154.猫と二人の日曜日1(後)

「この子達を探そう」


 僕は言った。


「探そう、か――『探しに行こう』じゃないんだね」


「うん」


 頷いたのは、どうやって彼女たちを探すのか、手段の予想がついてたからだ。


 さんごが言った。


「SNSやコンビニの監視カメラのデータから、彼女たちの足跡を辿ろう。メッセージアプリのサーバをハッキングすれば疑似人格を組みあげて行動予測することも可能だけど、どうする?」


 メッセージアプリ……を覗くのは、さすがにやり過ぎな気がして躊躇われるのだけど。


「光、僕を見てくれ」


「うん」


「僕が、何に見える?」


「さんご」


「さんごは、何だ?」


「猫」


「そう。猫だ。猫にメッセージアプリのログを見られたとして――ごく私的な会話を覗かれたとして、何の問題がある?」


「ううん……普通の猫なら、そうなんだろうけど」


 僕が不承不承な態度でいると……


「さて、そんなことを言ってる間に彼女たちの居場所が分かったわけだけど」


「早っ!」


「どうする小田切? 警察に連絡して保護に向かわせるか、それとも――」


「できれば私達で迎えに行って、今後の注意喚起の材料にしたい。さんごチャンネルの動画にしましょう。警察からの連絡を受けて探しに行ったら、偶然、彼女たちを見つけた……っていうていでね」


「いいね。幸い、昨日からの足跡を見る限り、彼女たちはそれほど酷い目にはあっていないようだ」


「念のためだけど――SNSのこの子達が、行方不明になってる2人だという確証は?」


 そんな小田切さんの問いに――


「警察のデータベースで、照合済みだ」


 さんごが軽く答えて、僕らは彼女たちを迎えにいくことになった。


 と、その前に――


「光。シャワーを浴びて髪を整え、1番いい服に着替えるんだ。せっかく『聖地巡礼』に来てくれたファンに、寝起きのままの姿で会うのはどうかと思うよ?」


 というわけで15分後、僕らは小田切さんの車で出発した。



「ここって……どうして? どんな経緯いきさつがあれば、こんな場所に辿り着くのよ?」


 さんごに言われた場所をカーナビにセットして、車は走り出す。


「そうだね……小田切みたいなおばさんには分からないかもしれない」


「お、お、ほ、お……ほう?


「少女時代が過ぎて長い時間が経ち、自らの聡明さで自分が1人で生きてくための居場所を社会に築いた小田切くらいの年齢の女性に、特に頭が良いわけでも悪いわけでもない普通の少女達の思考は理解しがたいだろうってことさ」


 既にどこがどう失礼なのか指摘するのも難しいレトリックで煙に巻き、さんごは続けた。


「昨日、彼女たちがこの街に着いたのはお昼前だ。家は東京で、朝9時の電車で出発した。まず向かったのは、ここだ」


 車は、駅前の探索者協会のビルを通り過ぎる。


「このビルにある探索者協会のショップで、光のグッズを購入」


 同時にスマホに送られてきたのは、SNSのスクリーンショットだった。


『ぴかりんの地元グッズ!』


 この街のショップでしか売ってない僕のアクリルスタンドを、彼女たちは買ったらしい……って


「ええっ!?」


 思わず声が出たのは、次のスクショだった。


『うわ~、こんなの出てたって聞いてない~。欲しいけど……高い』


 そこに写っていたのは、僕の等身大のタペストリーだった。使われてるのはイデアマテリアの宣材として撮った、ひざまずいて美織里の足にすがりつく僕の写真だ。


「小田切さん……これって!」


「AIよ。さんご君の作ったAIが言ったから……そういうのを作れば売れるって言ったから……AIが……AIが」


「さんご!?」


「AIだよ。AI――さて、ショップを出た彼女たちは、光の小屋に向かう」


 さっきも見た、五右衛門風呂で写真を撮る2人の写真。その次は――


「予定では、このまま帰宅する予定だったんだけど……でも」


 彼女たちは、帰らなかった。


『ううう~。やっぱり欲しくなってきた~』


 欲しい?


 何を――横目で小田切さんを見ると。


「…………AI」


 あのタペストリーでしかあり得なかった。


 さんごが言った。


「彼女たちは、タペストリーを買うために、駅から再びショップに向かった。この時点で、時刻は夜8時」


「その時間だと、閉まってるわね」


「そう。探索者協会のショップは、既に閉店している時間だ。そして彼女たちは家に帰らず、この街で夜を明かすことを選択した――朝になってショップが開くのを待ち、タペストリーを買って帰ることにしたんだ」


「…………」


 僕が絶句したのは、スマホに次々と表示されてく写真にだった。


「ちなみにそのタペストリー、既に話題になってて、写真やショート動画がアップされまくってる」


 そこに写されているのは、僕が美織里の足にすがりつくタペストリーを自分の足にあてる老若男女の姿だった。


 それはまるで、僕が彼らの足にすがりついてるように見えて、1人残らず浮かべている恍惚とした表情ともあいまって、僕は、僕は……


「AI…………って問題じゃないよねこれは」


 そう、苦言を呈さずにはいられなかったのだった。



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新作始めました!


ネトゲで惨敗した最強美女ドラゴンに異世界でリベンジします!でもあいつ異世界でも最強みたいじゃないですか!ていうかバトルより先にイチャラブが始まりそうなんですが、一方そのころ元の世界は滅びていたようです


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