38.猫が迷惑系配信者を連れてきました
本日は、12時と20時にも投稿します。
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さんごチャンネルを始めてから、以前より動画配信サイトをよく見るようになった。
だから、すぐ分かった。
「待てやコラ! このクソ猫がぁあああああ!!」
バットを持って走ってくる、巨漢が誰なのか。
『オヅマ獣壱』
迷惑行為を動画にして投稿する、迷惑系というジャンルの配信者だ。
最近では、顔の知られてる都会での活動が困難になったため、地方遠征して動画を撮ってると聞いたけど。
「ちょっと! 何なんですか!?」
僕が猫たちを庇って立つと――
「なんだオマエはぁああ! その猫はなあぁあああ!『猫の集会にフライングボディプレスして邪魔してみる』って動画を撮影するのを邪魔しやがったんだよおおお! とっととブチ殺させろやオラぁあああああ!!」
オヅマは、僕に罵声をぶつけてきた。
どうやら、オヅマの迷惑行為に遭ってる猫たちをさんごが助けて、それをオヅマが追いかけてここまで来たということらしい。
確か、オヅマは30歳。
オヅマの後ろには、オヅマより若そうな男たちが数人いて、カメラや照明を構えている。
いまも、撮影中なんだろうか?
「ライブ中だ! ば~~~か。オマエの顔は、すでに全世界に晒されてま~~~す。そしてこれからオマエが俺にボコられるところも、晒されま~~~す!」
さて、どうしよう……
ダンジョンでの経験のおかげだろう。オヅマが僕より強くないことは直感で分かった。怪我する心配はないし、そもそもオヅマも、そこまでやるつもりはないはずだ。
でもいつまでもオヅマの配信に映っているのは不味い。
きっと視聴者が……悪い予想が、当たった。
「オヅマさん、これ……」
オヅマの取り巻きの1人が、オヅマにスマホを見せた。
画面に映っているのは、おそらく……オヅマが爆笑した。
「うははは~~~! コメントで教えてもらったぞ~~~。ありがと~~~。みなさ~ん! この小僧の正体はあ~~~! な・ん・と! あの春田美緒里の彼氏だそうです! いま話題の、羨ましいあのガキです! 春田美緒里の彼氏ということは~~~。こ・い・つ・は、春田美緒里と(口をパクパク)してるということでぇ~す! (口をパクパク)!! センシティブワードを避けるため~。口をパクパクさせてるけどお! これ見てるオマエら分かるよなあ~。こいつと春田美緒里は(口をパクパク)していま~す。(口をパクパク)!!(口をパクパク)!!(口をパクパク)!!」
愚劣な物言いをするオヅマに、怒りよりも。
(この人は、30歳にもなって何をやってるんだろう……)
そんな同情にも似た呆れが先に来た。
同時に、そんな30歳と相対していると。
(僕は、いったい何をやってるんだろう……)
そんな思いも、湧いてくる。
でも、いま僕が取るべき行動は分かっていた。
「さんご、行くよ」
さんごと猫たちを連れて、僕は歩きだす。
オヅマと、その取り巻きたちの間を通り抜けて。
「お、おいオマエ、どこ行くんだよ!」
「猫を逃がしに行くんです。もともと僕は猫を守りたかっただけですし。だったら、あなたが手を出せない場所まで猫を連れてけばいいだけですし。わざわざここであなたと睨みあってる必要はありませんし」
「オ、オマエ~~~。オマエェエ~~~。それは自分勝手すぎるだろおおおおお!!」
「いえ、勝手なのは僕を無理やり自分の配信に出演させてるあなたですし」
「ま、待て! 待て待て! 待て待て待て待て待てってば!!」
さんごたちを先に行かせて歩く僕を、オヅマは服を掴んで止めようとする。
でも、止まらない。
「お、お、お、お、お、おおおおおおお!!」
探索者になった僕の筋力は、オヅマを引きずっても止まらない。
引っ張られた服が破けないのは、さんごに頼んで強化してもらった服だからだ。
「おおおおおお――ぐへぇっっ!!」
ついにはオヅマの指の方が耐えられなくなって離れ、オヅマは無様に転んだ。
この道は、国道にして酷道。
転がった石や砂利に、どこをぶつけたのかオヅマは。
「い、いでぇええ。いでぇ。いでぇよぉおおおおお」
泣き喚くそんな声も、やがて聞こえなくなり。
ほどなく僕とさんごと猫たちは、町へと着いたのだった。
猫たちの飼い主(全部さんごが把握してた)を一軒一軒訪ねて事情を話してたら、終わった頃には午後8時を回っていた。
その足で、僕とさんごは駅前のホテルに向かう。
理由があって、今夜はホテルに泊まることになっている。
オヅマの襲撃とは関係なく、最初から予定していたことだ。
山の小屋よりずっと広い部屋で、僕とさんごはベッドに寝転がった。
「助かったよ光。おかげでガールフレンドたちを怪我させずに済んだ。しかしあのバカが小屋まで追いかけてくるとは思わなかったよ。流石は探索者の体力というべきかな」
「探索者――オヅマが?」
「気付かなかったかい? 公表してるかは分からないけど、あの木偶の坊はスキルを持ってる。体内の魔力量を探れば分かるよ」
「そうか――いや、でも」
「なんだい?」
「さっきオヅマを引きずって転ばせたけど……全然、簡単だった。まったく苦労しなかったんだ。僕が探索者でオヅマが一般人だからかと思ったけど、オヅマもスキルを持ってるなら……どういうことだろう?」
「簡単だよ。君が、並のスキル保持者よりずっと強いからさ――それよりこれを見てよ」
と、差し出されたスマホには、オヅマの配信が映されていた。
あれから、まだ配信を続けていたのだ。
しかも、僕の小屋の前で。
●
「ちくしょお~。あのガキ~。春田光~。帰って来いよ早くよ~。ここに住んでることは分かってんだぞ~。ちゃんと表札見たからな~。逃さねえぞこら~~~。それともアレか~~~? みおりんと(口をパクパク)してんのか~~~?(口をパクパク)してんのか~~~?」
●
「放っとこう」
「そうだね――――って、あ」
「あ……光。今夜ここに泊まることは、美緒里に?」
「もちろん、言ってあるけど……」
配信の画面で、美緒里がオヅマを張り倒していた。
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週間ランキングの総合で500位以内に入りました。
ありがとうございます!
今月末の第4章完結に向けて、がんばります!!!!
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