219.猫の視界にXXXX(1)
その武器は、なにもかもを灼き尽くす焔だ。
でもこの表現は正しくなくて、実際に放つのは焔ではない。以前聞いた、さんごの説明によると――
『熱属性を持たせた魔力伝導物質の粉末を、標的に振りかけるんだ。粉末は触れたものの魔力を吸収し、高熱を発生させる。その結果、相手は灼けて溶けて更に灼け、最終的には白い焔となって燃え尽きるんだ』
――ということだった。正直、これではなんだかよく分からなかったのだけど。
『喩えるなら、マグネシウムの粉末が燃焼した感じかな。あれの凄いやつ』
『凄いやつ』
『うん。凄いやつ』
というやりとりを経て、なんとなく理解出来たような気になったのを憶えている。
送られてくる映像をよく見ると、複雑な機動で『ハガー』と戦う『グラッセ』の上空で、他のシルバーサーファーが待機してるのが見えた。
粉末をばらまくわけだから、巻き添えを食らう可能性も高いのだろう。だから『タンカー』と『スピッター』への攻撃が止まっているということか。
彩:とりあえず、お手伝いしときますね~
彩:
彩ちゃんのメッセージから少し遅れて、『タンカー』が端から順番に倒れ始めた。後衛の盾役を担うだけあって頑丈で、さすがに破壊はされない。でも、その後ろの『スピッター』は別だった。
パイセン:……ヘイトが、あっちに向きましたね
倒れた『タンカー』に潰されて、『スピッター』はヘイトを『タンカー』に移したらしい。ダンジョンコアからの指示が続いてたら、こうはならなかっただろう。
彩ちゃん達に向けられてた砲撃が、いまは『タンカー』に向けられている。それに応じて『タンカー』も『スピッター』にヘイトを向け、巨大な盾で地面を叩き始めた。
『グラッセ』が『ハガー』を全滅させた頃には『タンカー』も『スピッター』も同士討ちで消耗し、この時になってようやく出番が来た残りのシルバーサーファーが襲いかかると、全滅するまで数分もかからなかった。
美織里:彩ちゃんとパイセンは、これでいいよね
さんご:ああ。『スワンプ』と『リッパー』が何匹か残ってるけど、そっちはシルバーサーファーにやらせる。死体は『グラッセ』に灼かせるから、彩とパイセンは離脱してくれていい
美織里:というわけで、2人は配信に戻って
彩:了解で~す
パイセン:了解
というわけで、これで上層の作戦は終わった。
一方、美織里担当の深層はといえば――
美織里:こっちは、これから始める
――ということで、これから始まるらしい。
深層は、上層と違ってモンスターを抑える必要がない。特殊モンスターがいるのがダンジョンコア近くだけで、そこではさんごが作業しているのだけど、さんごがモンスターに害される可能性なんて、誰も心配してはいなかった。
だから美織里も、さんごの作業が終わり、彩ちゃんとパイセンの作戦が無事終わるのを待ってからの出撃で良かったわけだ。
ところで美織里の視界も脳内メッセージで共有されてるわけだけど、途中で、ちょっと異変があった。
作戦開始の3時30分から、いまメッセージが送られてくるまでの20分ちょっとの間、映像にモザイクがかかっていたのだ。
そして。
美織里:じゃ、あたしも上から潜るから
というメッセージと同時に、正常になる。
美織里の視界に映ってるのは、自動車の運転席だった。ただ自動車と違うのは、ハンドルが丸でなく、携帯ゲーム機の両側に取っ手を付けたような四角形なところだ。
フロントドアの向こうに見えるのは両側を木々に挟まれた道で、アスファルトの割れ目から生える草が、ヘッドライトに照らし出されている。
美織里:さんご、これってなんて名前だっけ?
さんご:『ネイモア』――複層次元往還型航宙機『マイティフロッグ』の1号機『ネイモア』さ。
美織里:了解――『ネイモア』発進!
えっ!?『複層次元往還型航宙機』って何!? そんなのいつ作ってたの!? と、僕が戸惑ってる間に。
フロントドアの向こうが土色に変わり、ダンジョンの景色となり、また土色になり、ダンジョンの景色となり、土色になり、そしてまたダンジョンの景色となると、ようやく土色に戻らなくなった。
美織里:『深層』に到着
美織里:まずは『胚を製造する器官』ってやつね
美織里:そいつを焼きはらう
フロントガラスの景色が変わる。
走ってるのか飛んでるのか分からないけど、地面からそんなに高くない位置を移動してるみたいだ。
美織里:あれか。キモい。焼こう
『胚を製造する器官』――それは、ダンジョンに元からあった木々に、綿の塊を乗せて形を整えたような姿をしていた。
美織里:なんかさー、紐みたいなのがいっぱいぶら下がってるじゃん? あれで魔力を吸うんじゃない?
確かに『器官』からは、紐状の何かが何本も垂れていて、地面に近いところまで伸びた先端が、漏斗状にふくらんでいる。
あの膨らみから『胚』――魔力の球が出てくるならともかく、攫ってきた人間から魔力を吸うために使うなら、その際のビジュアルが容易に想像出来て、確かに気持ち悪かった。
美織里:燃えろ~よ、燃えろ~よ
美織里の手がボタンを押すと、フロントガラスの景色が炎で埋め尽くされた。なんだか想像よりもずっと大くて、雑なCGみたいな炎だ。そして、それが消えると――
美織里:うわ、あたしと付き合ってるのが分かった時の光のtwippyより炎上してる!
そんな嫌な喩えの通り『器官』が燃え上がっていた。
美織里:さ~、どんどん燃やしてくよ~
次の『器官』を探して、景色がまた動き始める。
=======================
お読みいただきありがとうございます。
面白い!続きが気になる!と思っていただけたら、
フォローや☆☆☆評価、応援などよろしくお願いいたします!
コメントをいただけると、たいへん励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます