170.猫と冷やし中華を食べにいきました(後)

「どうしたのよ? 急に」


 美織里に聞かれた。

 土曜日からの、コラボやりまくりについてだ。


「来週の、24時間探索のためだよ」


 と、僕は答える。



「いまから来ない? パイセンと彩ちゃんもいるんだけど」


 夜も遅くなって、21時。


 MMTの撮影を終えた美織里達に呼び出され、僕はさんごと一緒に、美織里の新居に向かった。


 今日のMMTの撮影は美織里の新居ルームツアーだったそうで、その流れでだ。


「「「ぴかりんが来ました~。ぱちぱちぱち」」」


 部屋に入るなり、カメラを構えた3人――美織里、彩ちゃん、パイセンに拍手で迎えられた。どうやらルームツアー動画に、僕も出演することになるらしい。


 だったら、僕もそれに対応した態度をとる必要があるだろう。


 近所迷惑にならない程度の声で、僕は叫んだ。


「ふぅううう! ぴっかりんでぇえええすぅ! すってきなご新居にぃいいい!! おぉ招きいただきぃ! あぁりがとぉ! ごぉざいますううう!!」


 これに対して美織里達は「出た出た」「……ちょっと、バージョンアップした?」「何に影響を受けたんでしょうかねえ……あ」という反応だったのだけど、そう言われて、僕は気付いた――(ウ=ナールの影響か……)


 どうやら顔と声に力の入りまくった異世界人の話し方が、僕にも感染ってしまったらしい。


 それから、新居を案内された。


「うわ~。すごいすごい! シャープの自動調理器やEPEIOSの回転式オーブンまである……美織里は料理なんてしないのに!」


 部屋も家具も新しくて、やはり真新しい鍋やフライパンや、最新の調理家電が並んだキッチンを見せられると、気持ちがアガった。


「なんか作ってみるう?」


 と挑発されて冷蔵庫を開けるとジャガイモがあったので、それとバターを取り出して使うことにした。


「さて、ぴかりんは何を作ってくれるのでしょ~か~」

「さあ、何でしょう?」


 と、煽る彩ちゃんのカメラに向かってサムズアップしながら、ジャガイモの皮を剥いて、シャープの自動調理器に入れた。


「……マッシュポテト?」

「正解です」


 パイセンに頷いて、自動調理器のメニューから『ポテトコロッケの具』を選んで実行。シャープの自動調理器は、他社製品の様な圧力調理機能はないけど、代わりに自動でやってくれることの範囲が広い。だからあとは待つだけでジャガイモを茹でて潰して攪拌して、あとは衣をつけて揚げるだけの状態、つまりマッシュポテトにしてくれる――ネットで紹介されてるのを見て、一度使ってみたかったのだ。


 待ち時間は約30分。


 その間、撮影とは関係ない雑談になって、その中で明日――土曜日から東京に行って、コラボしまくることを話したのだった。


 そして――


「どうしたのよ? 急に」

「来週の、24時間探索のためだよ」


 コラボしまくりの理由を聞かれて、僕はそう答えた。


 来週、僕は美織里からの課題である『24時間ノンストップ探索』に挑戦する。24時間、常に時速20キロ以上で走り続けながら探索するという試験――いや、試練だ。


 そのための訓練として近場のダンジョンをRTAしたりしたけど、これでいけるという確信が得られるところまではいっていない。


 そこに現れたのが――さんごが言った。


「光は、彩の『割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト』にヒントを得たらしいよ」


 と。


あれ・・が……24時間走り続けるヒントに? っていうか光君、『割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト』を使えるんですか?」


「うん、彩ちゃん。まだ下手だけど……」


「……『割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト』って、離れた場所に攻撃を飛ばすスキルですよね?――障害物を破壊したり? 道のでこぼこを吹き飛ばして均したり?」


 と、可愛く小首を傾げてパイセンが言うアイデアは、確かにそれはそうなんだけど……僕は言った。


「そうなんだけど――その先がある気がするんだよね。だから東京に行って、何か掴めたらって思って」


 そんな風に、コラボの意図を話したのだけど――反応は「あのさぁ……」美織里の、咎めるような声だった。


「まさかコラボで見せるわけじゃないでしょうね――『割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト』を」


「いや、そんなつもりはないから。『割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト』は、コラボじゃ使わないよ」


「本当に? 『割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト』はもともと彩ちゃんのスキルなんだから。それをコピーした光が勝手に見せて回るんだったら不味いと思ったんだけど?」


「本当に、そんなつもりはないから」


「ふ~ん……」


 美織里は、まだ疑ってる風だ。

 それをとりなすように、彩ちゃんが言った。


「私としては、光君が早くも『割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト』を使えるようになってることの方がショッキングというかなんというか……」


「まー、それが光の強みっていうか、光のスキルって『他人のスキルを自分のものに出来る』って、そもそもそこに尽きるわけだし……でもさ、彩ちゃんと光以外の――もっといえばイデアマテリアの外部の、あたしたちの敵になるかもしれない人間が『割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト』を使えるようになったらって、考えてみた?」


「うん……それを考えたから、自分でも使えるようになっておいた方がいいなって……真似することにしたんだけど」


「じゃあさ『割たれし槌撃ディバイデッド・インパクト』が対人戦――1VS1で使われた場合のヤバさって、考えた?」


「うん、それは……かなり、ヤバいと思った」


「だったらいいか……うん。で、コラボで光は何をしたいわけ? 何か得られると思ったから、コラボを受けたんでしょ?」


「うん、それはね……何かを得るのは、コラボからじゃないんだ」


「コラボからじゃ……ない?」


 そして続けて僕が説明すると。


「それは……いいアイデアかもね」


 美織里は、そう言ってにやりと笑ったのだった。


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