猫と僕らの結婚式

176.猫と異世界で動画撮影(前)

 彩ちゃんと別れて、小屋に帰り。

 しばらくすると、さんごも帰ってきた。


「美織里達は異世界あっちでMTTの影撮をした後、ジムに向かうそうだよ」


「笹沼さんの件?」


「うん。それと美織里とパイセンも技術を確認しときたいからって」


 彩ちゃんは、笹沼さんという、大きな試合を控えてるプロ格闘家の練習相手を頼まれている。それに美織里とパイセンも付き合った感じか。


「僕も行った方がいいかな? 笹沼さんとのこと、取り次いだのって僕だし」


「行く必要はないさ。君と彼女達は、明日結婚式をあげるんだから。それまでは、顔を合わせない方がいい」


「そうかなあ」


「そうだよ」


 確かに、結婚式のことを考えるとその方が良い気がした。異世界の結婚式では、神殿で新郎と新婦がエッチなことをする。というか、それしかない。明日まで顔を合わせない方が、よりエッチな気分になって盛り上がれるだろう。


(そうか。明日、僕はエッチなことをするんだ――美織里と、彩ちゃんと、パイセンと、一線を超えたエッチなことを!)


 実際は、彩ちゃん以外とは既に一線を超えているのだけど、結婚式のこともあり、この10日間くらいは一線を超えた行為をしていない。


 明日、とうとうそういうことをするのだと思うと、なんだか落ち着かなくなって――


(僕って淡泊だと思ってたけど……)


 自分は草食系の、肉欲に心を乱されるようなタイプではないと思っていたのだけど、美織里やパイセンとそういった行為を経験してからは、実はそうでもなかったのかな、とちょっと驚いた気持ちになっている。


 では、ジムへ行くのは無しとして、これからどうしようかと考えてたら。


「君も異世界で撮影したらいいじゃないか。美織里達がこっちに帰ってきたら、僕らも入れ替わりで異世界に行くことにしよう」


「撮影かあ……案件も溜まってるし、異世界なら時間が経たないからいいんだけど――そうだ。さんご隊に異世界あっちで仕事をしてもらうってどうかな? かなり楽になるんじゃない?」


 異世界に行ってる間、こちらの世界では時間が経たない。だから、いつも多忙で死にそうになってるさんご隊も、仕事部屋を異世界に撮して働いてもらったら、かなり楽になるんじゃないかと思ったのだけど――


「良いアイデアだけど、問題は通信環境だ。現状、異世界あちらとこちらでは通信が出来ないからね。さんご隊はクラウドが作業基盤だから、異世界では仕事が出来ないだろう」


「そうか……だったら仕方がないね」


「いまメッセージが入った。美織里達が異世界から帰ったらしい。僕らも彩の家に行って、異世界に飛ばしてもらおう」


 それから僕らは彩ちゃんのお父さんにアポを取って、異世界に連れてってもらった。



「おおおお! 光様ああ! さんご様ああ! 本日は動画の撮影だそうで、我が娘マゼルがお手伝いさせていただきますぞおおお!」


 暑苦しく出迎えるガ=ナールの横で、長い黒髪の美女――マゼルさんが頭を下げた。


「光様とさんご様におかれましてはご機嫌麗しゅう。拙いながらも、お手伝いさせていただきます」


 先日と変わらず優雅な雰囲気のマゼルさんだけど、でもその先日、結婚式の作法の説明でエッチな姿を見たり触ったりしてしまったので、僕はちょっと落ち着かない。


 撮影場所として案内されたのは、僕らのために用意された広い部屋で、さっきまでは美織里達もここで撮影を行っていた。


「では、カメラをお願いします」

「はい」


 お願いしますとはいっても、マゼルさんにやってもらうのは、三脚に固定したカメラの録画ボタンを押してもらうことだけだ。


 あとは――


「(にこにこ)」


 微笑みながら、撮影する僕らの様子を眺めているだけだった。


 でも、これが問題だった。


「こんにちはぁあああっ!ぴかりんでぇええええっす! 今日は、猫用のおもちゃを紹介して、それでさんごと遊んでみたいと思いまああああっす!」


 と、声を張り上げながら――


「(にこにこ)」


 気になって、ついつい目がいってしまうのだ。微笑んで、僕らを見るマゼルさんが。


 マゼルさんは長身のスレンダーな美女で、でも神殿の制服だという和服とフィクションに出てくる魔道士のローブみたいな衣装の下の胸や腰は、全然スレンダーじゃないのを、僕は知っている。


 何故なら見たことがあるから――服を脱いだ、裸のマゼルさんを。加えてマットに横たわり、身を捩らせるエッチな姿を。


 正直に言って、僕は、マゼルさんを意識してしまっている。どんな意味でかは言葉に出来ない。恋愛感情を抜きにしていきなりエッチな姿を見せられて、彼女との距離感を測りかねてしまっているのだ。


 そんな相手が、微笑んで僕を見てる。


 そんな状況で、いつもと同じようにはしゃいだ演技をしてみせるのは、気恥ずかしすぎてやり辛かった。


 でもこれは仕事だし、はしゃぐのは挨拶のところだけ――なんとかやりきって、普通のしゃべり方に戻ったのだけど……


「猫のおもちゃって、小さいのだと失敗してもお試しってことで諦めが付きますけど、キャットタワーみたいな大型のものだとそうもいきませんよね。今日紹介するのも、そういうちょっとお試しってわけにはいかないかなっていう大型のアイテムなので、ネットで見て『これ良さそうだなあ。でも本当に良いものなのか広告じゃわからないし、大きいからちょっと迷っちゃうなあ』って思ってる人がいたら、ぜひ参考にしてみて下さい」


「(にこにこ)」


 穏やかな笑顔で見られてると、やっぱりやり辛かったのだった。


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