43.猫がしれっと混じっています

本日は、20時にも投稿します。

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「じゃーん。これが光の『1ヶ月でクラスD昇格つよつよスケジュール』で~す!!」


 美緒里の見せたスケジュールは、こんなものだった。


6月第1週

クラスD昇格試験(戦技)

6月第2週

前半:新探索者向けダンジョン講習会1(やり直し)

後半:ベテラン探索者同行での探索

6月第3週

前半:新探索者向けダンジョン講習会2(含む同行講習)

後半:ベテラン探索者同行での探索

6月第4週

前半:新探索者向けダンジョン講習会3

後半:ベテラン探索者同行での探索

7月第1週

前半:新探索者向けダンジョン講習会4

後半:ベテラン探索者同行での探索

7月第2週

前半:クラスD昇格者向け講習

後半:クラスD昇格試験(探索)


 無理だと言っても無理なんだろうな、と思った。

 でも言わずには、いられなかった。


「あの、これ……協会の人は、なんて?っていうか、最初に戦技試験があるのはどうして?っていうか6月第1週って今週だよね?っていうか、今日は水曜だから明日か明後日か明明後日だよね!?」


「あー、それが『提案』を受けてもらう条件だったから。『最初に戦技試験を受けてダメだったら諦めます。でも合格だったらこの通りにしてね?』って」

「戦技試験って……戦うんだよね?」

「違うわよ。試合するだけ」

「試合って……戦いでは?」

「負けても死なないんだから、そんなの戦いでもなんでもないでしょ」

「…………相手は?」

「だいたい予想はついてる。ああ、そうそう。これってファストファインダースの尾治郎っておじさんが推してくれたらしいのよ。あのおじさんも光のこと早く高難易度のダンジョンに潜らせたいって言ってて、ぶっちゃけ自分の弟子にしたいみたいよ? 8月のQQダンジョンはもともとファストファインダースの仕事だったんだけど、活動停止中でしょ? それで穴埋めにあたしにオファーが来たんだけど、あたしが光をサポートに連れてきたいって言ってるって聞いて『いいじゃないか』って言ったんだって。『いいじゃないか』って。『いいじゃないか』って。『いいじゃないか~』『いいじゃないか~』『いいじゃないか~』。『いいじゃないか~』『いいじゃないか~』『いいじゃないか~』って。ほら、さんごも」「『いいじゃないか~』『いいじゃないか~』『いいじゃないか~』」「『いいじゃないか~』『いいじゃないか~』『いいじゃないか~』」


 意図が不明なウザい繰り返しに既視感をおぼえて、何かと思ったらすぐ答えが出た――オヅマだ。


「というわけでさっき連絡が来たんだけど――戦技試験、明日だから」



 翌日、ダンジョン探索部の公休をさっそく利用して探索者協会の建物を訪ねた。

 一ノ瀬さんの案内で、地下の訓練場に移動する。

 そこで待っていたのは……



「よう、春田君。今日はがんばってくれよ~」


 ファストファインダースの尾治郎さんだった。

 ということは……こういう時のイヤな予感は、だいたい当たる。


「今日は俺が試験管、つまりスパーリングの相手を務めさせてもらう。遠慮せずガンガン来てくれていいからな!!」


 ですよね~、この流れからして。


 逸見尾治郎。36歳。身長192センチ体重97キロ。元自衛隊員で日本拳法の達人。10年前、レンジャー訓練中にダンジョン発生に巻き込まれ生還。直後スキル保持者であることが判明し、探索者に。ファストファインダースの初期からのメンバーで、魔力によって肉体の強度を上げるスキルから人間型金剛石ヒューマンダイヤモンドの異名で呼ばれる(以上、Wiki情報からのまとめ)。


 こんな凄い人とスパーリングって……プロ格闘家ともスパーリングしたことあるけど、スキル持ちじゃなかったし。そもそも身長192センチ体重97キロなんて人、いなかったし。


「俺も緊張してるんだぜ? スパーリングなんて久しぶりだからなあ」


 そう言って笑いながら、拳をばんばんと打ち鳴らす尾治郎さん。

 グローブを着けて向き合うと、やはり凄いプレッシャーだ。

 僕の緊張、いや絶望は増す一方だった。


(無理無理無理無理…………あれ?)


 しかし。


(結構、落ち着いてる?)


 ビビり散らかしながらも、思ったより息が深い。ちゃんと呼吸できてる。思ったよりビビっていない? 驚きはしてるけど――怯えてはいない?


「いいじゃないか。ヤる気満々って感じの、いい顔をするじゃないか。大人しそうに見えて、やっぱり君は戦う側こっちの人間なんだな~。じゃあ始めよう。一ノ瀬君、タイマーよろしく! 3分1ラウンドで回してくぞ~~~」


 一ノ瀬さんが頷き、壁の大きなタイマーが時を刻み始める。


「さあ来い! 春田君」

 

 スパーリングでは、格下の方から攻撃していくのがマナーだ。

 つまり、僕からだ。


「ふん!」


 前蹴りを出すモーションからジャンプする。

 一気に間合いを詰めてパンチを放つ、スーパーマンパンチと呼ばれる技だ。


「ん、重い」


 それをパーリングで逸らしながら、尾治郎さんが呟く。

 僕はそのまま脇を差しバックに回るふりをしながら――振りほどかれた。


「おいおい! いきなりハメに来たぞ。春田君、君、えげつないなあ」

「すいません……」


 指摘された通り、いま僕がとろうとしていたのは、尾治郎さんの両手を殺して一方的に顔を殴れるハメ技的ポジションだった。


「謝るこたあない。どんどん来い!」


 と言われても、いまの攻防で分かった通り組み技は不利だ。

 でも、パワーというより技術でやられた感じだった。


 昨日、美緒里に言われた。


『探索者同士の力比べでは、素のフィジカルの差なんて誤差に等しい――スキルで瀑上げした身体能力の前ではね。そしてスキル由来の身体能力だったら、いまの時点でもあんたはかなり強い。自信を持っていい。だから序盤の探り合いを乗り切ったら、やることはひとつ――打撃。正攻法の打撃をぶつけるのよ』

 

 軽く握った拳を、顔の前に構える。


「うれしいねえ……好きなんだよ、こういう若いやつ」


 打撃の構えをとった僕に対し、ぎゅっと押し潰したような笑みを浮かべながら、尾治郎さんも構えた。

 背中を丸め、並べた拳で固く顔面をガードするピーカブースタイル。

 その両腕が、光を放っている。

 スキルを行使した、この状態の尾治郎さんを、みんなこう呼ぶ。

 魔力で肉体の強度を増した、その姿を――


 人間型金剛石ヒューマンダイヤモンドと。

 

 触れるだけのジャブで距離を測り。


「…………行きます」


 渾身のストレートを、僕は放った。


 スパーリングは、それから1分も経たずに終わった。


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お読みいただきありがとうございます。


この作品は、1話につき2000字程度で書いているのですが……

いま書いてる第3章の最終話が、5000字を超えそうです。


1章につき18話+閑話という形で書いてるので、出来れば分割はしたくないのですが、それでは長すぎる!という声があるようなら、分割もやむなしかな、と思っています。


ご意見を聞かせていただけると有り難いです。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたら、

フォローや☆☆☆評価等、応援よろしくお願いいたします!

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