39.猫が気をつかってくれました

本日は20時にも更新します。

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 オヅマの配信で、美緒里がオヅマを張り倒した。

 まとめると、こんな感じだった。



「みおりん登場~!!」


 小屋の前に現れた美緒里を指さして、オヅマが叫んだ。


「待ってても、誰も帰ってこないわよ」


 淡々とした声で、美緒里がそれに応える。


「あれっすか!? これから(口をパクパク)っすか!? (口をパクパク)っすか!? (口をパクパク)っすか!?」


 腰と拳で卑猥なゼスチャーをしながら美緒里に近付くオヅマだったが。

 べちん。

 美緒里にビンタされ、空中で3回転して地面に落ちた。


「いでぇええええええええっっっ!!!!! な、な、な、何するんだよオマエええええ! いいのか!? いいのか!? オマエ探索者だろ!? 探索者が一般人にこんなことしていいのか!? 暴力ふるっていいのか!? いいのかよおおおおお!!」


「不味いかもね」


「お! お! お! おいおいおい聞いたか? 聞いたかオマエら! こいつ分かってるんだよ。探索者が一般人を叩いたりしちゃいけないって、分かった上でやってるんだよ!! 燃えるぞ!! いいのかおい! 燃えるぞ!? 炎上するぞ!? ガンガン燃えるぞ!? いいのかおいっっっ!!」


「確かにそうね。炎上するだろうし、法的にも無傷ではいられない。どんな罰が与えられるかは裁判しなきゃ分からないけど……そうそう。裁判になったら、改めてスキル検診して結果を提出することになるでしょうね――あたしも、あなたも」


「……………………はぁ?」


「だってそうでしょ? スキル持ちがスキル無しの一般人に暴力をふるったら、確かに不味いわよね。でも、スキル持ち同士だったら、そこの問題はなくなる。単純に、迷惑行為を繰り返してる30歳のデカいおっさんが、体重が半分も無さそうな16歳の美少女にウザく絡んで張り倒されたっていうだけの話になるわけだけど――さて世間はどう思うかしら?」


「お、お、俺はスキルなんて持ってねえし!!」


「うん。でも裁判だから。そこが争点になるんだから、ちゃんとスキル検診しないと。スキル無いんでしょ? だったら検診受ければいいじゃない。それとも――もしかして?」


「ん、んお、んご、んぐ、ぐぉおおおおおおおおッッ――――――――――っ!! 死ね!!」


 捨て台詞を吐くと、オヅマは走ってその場を去り、ようやく配信が終わった。


 ●


「どうして、オヅマはあんなに焦ってたんだろうね?」

「オヅマは、企画で格闘家とスパーリングしたりしていたんだ。階級は下だけどプロの選手を圧倒して、それが評判になって視聴回数を稼いでいたんだけど……」

「なるほど。一般人のふりをしてスキルを悪用してたわけか。だから、スキルを持ってるのがバレたら……」

「不味いことになるだろうね」


 10分もかからず、美緒里がホテルに来た。


「光~~~。小屋に変なのが来てたから追っ払っといたよ~~~」

「ありがとう。配信で見てたよ」

「あ~。怖かった~。変なデカいおっさんに絡まれて怖かった~。怖くて怖くて泣きそ~~~」

「…………」

「………………ねえ、彼女がこういう風に言ってるんだから、あんたも言うことあるでしょ?」

「怖かったね。がんばったね。よしよし」

「んふふ~。がんばったでしょ~~~…………それで?」

「制服、似合ってるね。可愛いよ」


 美緒里は、僕の学校の制服を来ていた。

 いよいよ次の月曜日、転校してくるのだ。


「そ、そおでしょ~……それで、ね?」

「うん……来て」


 ベッドに並んで座った美緒里を、僕は抱き寄せる。

 頭を僕の胸に預けて、美緒里が上目遣いで笑った。


「ぬふ~ふふ。ねえ、ゲームしない?」

「どのゲーム?」

「ジャンケン好き好きゲーム」


 ジャンケンして負けた方が、相手を見つめながら『好き』というゲームだ。水曜日に付き合いだしてから金曜日の今日までで、美緒里はこういうゲームを10個以上考案していた。


「じゃあいくよ。ジャンケンポイ……好き。ジャンケンポイ」「好き」「ジャンケンポイ……好き。ジャンケンポイ……好き。ジャンケンポイ」「好き」「ジャンケンポイ……好き。ジャンケンポイ。好き。ジャンケンポイ」「好き」「ジャンケンポイ。好き。ジャンケンポイ」「好き」「ジャンケンポイ」「好き」「ジャンケンポイ」「ぬふふ~。ん~~~、大好き」


 美緒里の髪を撫でると、すごく熱くて、すごくいい匂いがする。僕の頬も、すごく熱くなってる。もともと近かった距離が恋人同士になってもっと近くなってる。さんごの姿はない。どこかに隠れてくれてる。付き合って1日目の水曜日も、2日目の木曜日もそうだった。いつの間にか抱きしめあってて、気が付くと時間が経ってる――3日目の今日も、そうだった。


「ん……ぎゅってされてるだけなのに……大きな声、出ちゃう……大きな声、出ちゃうのお…………」


 鼻を鳴らして言う甘い声に、頭の奥が焦げてしまいそうで。

 もう、最後まで行ってしまおうかと思ったその時には。

 遠くから聞こえてくる声が、教えてくれる。


「んふ~~~。光、寝ちゃった。可愛い。好きって言われちゃった。んふふふふふ。さんご、出てきていいわよ。しっかしヤバいわね~。あたしの性欲っていうか感じ過ぎなの、ヤバすぎでしょ。こんなんで本当にしちゃったら、どうなっちゃうの?って、あ~~~ヤバいヤバいヤバい。相手が光だからだよ~~~。どれだけ光のこと好きなのよ~~~!? あたし~~~!!」


 僕が、眠ってしまったのだと。


「しかし、光の寝付きが良くなってよかったよ。美緒里は、どうだい?」

「そうね。光とこう・・なってからは、よく眠れる。まだ付き合って3日目なのにね」

「心を許しあった2人に、時間なんて関係ないさ」

「…………そう。そういうもの?」

「そういうものだよ」


 その後、日曜日の朝までホテルにいた。

 そのほとんどの時間、僕は眠って過ごしていた。


 疲れてたんだね、と美緒里が言った。


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お読みいただきありがとうございます。


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