219.猫の視界にXXXX(2)

Side:光


 違和感というか疑問なのは、それがどういう乗り物なのかということだ。


 美織里:お。『器官』発見! 燃やしま~す


 火炎放射で土台の樹木ごと『器官』を燃やしたかと思えば。


 美織里:は~い、ゴブリン出て来ました~


 ゴブリンの群れを見つけたのと同時に、視界の外から現れた回転ノコギリで切り裂き。


 美織里:ミノタウロスさん、いらっしゃ~い


 これも視界の外から現れたドリルで、ミノタウロスを串刺しにした。


 美織里:なんか飛んでるね~


 ハービーにいたっては、ぱかりと割れたボンネットから出て来た機関銃で木っ端みじんである。


 美織里が乗っている『ネイモア』――複層次元往還型航宙機『マイティフロッグ』1号機とは、一体、どんな乗り物なのだろう?


 美織里の視界に映るハンドルやフロントグラスの形からは自動車みたいなものが想像出来るのだけど、ここまで見た武装――ノコギリやドリルや火炎放射器や機関銃からすると、到底そうとは思えなくなってくる。


 さんごが作ったということは、当然、作られた場所は僕の住む小屋うちの地下にある工房なわけで、でもそんな乗り物、これまで僕は1度も見た覚えがなかった。


 ようやく疑問が解けたのは――『器官』をすべて焼き尽くし、残った『コアガーディアン』との戦いが始まってからだった。


 美織里:むむっ!

 美織里:こいつが『コアガーディアン』か!


 フロントグラス越しに見るコアガーディアンは、上層に現れた『ゲートキーパー』よりなお巨大で、腕が6本に顔が3つという、そんな文字情報だけなら阿修羅像を想像させる姿をしていた。


 でも、映像での印象は全く違う。


 顔のパーツは、どれもタコの口みたいな形状で、それがだらんと垂れ下がっている。腕も同様で、指はもちろん、肩や肘の関節がタコの口の形で膨らんで、その先端を地面に向けて垂れ下げさせていた。


 美織里:じゃあまず、燃やすか


 対峙していきなり、美織里は迷いのない手つきで火炎放射のボタンを押した。


 美織里:燃えないか~、じゃあ次はこれ


 しかし全く堪えてない様子の『コアガーディアン』に、今度は機関銃で攻撃するが、効き目なし。


 美織里:まあ、一応これもやってみるか


 そして最後のノコギリとドリルも、傷ひとつ付けられないどころか、あっさり払いのけられ、あまつさえ支えていたアームごともぎ取られてしまう始末だった。


 ダンジョンの最奥を護るだけあって、『コアガーディアン』はこれまで現れた特殊モンスターとは桁違いの堅さだった。


 そして、これだけ守りが堅いということは――攻撃力も。


 美織里:うわっ、やべっ! 溶けてない?


『コアガーディアン』の『タコの口』から緑色の粘液が放たれ、フロントガラスにべちゃっと貼り付く。まるでお風呂の掃除に使う塩素剤みたいな泡を立て始め、同時に運転席のあちこちで赤いランプが明滅し始める。


 すると、さんごからのメッセージが。


 さんご:美織里! ファイナル決戦ドライブモードに移行するんだ!


 美織里:了解! ドライバー美織里よりドライブディレクターさんごに、ファイナル決戦ドライブモード移行の承認を要求する!


 さんご:ドライブディレクターさんごよりドライバー美織里へ!ファイナル決戦ドライブモードへの移行を承認する!


 美織里が左右に引っ張ると、ハンドルが左右に割れて、『決』と書かれた大きなボタンが現れた。美織里が、そのボタンに拳を叩き付ける。


 美織里:ファイナル決戦ドラーーーイブ!!


 そんなやりとりを見ながら、僕は思った。


(楽しそうだなあ……)


 すると――さんごから。


 さんご:ちょっと僕も移動するね


 それまでダンジョンコアに占められてたさんごの視界が、明るく開かれながら移動する。


 移動した先で映されたのは『コアガーディアン』。そして『コアガーディアン』と対峙するもうひとつの姿が、僕の疑問を解いた。


(『ネイモア』って――『マイティフロッグ』って、あれのことだったの!?)


『ネイモア』は、確かに自動車だった。でもタイヤが付いているから、という程度の話だ。


 ボディは、ウインナーソーセージを三本束ねたような形で、色は銀色。後ろにフランクフルトみたいなトレーラーが繋がっている。


 それが、言葉では説明出来ないような複雑なプロセスで姿を変え、加えてこれも言葉では説明できない『あれ、さっきまではそんなに大きくなかったよね?』と言いたくなるようなサイズの変化があちこちのパーツで発生し、最終的には……


(……巨大ロボット)


 いつか工房で見た、巨大ロボットに変形したのだった。


 さんご:行け! 美織里!『ネイモア』の――僕らの力を見せつけてやるんだ!


 美織里:もちろんよ!

 美織里:『ネイモア』パーンチ!


 巨大ロボット――『ネイモア』の拳が、それまでどんな攻撃にもびくともしなかった『コアガーディアン』を、あっさり吹き飛ばした。


『ネイモア』は『コアガーディアン』より少し身長が低く、横幅はかなり小さい。だから、ボリュームで比べたらかなり見劣りする。


 でも攻撃力は、別だった。


 美織里:『ネイモア』キック!

 美織里:『ネイモア』踏みつけ!


『ネイモア』の猛攻に『コアガーディアン』はなすすべもなく殴られ、蹴られ、踏まれ、避けた皮膚から漏れた緑色の粘液で自らを溶かしながら、見る間に『ただの肉塊』へと変わっていった。


 そして最後に――


 美織里:フェイスオープン!


『ネイモア』の顔の外装が吹き飛び、新たに現れた鬼のような顔から。


 美織里:『ネイモア』地獄ファイヤー!


 噴き出された炎で、焼き尽くされた!


 美織里:正義は勝つ!


 胸のコクピットが開くと、そこから現れた美織里がポーズを決める……その姿に。


(正義とかそういう戦いじゃなかったと思うんだけど……あれっ!? ええええっ!!)


 内心で突っ込みを入れた次の瞬間、僕は驚愕していた。


(どうしてあの人が!?)


 美織里に続いてコクピットから現れた、その人の姿に。


=======================

お読みいただきありがとうございます。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたら、

フォローや☆☆☆評価、応援などよろしくお願いいたします!

コメントをいただけると、たいへん励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る