42.猫がぞんざいなフォローをするのです

本日は、12時と20時にも投稿します。

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「やりなおし……ですか」


 場所は校長室。

 ソファーでは僕と美緒里が並んで座り、反対側には校長先生と――


「そう。『新探索者向けダンジョン講習会』を、もう一度受講してもらいたいんだ」


 探索者協会の職員の一ノ瀬さんが座っていた。

 

 休み時間に呼び出されてなんだろうと思ったら、こういうことだったのである。


 確かに僕が参加した『新探索者向けダンジョン講習会』は『顔』――大顔系モンスターの出現で大変なことになってしまって、講習のカリキュラムより過剰な部分もあれば足りない部分もあったと思う。もう1回受講しろと言われて、文句を言うつもりはない。


 心配なのは、一緒に呼び出された美緒里だ。

 美緒里が激怒して揉めるのではないかという、そういう心配があった。


「実績としては、受講済みとして問題ない。前回受講のZZダンジョン探索で、春田くんがそれくらいの経験を得たのは間違いない。そしてあんなことが起こって、春田くんが入院することにまでなってしまったのは、我々探索者協会の責任だ。強力なモンスターの発生が認められているのにも関わらず講習を続行した落ち度については、許されるものではないからね」


 だったら、どうしてこっちにとばっちりが――再び講習を受けなければならないのかといったクレームを美緒里がまくしたてる様を、僕は幻視していたのだが。


 しかし、美緒里は――


「……………………」


 黙って、一ノ瀬さんの話を聞いてるだけだった。

 かえって、怖かった。


「問題は、やはり……我々なんだ。前回、講師を受け持った2人――衣笠と中西。この2人に講師としての能力が足りてなかったのではないかと、そういう声が上がっていてね。そんな2人の指導で行われた講習には問題があるのではないかと。ちゃんとした講師の指導のもとで講習をやり直すべきではないかという意見のもと『新探索者向けダンジョン講習会』をやり直すことになったんだ」


 そこまで聞いて、初めて美緒里が口を開いた。


「講習を受け直すまでは、付き添いつありでもダンジョンに潜れないわけ?」


「あ、ああ……はい、そうです。ご存知の通り『新探索者向けダンジョン講習会』の受講を終えた時点で、経験豊富な探索者の同行を条件に日帰りでのダンジョン探索が許可されます。現在の春田君は未受講の状態になるため、探索はまだ許可されません」


「分かった……で」


 で?


「先日こっちが出した『提案』は、受けてもらえるのよね?」

「は、はい……協会から、連絡が行くかと思います」


 それから講習の日付を伝えて、一ノ瀬さんは帰った。

 大人の人があんなに汗をかくのを、初めて見た気がする。


「美緒里、いま言ってた『提案』って?」

「うん、帰ってから話す。それより校長先生。ダンジョン探索部なんですけど、夏休み中に部で探索するんでしたよね? だったら『新探索者向けダンジョン講習会』、未受講の部員に受けさせとかないと不味いんじゃないですか?」

「お、おお。そうだねえ」


 いきなり話を振られる校長先生に、ちょっと同情する僕だった。



 その後、『提案』というのが何なのか気になって仕方ない僕をよそに、美緒里は体育のサッカーでクアッドハットトリックを決めて『なにあれ』『しらける』『やってらんねー』と大いに陰口を叩かれていた。一方僕はといえば、美緒里の無双っぷりを眺めてる間に気付くと持久走で陸上部員を周回遅れにしていて『そんなにスキルが自慢したいのかよ!』と足元に唾を吐かれたりしていた。そんな僕と美緒里を見ながら健人たちクラスの一軍グループは『うおー、すげー』『春田っちがんばれー』『探索者やべー』とゲラゲラ笑っていて、そんな彼らの反応を、僕はこの上なく優しく感じるのだった。



「やっぱさ、カップルチャンネルやるんだったら光のクラスを上げる必要があるわけよ。アンチにキャリー呼ばわりさせないためにはね。最低でも、クラスC。でもFからCへの昇格なんて、まともにやったら時間がかかり過ぎる。というわけで~~~」


 小屋に帰って『提案』について訊くと、美緒里はパワポを駆使して説明してくれた。


「まずはクラスDに昇格してもらいます。で、あたしのサポートとして上級ダンジョンに入る。サポートならクラスDでも許可が出るから。でもクラスFしょしんしゃからクラスDへの昇格も普通なら3年はかかる、というわけで~~~あたしは『提案』したわけよ」


「『提案』……」


 ここまで聞いて『提案』というのがどんなものか予想が付いてきて、でも同時にイヤな予感を抱きつつある僕だった。


「8月にQQダンジョンでモンスターの間引きがあるんだけど、そのオファーがあたしに来たの。で、サポートとして光を連れてっていいなら受けますって答えたら~~」


 答えたら?


「当然、ダメってことになるわよね。そこでお願いしたのよ。『8月までに光をクラスDにしたいから協力してもらえません?』って。サポートで連れてくだけならクラスDでも大丈夫だから。で、クラスDの昇格試験は実戦形式の戦技試験とダンジョンでの実習なんだけど、それはいいとして、問題はクラスFで受けなきゃならない講習がまだたくさん残ってるのよ」


 まだ残ってる講習とは『新探索者向けダンジョン講習会2』『新探索者向けダンジョン講習会3』『新探索者向けダンジョン講習会4』のことだろう。これらを受講して、初めて単独でのダンジョン探索、そしてダンジョン内での野営が許可される。更に講習と講習の間には、ベテラン探索者と同行しての探索を行わければならない。そういう経験を積まないと、次の講習が受けられないようになっているのだ。これらを全部こなすには最短でも半年はかかるという話で、8月までの2ヶ月ではとうてい無理だった。


「というわけで~~~。あたしは『提案』したわけ。『全部まとめて1ヶ月で済ませてもらえません?』『こういうスケジュールならイケるんじゃありません?』って!!」


「にゃ~」


 さんご、そこは人間の言葉でフォローしてほしいんだけど。

 

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