176.猫と異世界で動画撮影(後)
「(にこにこ)」
マゼルさんに見られてやり辛いながらも、撮影は順調に進んだ。
今日は猫用の大型おもちゃのレビューということで、まず紹介したのは――
「はーい、最初に紹介するはこれ!『キャットホイール』でーす!」
『キャットホイール』とは、ハムスターの家にあるあれの猫版だ。巨大な輪の中にハムスターが入って走ると、輪が回って無限に走り続けることが出来るという、あれ――あれの猫版が『キャットホイール』なのだ。
「はい、じゃあさんごに入ってもらって……」
「うみゃ~」
「えーと、入ってもらったんですけど……さんご、走って……走って」
「んみゃ~お」
「走って……くれません。まあおもちゃですから、別にどんな使い方をしてもいいんですけど……走って……走って」
「みゃ」
「お、やっと走ってくれました。さんごが走ると『キャットホイール』も回ります。回る回る回る……本当によく回るな、これ」
「みゃ、みゃみゃ、みゃみゃ!」
「見てるだけで楽しいですねえ……さんごも楽しそうです!」
「みゃ……みゃみゃ……みゃみゃ……みゃ!」
「さんご! 楽しい?」
「み”ゃ!」
メッセージが届いた。
さんご:こんなの楽しいわけないだろ!
さんご:勢いが付きすぎて!
さんご:止め方が分からないよ!
「はい、さんごもとても楽しんでいます!」
最終的に、さんごが輪から転がり落ちることで『キャットホイール』の回転は止まった。
さんご:こんなの、中でウンコしたり
さんご:ゲロ吐いた状態で回したら
さんご:とんでもないことになるぞ!
さんご:部屋も猫もウンコとゲロまみれだ!
「…………さて次に紹介するのは『ネコネコジャングルタワー』です! これはキャットタワーに猫が入れる部屋やトンネルが付いてるという商品なんですけど、ポイントはここ! なんと、その部屋やトンネルが透明なプラスチックで出来てて、猫が遊んでる様子が見られるようになっているんです!」
「みゃお~ん!」
今度は、さんごも普通に楽しんでくれた。
タワーに登り、トンネルを潜って、部屋の中ででんぐり返したりしてはしゃいでいる。
「ふみゃ~。みゃみゃ~ん」
「うわ~。さんごも本当に楽しんでますね~。ガールフレンドとのお家デートに使うのもいいかもしれません」
さんご:確かにそうだ
さんご:特にこの透明な部屋やトンネルがいい
さんご:まるで人間が交尾に使うホテルの
さんご:ガラス張りで中が丸見えの浴室みたいじゃないか
さんご:この中で交尾したら、きっと興奮するだろうね!
さんご:そうだ!
さんご:この部屋やトンネルを、マジックミラーにしてみたらどうだろう?
さんご:きっと、もっと盛り上がるに違いない!
さんご:帰ったらメーカーに提言してみようよ!
いや、そんな猫目線のアイデアは求められてないと思うよ。少なくとも、猫の性的趣向という観点からのアイデアなんて……
「えー、では最後のアイテムです。これは、ちょっと変わり種の爪とぎ板ですね――『DJキャットテーブル』です!」
最後の一品は、レコードのターンテーブルを模したおもちゃだ。レコードを乗せる部分が爪とぎ板になっていて、猫が爪をとぐとレコードみたく回るようになっている。
「みゃ!」
「さんごのDJプレイが始まりました!」
「みゃみゃみゃみゃみゃ!」
「ノリノリですね!」
「みゃっみゃっみゃみゃっみゃっみゃっみゃ!」
「ふぅう! DJさんご、 ワッツアップジャパ~ン!」
「みゃみゃみゃみゃ、みゃみゃみゃみゃ!」
「アーユーレディトゥジャーンプ!」
さんご:まあ今時のDJは
さんご:ターンテーブルなんて回さないんだけどね
さんご:DJを模した動きをするなら
さんご:スクラッチじゃなくてゲインやトリムのつまみを調整する動きを真似するべきなんじゃないか?
醒めた意見は無視して、僕はスマホで音楽を流し始める。そして音楽にあわせて、踊り始める。
「ふぅう! ターンイットアップ! レットミーヒアユー!」
見ると、カメラの横のマゼルさんも。
「(にこにこ)」
変わらぬ笑顔で、体を揺らしていた。
「ユーアーアメイジング! ドントサポートドナルドトランプ! エビバディファッキンジャンプ!」
後日公開された動画では、さんごの横で踊りまくる僕という絵から、そのままエンディングに入ることになった。
そんな感じで撮影も終わり――
「素敵でしたよ。光様」
そんな言葉と共にタオルを渡され、どきどきしてしまう僕だった――って!
(だめだめだめ……だめだよ! 明日結婚式なのに! どきどきしちゃったりしたら、だめだよ!)
と、僕が心の中で葛藤していると、部屋に人が入ってきた。ちょっと怖い感じのする中年の痩せた男性で、マゼルさんが着てるのとはまた違った、制服らしき服装に身を包んでいる。
男性が、マゼルさんに耳打ちすると。
「申し訳ございません、光様。所用がございまして、私は失礼させて頂きます。別のものがお世話に参りますので、しばしお待ちください――さあ、コ=ネル。行きましょう」
と言って、男性と一緒に出て行ってしまった。
そうして、入れ替わりに入ってきた女性の淹れてくれたお茶を飲んでいると。
「よお、ぴかりん。ちょっと頼んでいいかな」
彩ちゃんのお父さんが入ってきて言った。
「ウ=ナールが行方不明でさ。ちょっと、探してきてくれないかな」
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