叔父に家を追い出された僕が異世界から来た猫と出会い、ダンジョン配信でバズ狙いすることになった件。ちなみに元アイドルで美少女探索者の従姉妹は僕にべた惚れです
166.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(10)(後)
166.5.猫と美少女たちは何気に仲良し(10)(後)
「異世界で結婚するんだよ! あっちの世界なら、年齢も人数もまったく関係ないからね!」
ドヤ顔で放たれたさんごの言葉に、一番ショックを受けてたのは、当然だが、小田切さんだった。
「異世界……異世界ね……さんご君も異世界出身だしね……
どうやらいま現在、小田切さんの中で『異世界』という言葉がゲシュタルト崩壊を起こしてるようだった。
そして、あたしの横のパイセンはといえば。
「結婚……結婚……光くんと…………結婚。結婚。結婚。結婚。結婚。結婚。結婚。結婚。結婚。結婚。結婚。結婚。結婚。結婚。結婚。結婚。結婚」
こちらも意識が現実から乖離した様子で、口を三日月型にして笑っている。
あたしは……別になんともないな。と思ったら拳がぷるぷる震えるほど固く握りしめられていて、これはもう『よっしゃ!』ってことなんだろう。
もっとも結婚して嬉しいことなんて税制上のメリットくらいしか思い付かなくて、異世界ではそんなの適用されるわけがないんだから、メリットなんて全くないんだけど、あえていうなら光に『これはあたしの物だ』ってシールを貼れるというのがあるんだろう。
そんなのは、あたしはとっくに貼り付け済みのつもりなんだけどね。
ところでいち早く現実に戻ってきたのは小田切さんで――
「さんご君……異世界の写真って、ある?」
聞かれたさんごから送られてきたのは、ヨーロッパのどこかの国と言い張ればギリなんとかなりそうな気がしないでもない町並みと、そこの住人達を撮した写真だった。
「これなら……これなら『外国』とだけ言えばなんとか……海外の結婚式を体験してみましたってことで……そこまでやればガチ恋勢も怒る気がしなくなるというか、逆に彼らのファンタジーを受け入れるキャパに変じるというか……」
というわけで、小田切さんの中で、異世界の結婚式をコンテンツにする算段が立ったようだったのだが。
「……ところでさんご君、異世界の結婚式ってどんなことするんですか?」
というパイセンの質問に、
「花婿と花嫁が神殿で交尾するんだよ。その間、出席者は酒を飲んで歌いながら聖堂の周りを練り歩くんだ。とっても楽しいよ」
さんごがそんな答えを返した時点で、再び思考が決壊したらしい。
「そんなん、公開できるかあああっっっっ!!」
そんなん、最初から公開しなければいいだけですやん……
●
その後、焼酎のエナドリ割りによって落ち着きを取り戻す頃には、小田切さんの中でいろいろハードルが下がったみたいで。
「は~ん、まあいいんじゃない? これいいわ。うん。いい、いい。予定通り明日公開しましょ」
最初に彼女を憤らせていた、ダンジョンデートのメス顔問題は、どうでもよくなってしまったみたいなのだった。なんというか……山火事を爆風で吹き飛ばして鎮火する? みたいな?
「結婚かあ……いいんじゃない? 法律的にはなんら力を持たないけど、あなた達の気持ちに形を与えるっていうか、関係性を明確にするっていうか……そうか。あなた達、家族になるのね」
家族?
「「……」」
あたしとパイセンは顔を見合わせて、あたしは変な気持ちになったんだけど、パイセンはどうだったろう?
彩ちゃんもそうだけど、パイセンとは、2人でいても苦にならない。クッションになる誰かがいらない。
他にもそういう人がいないわけではないけど、みんなかなり年上だ。理由は分かる。出来上がった大人である彼らが、あたしに気を遣ってくれているからだ。
彩ちゃんやパイセンも、あたしに気を遣ってくれている。でも、散々だったC4Gなんかと違うのは、あたしの方でも気を遣っているところだろう。
そしてそれが、苦にならない。というか、彼女達のために何かをするのを、楽しくも思っている。
これは……家族というのは、もしかしたらそういうものなのかもしれない。
考えてみれば、彩ちゃんやパイセンに対するあたしの態度は、光へのそれと似ている。ということは、光があたしの最初の家族ということになるのだろう。
ああ、それから――
「あんたもね」
さんごを撫でると、可愛くも憎らしい異世界から来たこの猫は、でんぐり返しの途中みたいなポーズになって、あたしを見つめるのだった。
「ふにゃん」
というわけで、あたし達の禁欲生活も来週で終わりだ。彩ちゃんが光と結婚して一線を超えるまでは、あたし達も一線を超えた行為はしないという約束は――一度は、パイセンによって破られてしまったわけだけど。
「じゃ、来週までってことでリスタートね」
「……はい! 今度こそ」
と、グータッチするあたし達に。
「がんばれ~」
小田切さんが、パチパチと足の裏で拍手してエールを送るのだった。
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