叔父に家を追い出された僕が異世界から来た猫と出会い、ダンジョン配信でバズ狙いすることになった件。ちなみに元アイドルで美少女探索者の従姉妹は僕にべた惚れです
77.猫と彼女とダンジョンへ(1)お稲荷さんが見てる
77.猫と彼女とダンジョンへ(1)お稲荷さんが見てる
日本に帰国したのは、日曜日の夕方だった。
空港から、ホテルを予約してる品川に着いたのが8時過ぎ。
明日の午後は渋谷に行く予定だけど、それまでは自由時間だ。
「神田林さんたち、大丈夫だったかなあ」
水曜日の講習のため、神田林さんと彩ちゃんは、今日ダンジョンに潜ってるはずだった。
「大丈夫なんじゃない? マリアと小田切さんが一緒なんだから」
連絡が無いということは問題なかったということなのだろう……そう考えた途端、スマホが震えた。
小田切さんからの、メッセージだった。
『ウェーイ、従兄弟くん見てるー?』
というメッセージに続いて、焼き肉を食べる神田林さんたちの写真が連投されてきた。
神妙な表情で厚切りタンを咀嚼する神田林さん、ユッケを皿から直接食べる彩ちゃん、生のままのカルビをついばむどらみん、口元をホルモンの脂で汚すマリア・ガルーン、それから……
「あれ? これって誰?」
「ああ、メリッサ――冒険姫メリッサ。知らなかった?」
「え、でも……」
「ああ、メイクしてないからね」
冒険姫メリッサは、コメント欄とのやりとりで盛り上げるタイプの配信者で、縦ロールの髪型や大量のフリルで飾られた探索者ジャケット、それから派手なメイクで知られている。しかし、写真で冷麺をすすってるその女性は駅前にある予備校の生徒みたいな風貌で、僕の抱いてるメリッサのイメージとは大きくかけはなれていた。
「小田切さんの推薦で契約したんだけど、思ったより弱かったから。パイセンたちと一緒にマリアに鍛えてもらうことにしたのよ」
「へえ……」
タン、ユッケ、カルビ、ホルモン……美味しそうだな。
「光は、ダンジョンどうするの?」
「火曜日に行こうと思ってる。同伴は美織里かマリアさんにお願いして」
「あたしもマリアも木曜まで東京だよ?」
「あ、そうか……じゃあ明日の午前中かな。美織里もオフだったよね? 東京のダンジョンに連れてってよ」
「いいわよ。だったらOOダンジョンに行こっか。品川から1駅だし。っていうか今から行ってみない? もちろん潜るのは明日だけど、OOダンジョンの近くに知ってるステーキハウスがあるのよ。さんご、あんた透明化くらいできるでしょ?」
「にゃー」
というわけで、すっかり口が肉になってる僕に、断るという選択肢は無かった。
ホテルにチェックインして、再び僕らは電車に乗った。
●
OOダンジョンのある駅に着いたところで、美織里が言った。
「ちょっと、寄り道していい?」
そうして連れてかれたのは、駅前の坂道を下ったところにある、住宅街のマンション。
子供の頃、美織里はこのマンションに住んでたのだという。
「このマンションって、古くて4階建てだからエレベーターが無いのよね。知ってる? 4階建てまでなら法律でエレベーターを付けなくてもいいの。レッスンで疲れた時とか、階段を登るの本当に嫌だったなあ……でも、この屋上は好きだったし。ほら、神社なんてあるし」
階段を登って屋上に着くと、確かに小さな鳥居と稲荷神の祠があった。
落下防止の金網越しに見える景色では、駅ビルや、その周りの建物の灯りが闇の中で身を寄せ合うように浮かんでいる。
「東京って……もっと明るいって思ってた」
「そうね……ここの駅って、小さいのにレールがいっぱいあったでしょ? 電車が集まる基地なんだって。だから駅の近くなのに建物が少ないの。いまは、あの地下にOOダンジョンもあるしね」
「美織里は、何歳までここに住んでたの?」
「7歳。上野に家を買うまで――そうだ。光と会えたのも、そのおかげなんだよね。お父さんが祖父ちゃんにお金を借りに行って、それで光のお父さんと仲直りしろって言われて……それでね、あたしは光と会えたの」
「そうだったんだ……知らなっ」
最後まで言う前に、唇を塞がれて。
驚くより先に、耳打ちされた。
「ここでしちゃう?」
横目でさんごを探すと、どこにもいない。
『うん』と言いたくなるのを堪えて、僕は答えた。
「だめだよ。そんなことしたら……これから食事に行くのに…………美織里の顔が見れなくなっちゃうよ」
「でも今日、ずっとそうだったよね?」
「うん……」
ドイツのホテルで、我慢できなくて、僕はまた美織里を犯してしまった。2日続けてするのはいけないと思いながら、初めてした時より盛り上がって、いろんなことを美織里にして、お願いして、朝になったら初めてした時より照れくさくて、美織里の顔を真っ直ぐ見ることができなくて、それは飛行機を降りるあたりまで続いたのだった。
「あたしも、そうだった」
金網にもたれかかり、美織里が笑う。
美織里の顔も、赤かった。
「美織里……」
顔と顔が近付き、鼻と鼻が触れて、離れて、唇と唇が重なる。
「光……好き。ずっと好き。でもいまは……もっと好き……好き……好き…………」
切なげに繰り返す美織里に何度もキスしながら、そして僕も同じ言葉を繰り返しながら、腰に手を回した――その時だった。
「……ぶち殺すぞ」
震えるスマホを見て、美織里が低く唸る。
画面に表示されてるのは、ダンジョンブレイクの発生を告げる警報だった。
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お読みいただきありがとうございます。
今回ボツにした台詞
「だめだよ。美織里……お稲荷さんが見てる」
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