146.猫と一緒に顔合わせ(後)

『ダンジョン内での事故』というスライドの『高校生の事故』と言う部分を強調させて、彩ちゃんは続けた。


「昨年、ダンジョン内で事故に遭った高校生の人数――昨年は、140名となっています。その内訳を見ると、軽傷122名、重傷12名、死亡が6名。ではこの表の見方を、ちょっと変えてみましょう」


 スライドが変わって『探索者部の有無による比較』というタイトルが表示された。


「これは、事故に遭った高校生の人数を、通ってる高校に探索者部があったか否かで分けた比較です。探索者部がある高校の生徒の場合、事故に遭った人数は17名――うち重症者、死亡者ともに0名。有意な違いが出ています。では探索者部がある学校と無い学校――どのような違いがあるのでしょうか」


 次のスライドは『一般的な探索者部での管理方法』


「ここからお話しするのは、日本の高校の探索者部で、一般的に行われている生徒の管理です。まず探索者バッヂを回収するのはもちろんとして、さきほどお話しした『探索者資格の申請』も学校の管理下に置かれています。探索者協会と連携して、学校の許可を得ていない生徒の申請は却下されるようになっています。それから『新探索者向けダンジョン講習会1』。これを受講するとベテラン探索者の同行付きという条件で探索が許可されるわけですけど、このベテラン探索者というのが、探索部の指導者に限定されます。では、どうしてここまでやらなければならないのか。探索者バッヂの回収だけでは不十分なのか、という点なのですが――次のスライドを見てみましょう」


『月毎の事故件数』


「高校生が関わる事故件数を月別に見ると、圧倒的に8月が多いんですね。そう、夏休みです。夏休み中に『探索者資格の申請』をして『新探索者向けダンジョン講習会1』を受講して、知り合いの探索者と一緒にダンジョンに入る――そして事故に遭う。夏休み中では学校側で探索者バッヂを回収するのも難しい、というか不可能ですので、こういうことが可能になってしまうわけです。というわけで、一般的な探索部ではこの様な管理を行っているわけですが、当校の探索部でも、これに準じた方策を計画しております」


 ここで彩ちゃんの話は終わり、司会の蒲郡先生が演台に戻った。


「はい。洞木先生、ありがとうございました。本当にですね、完全に事故を防ぐにはここまでやらなければならないんですねえ。国が法的に管理するべきだと思うんですけど、縦割り行政の弊害……なんて言ったら怒られちゃうかしら。今日集まってもらった生徒の皆さんは、全員スキルを持っていて、入部予定者ということになっているんですけど、実際は入部が決定――強制することになってしまいます。強制ということで、不満に思う人もいるでしょうけど、でもここまでの説明で分かってもらえたと思いますけど、学校もできる限りのことをやって、あなたたちを危険から守りたい。そう思った上でのことなんです。ですから『ダンジョン探索を経験したい』という思いを持ってる皆さんもいるでしょうけど、それは部の活動の範囲内で満たしてもらえたらと思います――では、その部の活動についてなんですけど、部長を務める春田美織里さんから説明してもらいます。春田さんは、クラスAという、日本でも数名しかいない等級に認定されている、優秀な探索者です――では春田さん、お願いします」


 呼ばれて演台に現れた美織里は、制服のブラウスの上に探索者ジャケットを着ていた。いつも着てるような高級なジャケットではなく、デザインも野暮ったい。


「こんにちは。春田美緒里です。探索部の部長を任されたんですけど、私自身は部活で探索した経験がありません。私は探索者になったその時からプロでした。世界レベルのトッププロです。もちろん、こんなキャリアは普通ではありません。初めて野球のバットを持ったその日に、メジャーリーグの選手になるようなものです。私以外の探索者は、99.9パーセントが――あえて言いましょう。雑魚であると。他の探索者と探索して、私が彼らを守ることはあっても守られたことはありません。だから――あなたたちも、私が守ります。まずは、それを憶えておいて下さい」


 しんとなった会場に向けて、美織里は続けた。


「さて、その上でお話ししますが――探索部の活動には2つの方向性があります。『探索指向』と『競技志向』です。『探索指向』は、ダンジョン探索技術の向上を。『競技志向』は『高校探索部技能競技会』を頂点とする競技での勝利を重視しています――これを見て下さい」


 スクリーンに映し出されたのは、僕も見覚えのある動画だった。というか、僕が写っている動画だ。


「これは、我が部の監督の洞木先生、それからそこにいる副部長の春田光君が、白扇高校探索部の『高校探索部技能競技会』で全国ベスト4になったレギュラーメンバーと、試合を行った際の映像です」


 美織里の言葉に、父兄達が驚きの声を上げた。


 理由は――僕らの圧勝だったからだろう。



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