177.猫と生まれかけのダンジョンへ(後)
生まれる途中のダンジョン――それを最初に感じたのは、足下だった。
地面が、柔らかい。
掘り起こされた土のような柔らかさではなく、生焼けの鶏肉を指で押したときみたいな、固い表面の向こうからぶよぶよした感触の伝わる、そういう柔らかさだ。
まだ、どんなダンジョンになるか決まり切っていないということだろうか。
そんな直感を、出現するモンスターが補強してくれた。
「ゴブリン3――行きます」
ショートソードで、おじさん達がゴブリンに斬りかかる。ゴブリンは僕がよく知ってるゴブリンなのだけど、たとえば耳や手足の形や、腹の膨らみ具合に違和感のある、原作に愛情のないメーカーが出した『全体的には似てるけどなんかこれじゃない感じのする』フィギュアみたいだった。
「ふぃあうほっ! ふぃあうほっ!」
叫ぶ声も、似てるけど何か違う。
「「「ふんっ!」」」
3体のゴブリンを、3人のおじさんが同時に切り倒した。フ=ラグさんにタ=テテさんにオ=ルゾさん――騎士団で遊撃的なポジションを任されているのは、それだけの実力があるということだ。
「前方良し」
声に。
「後方、良し」
後方の警戒を任されてる僕が答えて。
「前進、再開」
再び、僕らは歩き始める。
ダンジョンはほとんど分岐がなくて、分岐が見付かっても――
「
おじさんが魔法の光を飛ばすと、数メートルで行き止まりになってるのが分かった。
出くわす分岐がすべてそんな感じで、これは分岐も作成途中ということなのだろう。
「コボルト4――行きます」
「リザードマン2――行きます」
「ハービー1――行きます」
現れるモンスターを、おじさん達は最低限の斬撃で倒していく。
僕はといえば、後方の警戒を任されてるけど、分岐が無いからバックアタックの心配は少ない。
でも――ぼこん。
違和感があって地面を叩いたら、そこに集まって形になりかけてた何かが霧散する気配があった。おそらく、モンスターがリスポーンしようとしていたのだろう。
僕が持ってるのは
ダンジョンへの影響を考えて、単純な打撃や斬撃で戦おうと、事前におじさん達と話しあっていた。
おじさんが言った。
「ここまでで、あと4割くらいってとこですかね」
それは、おじさん達の知見から出た言葉なのだろう。
(このダンジョン……どこまで続いているんだろう?)
そんな僕の疑問を、先回りしたかのような言葉だった。
おじさんが言った通り『あと4割』くらいの距離を進むと、ダンジョンの行き止まりに着いた。
そう判断したのは、通路が行き止まりになってたこと。ダンジョンコアがあったこと。そして、もうひとつ。
ダンジョンボスが、そこにいたからだ。
ダンジョンボス――ダンジョンボスとしか思えないモンスターは、ここまで出会ったモンスターの特徴を全身に現していた。
身長4メートルはありそうな巨体の、口はゴブリンのごとく裂け、体表はコボルトの様な毛並みに覆われている。肩から生えてるのはハービーの翼で、尻尾と背びれはリザードマンのものだ。
まだ生まれかけ――最終的にどんなモンスターになるかは、これから決められるのだろう。
「「「ああ……うああ」」」
そして胸板で呻きを漏らしているのは、人間の顔だった。
焦点の合わない目を彷徨わせてるのは、ウ=ナールと、それから数人の男達。ダンジョンボスに呑み込まれてる途中で、やがて完全に、胸板の奥へと埋まってしまうのだろう。
さて――このダンジョンボスと、どう戦うか。どうやって、ウ=ナールを救うのか。
おじさん達を見ると――
「「「…………」」」
どうしたらいいのか、分からないという顔だった。当然だ。事前の話では、
ここまで事態が悪化してるのは、想定外のことだったのだ。
僕は聞いた。
「ダンジョンボスって、いつもはどうやって倒してるんですか?」
おじさんの答えは。
「騎士団が、10人以上で――戦って、倒します」
なるほど――で、いまはこの4人しかいないわけですけど。
もう一度、僕は聞いた。
「もしかして――言われました?『何かあったら、ぴかりんに任せろ』って」
彩ちゃんのお父さんに。
すると――
「「「……そやねん」」」
何故か関西弁(とはいっても『
「分かりました。じゃあ、僕がなんとかします」
そう言って僕は、ダンジョンボスと対峙したのだった。
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