177.猫と生まれかけのダンジョンへ(前)
「ウ=ナールが行方不明でさ。ちょっと、探してきてくれないかな」
と言われて事情を聞いてみると、こういうことだった。
ウ=ナールは、平野でのモンスター討伐を指揮するため、昨日から出かけていたらしい。
明日の僕らの結婚式に彼も参列するため、本当なら今日の昼には帰ってくるはずだったのだけど、予定が狂ったのは今朝のことだった。
昨日の夕方には討伐を終え、野営し、朝を迎えようというその時、奇襲を受けたのだ。
襲ってきたモンスターは数が多く強力な個体も混じっていた。ウ=ナールの側も帰還を前に浮き足立っており、混戦の結果、モンスターを撃退はしたものの、気付くとウ=ナールの姿が消えていた。
「ウ=ナールの側にいた奴が倒れててさ。重傷だったんだけど、なんとか聞き出したら、モンスターに攫われたらしい。で、攫われた先っていうのがさ……」
ダンジョンだったということだ。
しかも、普通のダンジョンではなく……
「モンスターの来た方角を探したら、未発見のダンジョンがあってさ。まだ生まれる途中のダンジョンだから、新しくて、まだ見付かってなかったんだ」
さんご:自動生成システムで作られたダンジョンだね
さんご:まずダンジョンのひな形と最低限のモンスターが作られて、モンスターが攫ってきた人間や動物を元に、どういったダンジョンになるかが決められるんだ
「新しいダンジョンは、何を食うかで性格が変わるからさ。そういうのを見つけたら、しばらくはダンジョンの近くに動物の死体を置いておくんだ。そうやって、自分らの都合の良いダンジョンに育てるんだよ」
都合の良いダンジョン?
「何を食って育ったかによって、ダンジョンに出てくるモンスターや、ドロップするアイテムが変わるから。だから自分っていうか、国が集めたいアイテムがドロップするように、入り口で置いてく食い物で調整するんだ」
そんなことが出来るんだ……
さんご:彼らなりに、データを蓄積してるということなんだろうね
「だからさ――普通は、人間が攫われても助けになんて行かない。下手な影響を出したくないからな。でも、ウ=ナールは
事情を聞いて部屋を出ると、ガ=ナールが土下座していた。
どんな言葉で頼まれたかは憶えてないけど、僕はウ=ナールの救助を引き受け、ダンジョンに行くことにした。
ダンジョンに行くのは、僕とさんごと、それから騎士団の遊撃的なポジションにいるという3人だった。
「フ=ラグです」
「タ=テテです」
「オ=ルゾです」
3人とも見るからに屈強そうで、ちょっとワルそうな雰囲気のするおじさん達だった。
光:新発見のダンジョンで注意しなきゃならないことってある?
さんご:さっきの龍吾の説明には不足があった
光:不足?
さんご:『何を食って育ったかによって、ダンジョンに出てくるモンスターや、ドロップするアイテムが変わる』
さんご:という説明だったけど
さんご:実際は、それに加えて
さんご:ダンジョンの中でモンスターに加えられた攻撃の種類によっても、ダンジョンの性格が変わる
さんご:だから、下手に多彩な攻撃でモンスターを攻撃すると
さんご:完成したダンジョンで出てくるモンスターの攻撃も多彩になる
さんご:だからダンジョンが育ちきるまでは、中で戦闘を行わない方が無難だ
さんご:下手な影響を出したくない、というのにはそういう理由もあるのさ
建物を出て、馬車に乗った。
目的のダンジョンまでは、2時間程度で着くらしい。
車中で会話してたら。
「俺、来月、子供が生まれるんですよ」
「俺は、この任務が終わったら馴染みのウェイトレスにプロポーズするつもりなんです」
「俺は、来年、厄年です」
一緒に行くおじさん達のプロフィールも分かり、会話しやすくなった。
ダンジョンが近くなると、人の活動する音が聞こえてきてすぐ分かった。1番大きいのは木を切り倒す音で、おじさん達に聞いてみると、それでダンジョンの入り口を囲む柵を作るらしい。
「策で囲んだら、そこへ動物の死体を投げ込むんですよ。毎朝毎晩。それで、モンスターが外に人や動物を攫いに行くのを防ぐんです」
ということだった。
現地で動いてる人達への説明は、おじさん達がやってくれたから、僕は会釈するだけで良かった。
さんごのことに気付く人もいたけど、大袈裟に挨拶することもなくて、確かにいまこの場所が非常事態にあるのだと分かった。
「まずは我々が先導します。ぴかりんとさんご様は、後方の警戒をお願いします」
僕が『ぴかりん』呼びなのは、移動の車中でお願いしたからだ――少なくとも『光様』よりはましだろう。
「では――」
ゲートですらない、蟻塚みたいな槌の盛り上がりに空いた穴に、おじさん達が入る。
それに続いて、さんごを肩に乗せた僕も、ダンジョンに入った。
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