154.猫と二人の日曜日1(前)

 日曜日もMTTは探索だったそうなのだけど、僕は呼ばれなかった。 

 というわけで、久々にさんごと2人きりだ。


「今日は、彼女を呼んだりしないの?」

「ああ。雌なんて交尾する時だけいればいいのさ」


 本質的に、さんごの恋愛観は殺伐としてるというか人でなしだ。


「明日から補習なんだよねえ……あ~あ、休みが減っちゃって損した気分だよ」


「逆だろ? 君には、学校に行ってる時の方が休みなんだよ」


「どういうこと?」


「考えてもみなよ。補習が終わった次の日――次の土曜日の予定は?」


「探索」


「その次の日は?」


「探索」


「その次」


「トレーニング」


「その次」


「探索」


「次」


「探索」


「次」


「日常動画の撮影」


「全部、仕事じゃないか」


「そういえばそうだね」


「だから逆なんだよ。君は休みが減るのじゃなくて、仕事できる日が減るのを不満がってるんだ」


「う~ん……」


 小屋でごろごろしながら、そんなことを話していると――


「こんにちは~。誰かいますか~」


 ドアを叩く人がいた。


「は~い。どちら様ですか~?」


「警察で~す」


 なんだろう?


 一瞬頭をよぎったのは、オヅマのことだった。


 オヅマ獣壱――この小屋を襲撃したこともある迷惑配信者だ。警察が来るとしたら、オヅマが何かやらかして、それで僕の名前が出た可能性くらいしか思い浮かばなかった。


 でも、違った。


「中学生の女の子なんだけど、ここに訪ねてきませんでしたか? 昨日から連絡がつかないって親御さんから通報があって、聞いたら、その子達はあなたのファンで、あなたに会いに行くって言って出かけたそうなんだけど、ここに来てたりはしませんかねえ……」


 そう話しながら警官は、僕の肩越しに小屋の中を覗こうとしている。


「誰も来てませんよ――だったら、家の中を見てもらってもかまいません」


 でも、僕がそう答えたら。


「いえいえ、そういうつもりじゃなかったんで」


 と、あっさり帰っていった。


「さんご?」


 さんごを見たら、さんごは首を振って。


「僕じゃないよ。確かにファンが来るのを避けるために、結界を張って、僕らの知り合い以外は道に迷って近付けないようにしよう、なんて考えたこともあったけど――」


「けど?」


「理由は、いまので分かるだろ? 君のファンにはいろいろ・・・・いるんだ。小中学生や老人、身体が不自由な人だっているかもしれない。そんな人達をこんな山の中で道に迷わせたら、最悪の事態だって起こるかもしれない」


「それは……死ぬってこと?」


「ああ。最悪でなくても、それに近いことは十分に起こりえる。だから、やめたんだ。君は知らないだろうけど、君が留守の間に何人もファンが来て写真を撮ったりしてるんだよ?」


 言ってさんごが見せてくれたのは、SNSにアップされた、僕のファン達の『聖地巡礼』の様子だった。


 小屋の前での自撮りや、仲間と一緒に撮った写真。以前小屋の前で行われた僕とカレンの戦いを再現するコスプレイヤーもいた。


『ぴかりんとみおりんも、一緒にお風呂に入ったりしてるのかなあ』


 と書いてアップされてたのは、外にある五右衛門風呂に入った女の子2人組の写真だった――あれ? これって。


「ねえさんご、これ、アップされた日付――」

「ああ。昨日の夕方だ」


 昨日、僕らが小屋に帰ったのは夜9時過ぎだった。その数時間前に、この写真は撮られたということになる。そして――


「多分……この子達、だよね」


 写真に写ってる2人は、中学生くらいに見えた。


 と――どんどんどん!


 再びドアが叩かれたのは、僕とさんごが顔を見合わせた、その時だった。


「ぴかりーん。いるぅ? 光くーん!」

「小田切さん……どうしたんですか?」


 やってきたのは、イデアマテリアの社長の小田切さんだった。普段は東京の事務所にいるけど、いまは夏休み代わりにこの町でリモートワークしている。


 お土産(デパ地下で売ってるチョコレートの詰め合わせ)を渡しながら、小田切さんが言った。


「いま警察から連絡があってね、あなたのファンの女の子が、あなたに会いに来て、この小屋の前で写真を撮ったあと行方不明になってるらしいの」


「それ、いま警察の人が来ました」


「そう……なんて答えた?」


「知らない……誰も来てないって」


「昨日、家にいなかったことは?」


「それは……言ってないです」


「……まあ、いいか。そこまでこっちから話したら、出来すぎてて逆に怪しまれたかもしれないしね――で、心当たりは?」


「これを……」


 いま見てた五右衛門風呂の写真を、小田切さんにも見せる。続けて投稿時間を指で示すと、顎に手を当てて小田切さんは言った。


「これね……多分、この子達でしょう。で、さんご君ならさ、この山で迷子になってる人がいたりしたら、すぐ分かるわよね?」


「ああ。不審者と検知して、山を出るまで監視を行うことになってる――さんご隊がね」


「そうか。そうね……じゃあ、さんご隊にも話を聞いてみましょう」


「そうしよう――来い! さんご隊!」


 呼ばれて地下の工房から出て来たさんご隊は、地下にいながらにして僕らの話を聞いてたらしい。


「「「「「ふにゃーん」」」」」


 声と同時に送られてきたのは、中学生の女子2人が、五右衛門風呂で写真を撮り、窓から小屋の中を覗いてはしゃいだりしたあと、山を出るまでを追った動画だった。


『また来ようね』

『うん。今度はぴかりんいるかもね』

『みおりんもね』

『ぴかりんって、本物もすっごくかっこいいんだろうね』

『絶対、そうだよね』


 そんな、彼女たちの声が流れる中。


「これを警察に見せれば、とりあえずあなたへの嫌疑は晴れるわけだけど――困ったわね。街でぶらぶらしてるだけならいいけど――悪い大人が関わってるなら。『ぴかりんに会わせてあげる』なんて言って騙されたりしてたら……」


 思案顔になる小田切さんに、僕は言ってた。


「探しましょう。この子達が、無事に家に帰れるように。嫌なんです。僕のファンが、僕のせいで――僕のせいじゃなくても、酷い目にあうのは……許せない」


 そして10分後、小屋を出て街に向かった。


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新作始めました!


ネトゲで惨敗した最強美女ドラゴンに異世界でリベンジします!でもあいつ異世界でも最強みたいじゃないですか!ていうかバトルより先にイチャラブが始まりそうなんですが、一方そのころ元の世界は滅びていたようです


https://kakuyomu.jp/works/16817330665239304295



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