな挨拶だけして、さんごはガールフレンドとの会話に戻る。


 見ていると。

 

 さんご「みゃおぅ?」彼女1「みゃおみゃお」彼女2「みゃみゃん」彼女3「ふにゃん」彼女4「みゃーお」彼女5「みゃお」


 と、最初は楽しげな様子だったのだが。


 さんご「ふみゃん」彼女1「……みゃ?」彼女2「……みぃ?」彼女3「……み?」彼女4「……みゃ?」彼女5「……にゃお?」


 と、何かの地雷を踏んだのか、突然、剣呑な雰囲気となり。


 さんご「みゃ!……みゃみゃみゃみゃ!」彼女1「みゃみゃみゃ!!」彼女2「ふにゃ!にゃ!!」彼女3「にゃにゃ!!」彼女4「みゃ!みゃ!」彼女5「みゃああああ!!」


 さんごは、ガールフレンドたちから詰められることとなってしまったのだった。


 がちゃり。

 

 小屋から出ると、美緒里が慌てた顔になった。


「ちょ、ちょちょちょちょちょ、光、どうしたの!?」

「お風呂、入ろうと思って……誘ったの、美緒里じゃん」


 やっぱり、いつも挑発される一方なのはどうかと思うのだ。

 そんな思惑の僕に、美緒里は――こちらに、背中を向けて。


「あ、あたしとしては(ちらっ)光が赤らんだ顔を俯かせて小屋に入ってった時点でタスクがコンプリートしたっていうか(ちらっ)そんな腰にタオルを巻いただけの姿で近付かれたらご褒美が過ぎるっていうか(ちらっ)そのしてやったりって顔もたまらんっていうか――(ちらっ)」


 拗ねたような、焦ったような可愛い声でぶつぶつ言ってたのだが――しかし。


「…………(ちらっ)うん。これは、もう、行くしかない! というわけで、あ”あ”あ”あ”あ”あ”!」

「ちょ、ちょっと待っ、あ”あ”あ”あ”――んぐっ、ん”ん”ん”ん”ん”~~~っ」

「ん”ぐぐぐぐ~~~っ!!」

「んぐ、んぐ、ぅんぐぐぐ…………っ」

「ん”、ん”ん”、ん”、ん、ん……ん……ん…………」


 というわけで、湯船に入ったところで、振り向いた美緒里にキスされた。

 両手で顔を掴まれて、捩じ込まれるようなキスだった。

 

「ん”、はぁ……はぁ……はぁ…………あの……これってファーストキスだったんだけど……なんというか……もう少し、ムードというか…………」


「んく、ん、ふぅ……ふぅ……ふぅ………って、なに言ってるのよ? 乙女みたいなことを――っていうか光って基本的に乙女だよね! ヒロインだよね!? スパダリに挑発されて、いったん赤くなって引っ込んだかと思ったらバスタオル1枚で現れて、逆にスパダリを慌てさせるって、自己評価が低くて基本受け身だけどやる時はやる系のヒロインじゃん! だったらあたしは『おもしれー女』とか言わなきゃならないわけ!? あたしが!? あたしが!?…………って、あたしもじゃん! 乙女じゃん! 初めてじゃん!」


 その後なんだかんだあって、僕らは1時間くらいお風呂に入って小屋に戻った。


 そこで何を見たかは、言わないでおこう――主に、さんごの名誉のために。


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