22.猫はいないがダンジョンに潜る(1)~神田林トシエという少女~

今日は24時にも投稿します。

===========================


「『新探索者向けダンジョン講習会』……水曜日開催というのは混雑する週末を避けるのと、趣味レベルの探索者へのハードルを上げる意味もあるんだろうねえ」


 そんなさんごの見解を、美緒里が肯定した。


「そうよ。平日に休みを取れないなんて言うヌルい奴は要らないっていうか、ダンジョンに入って欲しくないから」


『新探索者向けダンジョン講習会』とは、文字通り新人探索者に課せられてる講習で、毎週水曜日に行われている。


 座学の後で実際にダンジョンを探索し、受講した後はベテラン探索者の同行を条件に日帰りでのダンジョン探索が許可されて、一定期間の活動が確認された後、補講の『新探索者向けダンジョン講習会2』を受講すると、単独でのダンジョン探索が許可される。ちなみに『新探索者向けダンジョン講習会3』『新探索者向けダンジョン講習会4』を受講した後はダンジョン内での野営も許可される。


 これだけ聞くと、さんごと探索配信を出来るようになるのは随分先になりそうなのだけど。


「大丈夫。『新探索者向けダンジョン講習会』の後に『同行許可講習』を受ければ、さんごを連れてけるわよ」

「でも、単独じゃ駄目なんだよね? 一緒に行く探索者さんに迷惑にならない?」

「迷惑は迷惑だろうけど、迷惑をかける相手があたしなら大丈夫でしょ」

「え?」

「あたしが同行するって言ってるの!」

「いいの?」

「いいわよ……なんならずっとでも」


 ということになった。

 バッヂが交付されたのが月曜日で、一番近い講習は2日後の水曜日。

 もちろん、受講を申し込んだ。



 そして当日――講習が始まる9時よりちょっと早く。


 探索者協会の建物に行くと、案内されたのは会議室みたいな場所だった。

 受講者は5人で、そのうち3人は大学生らしきグループ。

 残りの2人が僕と、高校生くらいの女子だった。


 席に座ると、大学生グループ(男女比2:1)に話しかけられた。


「あいつアレじゃねえ? みおりんのアレ」

「ねえ君、光君だよねー」

「は、はい……」

「『はい』だって!『はい』だってさ~」

「すげー。有名人と喋っちゃった」


 と、僕のしょっぱい対応とは関係なくうちわ・・・で盛り上がってる。

 クラスの1軍グループと似たノリだが、こういうのは年齢を重ねても変わらないものなのだろうか。


「ねー、写メ撮ろうよ写メー」


 その中のギャルっぽい女子大生が近付いてきて、自撮りに僕を入れようとした。

 と、その時だ。


「それ、分かってやってます?」


 それまで黙ってた高校女子が、女子大生のスマホに手をかざして止めた。


「探索者同士で写メを取ったら、ネットでの公開を許可したのと同じになるんですよ? 親しい人以外では断るのが原則です。個人情報も同じです。文書で拒否しない限り、話した時点で公開に同意したのと同じになります。教則本にも書いてありますよ。相手が誰だったとしても『パーティーを組む際には最初にプライバシー保護に関する同意書を作成しましょう』って」


「知らねーし」


 言って顔をそむける女子大生の表情から、僕はさとった。

(あ、これ分かってやってる……)

 女子大生が自分の席に戻るのを待って、僕は高校女子に話しかけた。


「ありがとう」


 危うく、キラキラしたSNSに僕の顔が拡散されるところだったのだ。

 すると彼女は。


ー?ー!ー?ー!ー?ー!ゴニョゴニョゴニョゴニョは、教えてくれなかったんですかねえ」

「え?」


 戸惑う僕から、彼女は顔を背けてしまう。

 なんだか大変というか、面倒くさいことになりそうな予感を覚える僕だった。



 時間になると職員の人が来て、挨拶と自己紹介。


 高校女子は、

「神田林トシエです」

 という名前だった。


「春田ひかるりゅ……です」

 僕は、ちょっと噛んだ。


 それから、座学が始まった。


 まずはダンジョンで遭難したらどれだけの人に迷惑をかけるかの説明から始まり、探索の大まかな流れ、探索前後の届け出の仕方、認証バッヂを無くした場合の手続き、パーティーを作るメリットと申請方法、報酬の分配方法と言った内容が話される中。


 ビラ、ベラベラベラ……


 やたらと紙をめくる音がしてくるので、見たら神田林さんだった。


 彼女のテキストには大量の付箋紙が貼られていて、紙がゴワゴワ波打って見えるのは、同じく大量の書き込みがされてるからに違いない。それを凄い勢いでめくって行ったり来たりしてるから、こんな音を立てているのだ。


 さっきの忠告の内容といい、彼女が凄い準備をして講習に臨んでいるのが分かった。


「うるせーし」


 と女子大生の声がしたが。


「…………」


 一瞬だけページを捲る手を止めて、しかし神田林さんは、すぐまた音を立てページを繰り始める。

 

 座学は2時間で終わり、それから1人ずつ別室に呼ばれて探索者用の装備に着替え。

 探索者協会のワゴン車で、ダンジョンに向かった。


 いよいよ、ダンジョンでの実習だ。


===========================

お読みいただきありがとうございます。


面白い!続きが気になる!と思っていただけたら、

フォローや☆☆☆評価等、応援よろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る