195.猫とパスタと今後の方針(後)

 予定通り、今日は彩ちゃん宅から異世界に行ってトレーニングだ。


「直に行く? 了解!」


 美織里がパイセンに電話したら、彩ちゃん宅で合流するということになって、僕らも小屋を出る。


「光も、そろそろ慣れといた方がいいよ」


 というわけで、今日は僕も銀色のサーフボードシルバーサーファーで空を移動だ。美織里はさんごと2人乗りで、後ろから僕の飛び方をチェックする。


 こういうの、微妙にやりづらいんだよね。ゲームをやってるのを、横から見られるのと同じで……


「ごめんなさい。彩はお父さんと野球に行って、まだ帰ってないの」


 彩ちゃん宅に着くと、彩ちゃん母――彩ちゃんと結婚した今では僕の義母でもある――に謝られた。


 異世界へは彩ちゃん父が一緒じゃないと行けないのだけど、今日は早朝から草野球の予定が入っていたらしい。


彩ちゃん父あのひと、いつもそのまま駅前に行っちゃうから……」


 草野球の後は、駅前の日高屋で打ち上げをするのが恒例だそうで、それだと困るから、今日は彩ちゃんが車で同行し、連れ帰ることにしたのだそうだ。


「……おはようございます」

「どうだった? いい感じに跳べた?」


 僕らにちょっと遅れてパイセンも到着。例の『攻撃を推進力に変えるスキル』を使って屋根の上を跳んできたのだという。


「……(ぐっ)」


 そして上手く出来たかという美織里の問いに、パイセンは、親指を立てて答えたのだった。


 そうこうするうちに、外で車の止まる音。

 彩ちゃんが、彩ちゃん父を連れて帰ってきた。


「すげーよー。やったよー。相手のピッチャーが甲子園に出たことのある奴だったんだけどさー。俺、ホームラン打っちゃったよー」


 いつもと違った感じではしゃぐ彩ちゃん父は、よっぽど嬉しかったのだろう。


「彩も代打で出てさー。ホームラン打ったんだよ。でも『探索者を出すのはズルい』なんて言われて単打扱いにされてさー。でもな! な!」


「3盗してホームスチールしてやりましたよ~」


 彩ちゃんもドヤ顔で『ふん』と鼻を鳴らして、まんざらでもなさそうだ。


「あ。一応撮影しときましたから、使えるようなら使っちゃってください」

「うん。どらみんチャンネルで使おう」


 と、彩ちゃんがカメラから出したメモリーカードをさんごが受け取って、この話は終わり――


「ちょっと話しあおう。異世界あっちに行ってからじゃ時間が取れなさそうだから」


 美織里の提案で、今後の予定について話し合うことになった。


「まずさ。光の『24時間ノンストップ探索』。あたしのミスだったんだけど、異世界あっちで撮った動画は公開出来ないんだったよね。だから、現代日本こっちでもう1回やってもらって、チャンネルではそれを公開する」


「いつやる? 僕はいつでもいいっていうか、これからでもいい」


 慣れた日本のダンジョンなら、いまからすぐでも『24時間ノンストップ探索』出来る自信があった。勢いで言ってるわけではなく、気力も体力もそれくらいの余裕があるのを感じていた。


「今日は無理。あたし達が立ち会い出来ないから――トレーニングでね――光なら1人でも大丈夫って分かってる。でもいざという時の救援係バックアップ無しでやらせるのは不味いし……動画にはあたし達のリアクションも必要でしょ?」


 なるほど。


「……じゃあ、次に日本に帰ってきたとき?」

「異世界で3日間過ごすから、体感的には4日後ですかね~」


「いや、体感で3日後。異世界から帰ってきたら、その足でダンジョンに行って『24時間ノンストップ探索』してもらう。現代日本こっちじゃなくて異世界あっち――異世界の3日目を、休息日にあてるのよ」


「……なるほど」

「予定では現代日本こっちで休むってことになってましたけど、それを異世界あっちで前倒しにするわけですか~」


「そうそう。それで、ここからは光じゃなくてあたし達の話なんだけど、光の『24時間ノンストップ探索』が終わったら、そのまま異世界に行ってトレーニング。で、3日経って帰ってきたら、その足で、彩ちゃんとパイセンの『24時間ノンストップ探索』をやっちゃう。異世界あっちじゃなくて、現代日本こっちで」


「……ん、ああ。そういうことか」

「なるほど~。動画も必要ですからね~」


「そうなんだよねー。あたしの『QQダンジョンでの間引きしごと』に光を同行させる。そのために『24時間ノンストップ探索テスト』して、動画で公開する。で、彩ちゃんとパイセンも間引きに同行するってなった時――やっぱり、テストの動画は公開しないと不味いよね」


「……ですね。炎上必至」

「『ぴかりんの努力はなんだったんだ』ってなりますよね~」


「『ぴかりんがテスト受けた意味ねえじゃねえか』とか『ぐだぐだすぎる』くらいならいいけどさー。『女さま優遇措置』みたいなこと言う奴が出てくると思うんだよねー」


「「出る出る」」


「というわけで、動画公開の都合により、彩ちゃんとパイセンの『24時間ノンストップ探索テスト』もこっちでやります!」


「「了解!」」


 それから、僕が笹塚さんという格闘家とコラボしたこと。割たれし槌撃ディバイデッド・インパクトを見せたけど、撮影するのは断ったことを話し、みんなの了解をもらって会議は終了した。


 彩ちゃん父の支度が終わるのを待って、僕らは異世界に移動した――と、その前に。


 気になって、僕は聞いた。


「ねえ、どらみんは?」


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